組織的守備起点の戦法がハマる。アユPK弾&真那斗プロ初ゴールで7戦ぶり白星
超攻撃的な藤枝に対し、5-4の守備網を張るところから入ったゲーム。その狙いがハマり、さらに交代策でも流れを手繰り寄せて2得点完封勝利。今季ホーム3勝目で勝点3を積んだ。
試合情報はこちら
守備で我慢の大分、攻撃で我慢の藤枝
こちらはJ3降格圏と勝点4差。藤枝もJ1昇格プレーオフ圏まで勝点4差で、互いにそれぞれの目標達成に向けてなんとしても勝点3を積みたいシチュエーションでの、ひりひりするマッチアップだった。
須藤大輔監督仕込みの「超攻撃的エンターテイメントサッカー」が練度をますます高めている藤枝に対し、片野坂知宏監督は5-4のブロックを組んでその流動的な攻撃を封じる策に出た。3分には鮎川峻が抜け出し、8分には髙橋大悟とのコンビネーションから吉田真那斗がクロスを送るが、その後は安藤智哉を中心に矢村健や千葉寛汰の裏狙いもケアしながら、藤枝のパスワークに網を張った。
しばらくは大分の牙城攻略に手をこまねいていた藤枝だが、徐々にゴールに迫る回数を増やすと決定機を築きはじめる。矢村には立て続けにシュートを許すが14分には小酒井新大が体を張り、15分のCKからの流れは髙橋が掻き出し、23分にはペレイラ、25分には安藤が体を投げ出して防いだ。
狙いどおりのカウンターからアユPK弾で先制
33分には山原康太郎の意表を突くミドルシュートに見舞われるがムン・キョンゴンが手を伸ばしてポストを叩くにとどめる。39分にも大曽根広汰のクロスを受けた千葉にシュートされ、安藤がブロックした弾道はクロスバーに当たって枠の手前に落ち命拾い。前半の6本の被シュートのうち1本でも決まっていれば違う展開になっていたに違いない。
一方で大分も当初の狙いどおりに、奪ってからのカウンターを繰り出してゴールに迫るシーンを作る。35分には左の野村直輝、右の吉田からクロスを供給していずれも惜しいながら中で合わせられず。38分には野嶽惇也がシュート性のクロスをゴール前に送り、髙橋が詰めていたが北村海チディに防がれた。
忍耐ヴァーサス忍耐という戦況が続いた前半が終わろうとする頃、この試合の最初の大きな展開が訪れた。43分、小酒井のスルーパスに抜け出して独走する鮎川を追走する山原が、耐えきれずエリア内で鮎川を倒す。すでに37分に池田廉を倒してイエローカードを提示されていた山原は、これにより2度目の警告で退場となり、藤枝は残り時間を数的不利で戦うことになった。
44分、鮎川がPKを沈めて先制に成功。前節終了後に「残り試合でとにかく点を取る」と宣言した鮎川は2戦連続弾でその約束を継続した。
1点リードして相手は10人。どう戦う?
藤枝は久富良輔を鈴木翔太に代え、4バックシステムに変更して後半をスタート。立ち上がりは大分が優勢に攻めた。鮎川のシュートがブロックされ、右CKからの吉田のヘディングが枠の右に逸れ、吉田のクロスがファーに流れたところからの野嶽のシュートが枠上へ。56分にも鮎川のシュートが新井泰貴のブロックに遭うなど積極的に攻め続けた。
その戦況をひっくり返すべく、須藤監督は65分、世瀬啓人と大曽根広汰を河上将平と前田翔茉に2枚替え。藤枝にハイプレスの勢いと背後を狙う動きが増え、大分が押し込まれはじめる。1点のリードではひとつのミスで追いつかれてしまう、そんな雰囲気が立ちのぼった。
この時間帯、大分は追加点を取りに行くのか1点を守るのかの意思疎通が少し曖昧になっていたようだ。その意識をひとつにまとめるメッセージも込めながら、片野坂監督は68分、髙橋を宇津元伸弥に交代する。67分には野村と野嶽のコンビネーションで左サイドを攻略し、最後は小酒井がシュートしてクロスバーに阻まれる。70分には藤枝が梶川諒太に代えて浅倉廉。74分には野村が前に出ていた北村の背後を狙ってロングシュートを放ったが、戻った北村のファインセーブに掻き出される。
交代が分水嶺に。真那斗の大きな追加点
次の1点を巡って両軍の駆け引きが続く、拮抗した展開。片野坂監督は75分、3枚替えに踏み切った。野村を長沢駿に、鮎川を屋敷優成に、そして小酒井を怪我から復帰した今季初出場の町田也真人に。須藤監督も76分、シマブク・カズヨシをウエンデルに交代する。
1人少なくなった中での交代が、本来の藤枝のスタイルとは異なる戦い方へと繋がり、それがやや大味な印象のものになってしまったように感じられた。逆に大分は交代選手がそれぞれの特長を生かし、再び徐々に試合のペースを手繰り寄せる。
そんな中、待望の追加点をものにした。相手陣で吉田が相手のパスを引っ掛けると、そのこぼれ球を宇津元が整えて出したところを拾ってゴールへと爆進。勢いよく振り抜いた右足からの弾道は北村を強襲したが、サボることなくそのこぼれ球に詰めた吉田は2発目に逆足で仕留める。待望のプロ初ゴールが、揺れていた天秤を大きく大分側へと傾けた。
「匙加減」の最適解に近づいてきたか
88分、片野坂監督は野嶽に代えてデルランを投入。香川をアウトサイドに出して守備を固める。藤枝に焦りが見える中、屋敷のチェイシングや町田の落ち着き、長沢の高さも生かした献身性が光った。
アディショナルタイムは6分。それが尽きようとする頃、香川勇気が自陣から前線に送ったボールを屋敷と激しく競り合っていた中川創が、得点機会阻止によりレッドカードを提示される。アグレッシブなエンターテイメントサッカーの完成度を高め続けている藤枝だが、試合運びの拙さが露呈した。
スコアはそのまま2-0でタイムアップ。大分は7戦ぶりの白星で、今季ホーム3勝目を挙げ、残留争い生き残りを懸けた大きな勝点3を掴んだ。
前節対戦した横浜FCとはスタイルの異なる好調の相手に対し、それぞれに対応するかたちで「いい守備からいい攻撃」戦法を繰り出して勝点4を積んだチーム。シーズンを通じて負傷者が絶えずチームのベースを築けずにここまで来たが、残留争いが佳境に差し掛かり、片野坂監督が戦術家としての側面を強く出すようになったことで戦い方が一気に整理された印象だ。プレシーズンから「自分が指示すると選手がそれしか出来なくなってしまうから」と指示を最小限にとどめてきたが、野村や野嶽ら経験豊富な選手たちが中心となってチームの規律とピッチでの肌感の匙加減を調整しているように見える。
長期離脱からの復帰組も選手層に厚みをもたらしながら、残り5試合。18位・栃木がいわきと引き分けて勝点1を積んだため、勝点差は6となっている。