渾身の6年間。片野坂知宏監督、万感の思いの中に大分での任を終える
前日の天皇杯決勝の余韻もまだ冷めやらぬ12月20日午後、昭和電工ドーム大分レセプションルームにて、片野坂知宏監督の退任会見が行われた。
指揮官の退任会見が行われるケースは珍しく、そのこと自体にクラブが片野坂監督に寄せた信頼の厚さが感じられる。冒頭に榎徹社長は指揮官とともに就任した6年前を「J3優勝と若手育成を両立して欲しいと無理なことを言った」と振り返り、その2年後のJ1昇格などの功績を称えるとともに、今季については「クラブの力不足を感じた」と総括。「考えながら走る」「大きな目標をみんなで共有し、自分が出来ることを全身全霊でやったのならそれはきっと達成できる。出来なかったときは何かが足りなかったときだ」という指揮官の選手たちへ向けての言葉を、社長としての組織マネジメントにも生かせると紹介したあと、「クラブとしてなかなか十分なバックアップが出来ない中、最大値を出してくれたと思っている」と“指揮官用語”を引き合いに、その6年間の仕事を労った。
続いて片野坂監督からの挨拶。いつもそうであったように、まずは謙虚なスタンスで余すところなく周囲への感謝を丁重に述べた。渾身で過ごした6年間を振り返り、今季途中の勝てなかった時期には自ら進退伺いを立てたことにも言及。「その中で、榎社長と西山GMは、わたしを信じてくれました」と言ったときに感極まって涙がほとばしり、ペロッと舌を出しながら「すみません、シャッターチャンスじゃないので」と笑いを取る一幕も。2017年J2第41節・徳島戦でJ1昇格の可能性を断たれたとき、号泣しながら「撮らないでください。みじめなので」と言った記者会見が、見事な伏線になっていた。
あらためて今季の戦績を「いまも泣いているが残念で悔しい」としながら、降格決定後の公式戦4試合について「素晴らしい試合だった。わたしの力ではなく選手とスタッフが目の前の試合に対してトリニータとしてどういう思いで戦わなくてはならないかを感じ、それをピッチで表現してくれた」と評価。「この4試合はわたしの中で忘れられない4試合になる。来季に向けての自信になるゲームだった。選手の成長、スタッフの強さ、周りのサポート、いろんなものを感じることが出来たし、本当にしあわせな時間を過ごさせていただいた」と感謝を示した。
最高の結果である天皇杯優勝を遂げられなかったことについては「やっぱりサッカーの神様は簡単に勝たせてくれない。そういう甘いものじゃないと突きつけられた」。とはいえ、決勝のピッチを経験できたことは選手たちにとって必ず今後への財産になる。ただ、財産であってはならず、それをどういうふうに今後の成長に生かしていくかが大事だともメッセージを送る。
「指揮を執らせていただき本当にしあわせだったと思います。本当は笑って泣いてチームを去りたかったですけど、今年にかぎっては悔しい思いばかりで非常に悔いが残りますが、この大分での6年間、わたしは決して忘れることはないし、この6年間を大事に、次のステップに進んでも、監督としての成長、人間としての成長、さらにサッカー界に、そして監督としてもいい影響を与えられるように、しっかりと精進して大分を退任したいと思います。本当に6年間ありがとうございました」
報道陣からの質疑応答タイムを経て、最後にニータンから花束を贈呈されると「ニータンの総選挙での順位は超えられなかったけど、超えられるように頑張ります」と笑顔に。榎社長からは6年間の功績をまとめた写真パネルをプレゼントされた。
報道陣の拍手に送られながら会場をあとにした指揮官。J3転落からの復活や天皇杯準優勝という戦績ももちろんだが、この6年間に大分に残してくれたものは、有形無形を含めそのほかにも限りない。このあとトリテンでは、退任会見の質疑応答で明かされたものも含め、いくつかのエピソードや語録を、追って届けていきたい。