チームの可能性を感じさせた、リーグ戦とは異なるチャレンジ。残念な敗退も次に繋げたい

直近のJ2第6節H藤枝戦から中2日、先発全員を入れ替えて臨んだカップ戦。そこで繰り広げられたのは、リーグ戦とは異なる風景だった。チームはこのポテンシャルを今後にどう繋げていくか。
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戦力の特長を生かすビルドアップチャレンジ
試合後に敵将・志垣良監督も「相手の戦い方が想定していたのとは違っていた」と振り返った。
「われわれのホームで戦った時は縦に速いサッカーを展開されていたが、今日は清武選手も入ってきて、中盤の4人の立ち位置が捕まえづらかった。WBがわれわれのSBを釣り出すという展開もあったので、相手のコースを消しながらコンパクトにしてプレスを掛けるという話をした」
直近のリーグ藤枝戦から先発11人全員を入れ替えて臨んだ、ルヴァンカップ1stラウンド第1回戦・山口戦。10日前にリーグ第5節で対戦したばかりだっただけに余計に、その戦い方の差異が意表を突いた部分もあったのかもしれない。
この試合で大分は、足元の技術が高く間でボールを受けるのを得意とする選手たちを並べた。これまでリーグ戦では縦方向の速さや対人守備の強度を優先的に戦ってきた中で、出場機会の少なかった戦力たちだ。3バックの中央に位置取った大卒ルーキーの宮川歩己はこれが公式戦デビュー。ベンチにも今季初メンバー入りの顔ぶれが並んだ。
そのラインナップで披露したのは、山口のプレッシングを剥がしながら後ろからボールを繋いで前進していくサッカー。もともと片野坂知宏監督が得意としてきたスタイルでもある。この日ピッチに並んだ選手たちの特長を生かすかたちで、指揮官はリーグ戦とは異なるスタイルで山口に挑んだ。

成熟不足によるミスやノッキングが惜しい
やはりピッチで特別な存在感を放ったのは清武弘嗣だった。視野を広く持ち、いろいろなところに顔を出しながら局面を展開して攻撃を組み立てていった。10分にはその清武のスルーパスから鮎川峻がシュートしてチェ・ヒョンチャンに防がれる。
その後もサイドチェンジやスルーパスなどを多彩に織り交ぜながら攻撃回数を増やし、神出鬼没の池田廉や連係からゴールを目指す松尾勇佑など戦力個々のストロングも光ったが、このスタイルで戦う経験値の少なさからか、スムーズさやスピードアップの面でどうしても物足りなく、意思のズレからパスが繋がらない場面も散見された。CKのチャンスも複数得たが、相手に掻き出されてしまう。
徐々に山口も守備を修正してリズムを掴み直すと、15分には宮吉拓実が反転シュートして枠の左へ。宮吉は16分にもクロスに頭で合わせたが、これも枠を捉えきれなかった。だが、31分、山本桜大が相手陣でボールを奪ってシュートすると末永透瑛が右足で軌道を変えて山口が先制に成功する。大分は36分に池田がペナルティーエリア内からシュートするが相手にブロックされ、香川勇気のミドルシュートも枠の右へと逸れた。

立て続けの失点で一時は3点ビハインドに
山口は宮吉を古川大悟に代えて後半をスタートする。それぞれのスタイルでせめぎ合う中、62分には両ベンチが同時に動いた。大分は鮎川をキム・ヒョンウ、茂平を薩川淳貴、有働夢叶を小酒井新大に代えて池田をシャドーに上げ、小酒井と松岡颯人のダブルボランチとする。山口は野寄和哉を横山塁、池上丈二を田邉光平にチェンジした。
67分、相手スローインの流れから2失点目を喫する。末永のクロスを峰田祐哉が競り、古川にヘディングで決められた。68分には大分が疲労した清武に代えて木許太賀をピッチに送り込むが、そのわずか1分後に背後を取られて山本桜にクロスを上げられ、またも古川の頭でゴールネットを揺らされる。立て続けの失点で3点ビハインドとなり、戦況は厳しくなった。山口は70分、末永を奥山洋平に交代する。
相手のCKを粘り強く跳ね返す中、75分、片野坂監督は宮川を屋敷優成に代えてフォーメーションを4-4-2に変更。屋敷とキム・ヒョンウの2トップに木許が右、池田が左。ダブルボランチは小酒井と松岡のまま、最終ラインは右から松尾、戸根一誓、香川、薩川の並びとした。

ヒョン&優成弾。太賀は2連続アシスト
同時に山口も峰田を板倉洸に代えて守備を強化するが、4バックに変更して追撃の勢いを増した大分はすぐに1点を返す。相手陣で激しい守備からボールを奪った屋敷のパスを受け、この好機を逃さずキム・ヒョンウが仕留めた。さらに80分には松尾のパスを受けた木許が送ったクロスに、難しい角度ながら屋敷が左足で合わせて1点差に詰め寄る。
俄然勢いづいた大分は同点を目指してなおも追撃。CKやFKでも好機を築くが、山口も集中した守備で跳ね返す。アディショナルタイムは7分で、あとひと押しという雰囲気まで追い詰めたが、佐藤隼も参加してのパワープレーも実らず、ルヴァンカップは2-3で敗退となった。
公式戦でまたチームの底上げをする機会を失ったことを片野坂監督は試合後会見で悔やんだが、同時に、この試合に出場したメンバーのトライと経験については前向きに捉えている様子も見せた。屋敷やキム・ヒョンウら、いい感触を匂わせながら小さな怪我でチャンスを逃していた選手たちが、ようやく公式戦のピッチで躍動できたことも収穫と言える。
清武という逸材を擁し、他にもポゼッションを得意とする戦力を多く抱えながら、リーグ戦の事情もあってなかなか彼らのポテンシャルを生かせずにいる現在。戦術の幅を広げていきたいと指揮官は言うが、佐藤は「失点しなければ、あるいは勝てていれば」と唇を噛み、「相手のプレスが速い中で逃げずにビルドアップにトライしたことが今日の成果。今後も良さを伸ばしていい準備をしていく」と誓った。彼らの成長がチームの幅を広げ力を高めていくことは疑いようがなく、今後のチームの戦い方が注目される。
