互いの長所を消しあってのスコアレスドロー。悪くない感触と、今後への課題と
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見る者によってさまざまに感想の分かれた試合だったかもしれない。片野坂知宏監督も試合後の会見で「負けずによかったと思うのか、勝ちきれなかったと思うのか…わたしの中では後者のほうが強いと、いまは感じている」と、いまひとつ歯切れの悪いところを見せた。
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いわきのストロングを出させない組織的守備で優位に
いわきの開幕・千葉戦は0-2で敗れこそしたものの、相手の4本を大きく上回る18本のシュートを放ち、多くの時間帯で相手を圧倒した内容だった。千葉がアグレッシブなプレッシングでスペースを与えたためにいわきのストロングポイントを引き出す展開になったこともある。それを踏まえてか、この日の大分はミドルブロックをベースに要所で潰しに出る守備で、いわきの勢いを削ぐように試合に入った。
いわきとしてはポゼッションすることで大分を引き出しスペースを作りたかったはずだ。だが、大分がその誘いに乗らずにいたため、いわきはブロックの外側でボールを動かす時間が多くなった。いわきのアンカーに配置されていたのはこの試合がJデビュー戦となる203cmの18歳、木吹翔太。その不慣れな足元に狙いを定めてボールを奪ったり、𠮷田真那斗やペレイラが相手とのバトルに競り勝ったりしながら、大分が優勢な流れを作っていく。
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優勢に進めながら決定機を決めきれず
一方のいわきは大西悠介をマークにつけて天笠泰輝の配球を阻み、有馬幸太郎には枚数をかけて潰しに行った。ただ、大分に個の局面で上回られたりセカンドボールへの反応で後手を踏んだりする中で守勢に回ることが増え、ボールを持ってもパスコースを消されたり足元を狙われたりしていることで、攻撃でもいつになく持ち前の積極性を発揮することが出来ずにいた。15分にはスローインの流れから堂鼻起暉がそらして谷村海那がヘディングシュートでネットを揺らしたが、オフサイドでゴールは認められず。前半の大きなチャンスはそれくらいで、あとは攻めあぐねる様相となる。
そんな駆け引きの中で複数の好機を築く大分は、23分に左サイドでボールを収めた池田廉からのパスを有馬が受け、エリア内に進入してマイナスのクロスを送ると有働夢叶が頭で合わせたが、早坂勇希に正面でキャッチされた。29分には濵田太郎のゴールキックを𠮷田が競り勝って前へ送り、拾った有働が持ち込んで右足を振り抜くもポストに弾かれる。35分にはペレイラが独力で相手を剥がし決定機を迎えたが、シュートは枠上に逸れた。
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前への勢いを増したいわきに押し下げられた後半
前半はすっかり精彩を欠いていたいわきは、後半、両サイドを高く上げ、ボランチも強気の立ち位置を取って背後への勢いとスピードを増した。50分には鵜木郁哉のクロスから大西がシュートし、濵田が好セーブでしのぐかたちに。53分にはゴール正面でのFKに右CKのデザインプレーとセットプレーから立て続けにチャンスを迎えたいわきだが、いずれも鵜木のシュートは枠を捉えきれなかった。
いわきに押されてラインの下がった大分は前半とは一転、ボールを奪う位置も低くなり、カウンターの距離も長くなる。背後の広大なスペースへと蹴り出すシーンが増え、ボールは選手たちの頭上を越えて空中を飛び交った。62分、片野坂監督は疲労した池田に代えて今季初出場の野村直輝をピッチに送り込む。野村がボールを収めて落ち着く時間を作ってくれればという意図の見える交代だったが、いわきの勢いに飲み込まれるように、大分はその狙いをなかなか表現することが出来ない。63分にはスローインの流れから天笠が大きくゴール前へと送り、𠮷田が右足で合わせたが無情にもポストに阻まれた。
64分には田村雄三監督が木吹と柴田壮介、熊田直紀と加藤大晟。71分には片野坂監督が茂平を宇津元伸弥、有働を鮎川峻にそれぞれ2枚替えする。いわきはさらに74分、山下優人を久永瑠音に代え、WBの左右を入れ替えた。
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相手につきあって大味なゲームに
それでも決定機は大分のほうが多く、77分には𠮷田がカウンターからシュートを放ち、柴田にブロックされる。81分には鮎川のパスを受けたペレイラのシュートがサイドネット。
激しい攻防が続く83分、いわきは鵜木に代えてブワニカ啓太を投入し、前線に高さとパワーをかけて勝点3を狙いに出た。大分はそれに集中して対応しながら攻め返し、クロスを送るがこちらもいわきに対応される。最後はかなり大味な展開となり、ともに精度を欠いたまま試合はスコアレスドローで決着した。
ホームでは特に相性のよくないいわきとの戦いで勝点1を積めたことをポジティブと捉えるか、相手の倍の8本のシュートを放って勝ちきれなかったことを悔やむか。結果に関しては評価が分かれるところだ。ただ、ひとつ言えるのは、後半の戦い方について。いわきが前に出てきたことでスペースが生まれたが、大分はそれを自分たちの得意なかたちで使いながらボールを前進させることが出来なかった。片野坂監督は「もう少しわれわれもボールを握ったり相手の守備を剥がしたりする攻撃の動かしが出来たらいいなというところがあったのだが」と言い、選手たちも口々にもっと落ち着いてボールを繋げればと口にした。
いまはまだ試合に絡んでいない面々にも、落ち着いた試合運びや足元のテクニックに長けた戦力が控えている。彼らが頭角を現してくればチームとしての引き出しも増え、試合展開によって戦い方に変化をつけることも出来るようになるだろう。野村もようやく公式戦のピッチで天笠らとコミュニケーションを取り、試合後に「負けずにゲームを進めることは出来ているので、最初はそこが大事。やりながら手札を増やしていけるのは今季のチームのポジティブなところ」と話した。
このチームのポテンシャルを存分に引き出すには、もう少し時間がかかりそうだ。
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