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試合レポート

2万人超を湧き上がらせた劇的勝利。全員で戦ってダービーを制す

 

前節から戦術を変え相手対策も施して臨んだバトル・オブ・九州。苦しい時間帯を乗り越えて辿り着いたのは、「亀祭」に集まった大観衆の心を掴む劇的逆転勝利だった。

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今節は初先発ヒョンが頂点の3-4-2-1

クラブが総力を挙げて挑んだ「亀祭」。無料招待事業に頼らない一大集客プロジェクトは、ビジターサポーター約2000人の力も借りて、結果的に2万8359人が来場。両ゴール裏が圧巻のコレオグラフィーで入場する選手を迎え、それぞれの主義やスタイルでの応援合戦を繰り広げて、ダービーらしい最高の雰囲気の中、試合はスタートした。
 
5-3-2のミドルブロックから相手の背後を狙った前節の山口戦とは異なり、今節は初先発のキム・ヒョンウを頂点に、その下に野村直輝と鮎川駿を並べてハイプレスを仕掛ける3-4-2-1。熊本の3バックとアンカーの上村周平によるビルドアップに制限をかけながら、ショートカウンターのチャンスも狙った。熊本は相手のプレスをかいくぐってあるラインを越えると前線のタレントがスピーディーに動きながらゴールを目指す。その前にボールを奪いたかったが、4分には早速、シュートを放たれた。個人技で右サイドを突破した唐山翔自のシュートはムン・キョンゴンが弾き、そのこぼれ球からの岩下航のシュートは保田堅心がブロックする。
 
徐々に熊本がボールを握る時間を増やす中、大分も粘り強く守備対応しながら、攻撃へと切り替えればスペースを突いて前進し、互いに決定機を築く。15分には古長谷千博のパスをエリア内で受けた石川大地に体の強さを生かしてシュートされるがムンが掻き出した。20分には大分がコンビネーションで右サイドを崩したが、ペレイラのキム・ヒョンウへのクロスはわずかにオフサイドに。
 
32分には野村の右CKにニアで吉田真那斗が合わせたが、田代琉我のファインセーブに掻き出された。43分には藤井皓也にシュートされて枠の上。いずれも決定機で仕留めることが出来ず、試合は0-0で折り返す。

 

積極性を増した大分が攻める後半

ともに交代なくスタートした後半立ち上がり、立て続けにゴールを脅かしたのは守備の積極性を高めた大分だった。47分に相手の背後へのボールに対する野嶽惇也の守備から中川寛斗が右に展開し、吉田真那斗の野村へのパスでCKを獲得。48分、保田の右CKに合わせた安藤のヘディングシュートは豊田歩にクリアされる。50分には相手陣で野村のプレスからボールを奪い、最後は保田がシュートして江﨑巧朗にブロックされた。51分、保田の左CKのこぼれ球を狙った鮎川のシュートも、さらにそのこぼれ球からの吉田のシュートもゴールを割るには至らない。
 
58分には熊本がビッグチャンス。巧みなパスワークで右サイドを突破すると藤井のグラウンダークロスをフリーで収めた豊田がシュート。これは吉田が咄嗟に足を出して防ぎ、ことなきを得た。59分には背後へのボールを収めた唐山のパスを受けて石川が右足を振ったが枠上に逸れる。
 
大木武監督が先に動き、65分、藤井に代えて神代慶人。トランジションが活発さを増していた69分、不運なかたちで失点した。自陣で相手のポゼッションに構えて対応していた中、岩下のスルーパスに抜け出した古長谷のクロスを掻き出そうとした安藤のクリアがオウンゴールに。コーチングの声が聞こえない大観衆のスタジアムでありがちな連係ミスでもあった。

 

追撃の3枚替えが攻撃を活性化

片野坂知宏監督は74分に3枚替え。キム・ヒョンウを伊佐耕平に、野嶽を宇津元伸弥に、野村を髙橋大悟に交代した。ビハインドになったことで、堅実にプレーしていた野嶽と代わった宇津元は高い位置を取りはじめる。伊佐が強度を生かして起点を作り、フレッシュな3枚が攻撃を活性化した。76分には大木監督が大本祐槻を黒木晃平、古長谷を松岡瑠夢に2枚替えする。
 
