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試合レポート

挑みに挑み、耐えに耐えて10試合ぶりの白星。劇的決勝弾はヒョンウのプロ初ゴール

 

新しい、しかし原点に立ち返ったような戦いぶり。成熟途上のスタイルで挑み、耐える時間も長くなったが、その挑戦と忍耐が、最後に劇的な勝利を引き寄せた。

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巧みに前進した立ち上がり

トレーニングで取り組んだとおり、前節から採用する3-5-2システムで、相手のプレスの様相を見極めながら巧みにボールを前進させた立ち上がり。ひさしぶりに大分のサッカーを見たという印象を受ける中、3分には安藤智哉が相手のゴールキックを跳ね返して前線に送ったセカンドボールを渡邉新太が拾い、GKの背後を狙ってロングシュートを放つ。シュートを打つ、ゴールを狙うという意識を牽引するかのような積極的な姿勢を、まずはキャプテンが示した。
 
球際や切り替えでいわきを上回った13分には立て続けにチャンス。野村直輝が宇津元伸弥の裏抜けを促した浮き球は相手にクリアされたが、守備に戻った安藤がすぐさま攻撃へと切り替えて高い位置で起点を作り、宇津元、渡邉と繋いで逆サイドでフリーになっていた吉田真那斗がシュート。相手にブロックされたが、スピーディーでシームレスな攻撃だった。さらにその流れから右サイドで組み立て、ペレイラのパスを受けた渡邉が強烈なシュート。これはクロスバーに弾かれた。31分には中川寛斗の右からのクロスがクリアされたところを相手陣逆サイドで安藤が拾い、野村に預けたタイミングで中川が斜めに走り込んでくるなど、高い位置で活発にボールが動く攻撃が続く。

 

背後を狙ってくるいわきに少しずつ苦戦

だが、いわきは前々節と前節の連敗の経験も踏まえてか、大分の守備から攻撃への切り替えを受けてか、徐々にパスを繋ぐ意識を潜め背後への長いボールを増やした。オフサイドになることも多かったが、前半の終盤には大分が攻め込まれるシーンが多くなる。38分には左右からのクロスを吉田がクリアし、そのこぼれ球を西川潤に狙われてゴール前でブロック。さらにこぼれ球をフリーにしていた谷村海那にシュートされたが、ムン・キョンゴンの正面で命拾いした。
 
40分には大分のチャンス。ムンの藤原優大へのパスがインターセプトされそうになるピンチをしのぐと、自陣中央でボールを受けた長沢駿が野村に落とし中川が吉田へと展開。吉田のクロスの先には長沢が走り込んでいたがわずかに合わせきれなかった。ただ、組み立てに参加した長沢がゴール前まで顔を出せた攻撃は、ひとつの狙いの体現でもあった。
 
いわきの積極的にゴールに向かうスルーパスやクロスにもムンが落ち着いて対応し、少し相手の勢いも感じながら前半はスコアレスで終了する。

 

後半はいわきに主導権を握られる

大分は前半の早い時間帯にペレイラと接触していた吉田を木本真翔に代えて後半をスタート。真那斗アウト真翔インの交代は、木本がそのまま右サイドに入った。
 
49分には相手のゴールキックを跳ね返しに前に出ていた藤原が、巧みな足技で相手を剥がし攻め上がるシーンも。だが、後半に入るといわきは大分のボールの動かしに対しプレスを修正して強度を高め、インテンシティーの高さで大分を上回りはじめた。
 
52分にはセカンドボールを拾われたところからスピーディーに前進され、谷村にシュートを許して、中川が体を張った。53分にも自陣でボールを奪われてのショートカウンターにさらされたが、谷村のパスに合わせた有馬幸太郎のシュートはクロスバー。こぼれ球を拾った加瀬直輝のシュートは枠上に逸れた。
 
56分には相手のゴールキックを跳ね返して押し込む状況を作っていたが、相手陣でボールを奪われると被カウンターに。ペレイラと野村がなんとかクリアしたが、やはりいわきのカウンターのスピードと迫力は脅威だった。

 

終盤にはオープンな展開上等で勝負

62分には田村雄三監督が西川に代えて棚田遼。66分には渡邉が高い位置での激しい守備でボールを奪い、宇津元がゴールネットを揺らしたが、オフサイドだった。
 
67分、片野坂知宏監督は藤原に代えてデルランを入れ、安藤をセンターに移す。同時に渡邉に代えて鮎川峻を投入する。70分には中川と木本の関係で右サイドで起点を作り、ハーフレーンを攻め上がったペレイラがクロスを送ったが立川小太郎にキャッチされた。70分にはいわきが加瀬に代えて大迫塁。大迫が左WBに入り五十嵐聖己が右へ移った。さらに76分には石田侑資に代えて近藤慶一。近藤が最前線に入って有馬が右WB、五十嵐が右CB、大森理生が左CBと細かく選手の配置を変更した。77分には自陣でボールを失い、近藤に収められて棚田にシュートを撃たれるが枠上へ。
 
77分、片野坂監督は前半から献身的に走り疲労した長沢に代えてキム・ヒョンウを送り込む。マルチタイプのキムではあるが、やはりゴールに向かう意識が強く、試合はぐっとオープンな展開へとシフトしていった。81分には足を攣らせた中川を保田堅心にチェンジ。この交代によって、大分もダイナミックさを増しながら、攻め合いの中でチャンスを手繰り寄せていく。

 

ヒョン待望のプロ初ゴールが決勝弾に

82分には宇津元のFKの流れからの2次攻撃で、宇津元が頭で落としたところを保田が狙って枠の上。83分には右サイドを崩され、山口大輝のクロスから谷村に美しい抜け出しからのヘディングシュートでゴールネットを揺らされたが、これもわずかにオフサイド判定となった。
 
互いに1本ずつのクロスバー、1本ずつのオフサイド。湿度90%のピッチでのタフな戦いは、少しずつ精度を欠きながらも、10試合ぶりの白星を掴みたい大分と3連敗を避けたいいわきの死闘に。5分のアディショナルタイムに突入してもカウンターでの攻め合いは勢いを落とさない。
 
そんな90+2分、ついに大分が先制点を挙げた。相手陣中央でボールを受けた保田が鮎川と連係しながらボールを運び、フリーのペレイラに展開。ペレイラが逆サイドに走り込んで呼んだ鮎川へと送ったクロスを鮎川が頭で叩きつけるようにキムの足元に落とすと、キムは見事なワンタッチシュートでゴールネットを揺らした。
 
諦めずに追撃するいわきをデルランのクリアなどで退けて、大分がようやく10試合ぶりに勝利を掴んだ。決勝点はキムのプロ初ゴールだ。復帰して間もなくまだ短時間しか100%のパワーを出せないであろう鮎川や、戦術理解度や周囲との関係性ではまだ他のFW陣に遅れを取っていたルーキーのキムを、オープンな展開に強い保田とともに終盤に起用することで生まれた一発。彼らをもっと早い時間帯から投入していれば、ポゼッションの隙を突かれて失点していた可能性もあり、あれがギリギリのタイミングだったのかとも思える。
 
新しい、しかし原点に立ち返ったような戦い方で、ようやく手にした勝利。完成度はまだまだだが、勝って修正していけるのは非常にポジティブだ。