78分には保田の左CKの流れから分厚い攻撃を仕掛け、最後はペレイラの左足シュートが枠の右へ。ここでプレーが切れたタイミングで、足を痛めた藤原優大に代わってデルランが左CBに入った。
 
入場者数がオーロラヴィジョンに映し出されると、スタジアムからどよめきが起きた。試合開始から走り続けていた保田はその数字を見て心が奮い立ったという。おそらく他の選手もそうだったか。ここから大分の追撃のギアがもう一段階アップする。
 
81分、伊佐のしつこい守備からセカンドボールをデルランが収め、保田が一度は相手に倒されながらもすぐに立ち上がって鮎川とパス交換しながら中央突破。だが、鮎川のコースを狙ったシュートは惜しくもポストに弾かれた。熊本は石川に代えて大﨑舜を投入する。

 

希望を繋いだ堅心のCK直接弾

運動量が落ちた熊本は大分の勢いを受け、やや守備の意識へと軸足のずれた感触があった。だが、押し込んでいた84分、セカンドボールを拾われたところから熊本のカウンターが発動。攻め残っていた大﨑がボールを収めてゴールを目指し、唐山も並走してくる中、対応するのは吉田とムンのみ。失点必至かというピンチだったが、吉田が判断よく体を投げ出して大﨑のシュートを掻き出した。
 
86分、ムンからのフィードを高い位置で受けた宇津元がライン際で粘ってクロスを供給し、左CKをゲット。これがチームに希望をもたらす同点弾へと繋がる。
 
コーナーに立ったのはそれまでも何本か密集に向けてCKを蹴っていた保田。「ふんわりしたボールをGKにパンチングされていたので」と、この場面では球質を変え、少し速い弾道を送った。するとこれが直接ゴールへと吸い込まれ、スタジアムが沸いた。熊本に対し「高さで分がある」と竹中穣ヘッドコーチが練った策が、見事に結実したかたちだった。
 
ここから熊本も再び勝点3を目指す。88分、片野坂監督は中川を小酒井新大にチェンジした。

 

ゴールへと向かう矢印。最後はペレの逆転弾

どちらに転ぶかわからない最終盤。89分、熊本に攻め込まれる中、唐山のシュートに安藤が体を張る。90分、またも鮎川とのワンツーでドライブする保田が江﨑に倒され、相手陣中央でFKをゲット。髙橋の放った弾道はピンポイントで安藤に合ったが、ヘディングシュートは田代に押さえられた。
 
アディショナルタイムは6分。90+2分には宇津元がボールを収め伊佐がシャペウで相手を剥がして前に運ぶと、託された保田が逆サイドに展開。ダイレクトで放った吉田のシュートも田代に正面で処理される。
 
互いに浮き球を前線へと送りあう、殺伐とした争い。その中で保田が個人技で相手のファウルを誘い、自陣でFKを獲得した。ムンの送ったフィードを右サイドで競り落としたのは安藤。ペナルティエリア角にいた伊佐がそれをワンタッチでゴール前へ送ると、中央で収めたのは黒木を背負っていたペレイラ。強固な黒木の守備の、そして全員の意表を突いて、ペレイラが選択したのは右足でのヒールシュートだった。決してオシャレなものではなく、体をガードされた状態で泥臭く不器用に足を振ったかたちだったが、さすがの田代もこれには反応できず、ボールはゴール左隅へと転がり込み、土壇場での決勝弾となる。
 
クラブスタッフが渾身で準備したスタジアムイベントもお膳立てに、大観衆が湧き上がった劇的な逆転勝利。これぞエンターテイメント、というかたちで、チームはようやく今季ホーム2勝目を挙げた。複数得点は追いつかれて2-2で終わった第15節の愛媛戦以来。シュート数も16本を記録し、ここ最近の攻撃の閉塞感をひとまず払拭できた手応えがあった。
 
自分たちのスタイルを表現して相手を凌駕した試合では決してない。そのことにも言及しつつ、指揮官は「こういう拮抗したゲームをしぶとく勝利に繋げ、また自信をつけながら、自分たちが目指したいフットボールを、90分の中で体現できるようにしていきたい」と試合後に語った。この勢いを次に繋げられれば、浮上への道筋が見えてくる。