スクランブルな布陣での対山口戦術は奏功も、好機少なくスコアレスドロー
怪我人とコンディション不良者が相次いで、今節はスクランブルな陣容となった。山口の特徴的なスタイルへの対策は上手く機能したが、相手の守備も堅く、熱戦はスコアレスドローで終了した。
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チーム事情と対山口戦術を上手く噛み合わせた準備
負傷した茂平がメンバー外で、今週、発熱した渡邉新太も先発を外れた。今節、長沢駿と2トップを組んだのは宇津元伸弥。ここ最近、宇津元が配置されていた左SHには野村直輝が、野村が入っていた右SHには中川寛斗が陣取った。茂に代わって右SBには保田堅心が入り、攻撃的でよく得点機を演出する相手左SBの新保海鈴とマッチアップする。
そういうスクランブルなチーム事情と対山口戦術を巧みに組み合わせたな、というのが前半の印象だった。ここ数試合の大分は可変的な立ち位置を取りながら戦っており、それにある程度の手応えも感じていたのだが、今節はそれをせず、異なる戦法で挑んでいた。
おそらく山口にとっては奇襲となったはずだ。前線からのプレッシングと攻撃時の左肩上がりの可変が特徴的な山口だが、ここ数試合の大分をスカウティングして準備したプレスが大分のポゼッションにハマらず、立ち上がりにはやや戸惑いも見えた。大分は野村と中川が中でゲームを組み立て、長沢も相手のボランチ脇に下りたり新保の背後を狙ったりと、細かい工夫を発揮する。
山口は、前節はコロナ感染により欠場していた梅木翼が今節は元気に先発。前節途中で負傷した相田勇樹に代わってボランチに入った佐藤謙介が梅木へのホットラインを狙ってくるとともに、左の新保、右の野寄和哉が推進力を生かした。
狙いがハマって相手を上回った前半
狙いがハマった中で8分、宇津元が絶好機を迎える。藤原優大のフィードに抜け出し、対応に出てきた相手2人と上手く入れ替わることに成功すると中央に走り込んでシュート。だが、1対1の局面は体を張った関憲太郎に防がれた。
サイドの仕掛けやロングスローからチャンスを築く山口だが、安藤智哉と藤原が高さと強さで対応。保田も粘り強く新保とのマッチアップに挑んだ。29分には佐藤のクロスに梅木が頭で合わせて枠の右。37分には佐藤のFKを梅木が落とし新保がクロスを狙ったがサイドネットを揺らすにとどまった。
43分には宇津元の左CKの流れから弓場将輝が狙うが相手にクリアされ、そこから野寄と若月大和によるカウンターが発動。最後は田邉光平に反転シュートを打たれたが、こちらも素早い帰陣でゴール前を固めており、野嶽惇也がブロックした。
相手が守備を修正してからはセカンドボールを拾いづらくなり相手のチャンスも増えたが、内容的には大分が圧倒。ここ最近の戦い方とは異なるやり方でも、フレキシブルにやれているという印象の前半になった。
ストロングをより明確に打ち出してきた後半の山口
山口は佐藤を池上丈二に代えて後半をスタート。これは予定どおりの交代だった。開始早々、キム・ボムヨンのフィードを藤原が跳ね返し、弓場がスペースの中川へと繋いだが、中川のシュートは枠を外れる。
52分には山口の左SH河野孝太が負傷し、山本駿亮と交代。53分には池上から梅木へのボールを濵田太郎が押さえる。54分には大分が押し込んでいたところから若月のカウンターを受けたが、預けた梅木からのクロスは若月に合わず。
大分はハーフタイムに、宇津元が3バックに変形した相手の右脇を狙い長沢をゴール前に入らせるようにとタスクを変更していたのだが、それがなかなか形にならないうちに時間が経過。
気温26.8°C湿度44%、暑い陽射しと乾燥したピッチに選手たちの疲労が見える61分、両ベンチが同時に2枚替えに動いた。大分は中川と長沢をベンチに下げ、渡邉と伊佐耕平を投入。渡邉と伊佐の2トップに、宇津元が左SH、野村が右SHの配置となり、ここからは前節までと似た形で立ち位置を取るようになった。山口は野寄を吉岡雅和に、若月を末永透瑛に、そのままチェンジする。
ベンチワークも白熱してのスコアレスドロー
ピッチ上でもベンチワークでも細かい駆け引きが続く中、64分には伊佐とのワンツーから保田のシュートが枠の上。65分にはドリブルで前進してきた吉岡を藤原が堰き止めた。互いに攻め合い潰し合う堅い展開の中、67分に大分に再びビッグチャンスが生まれる。藤原のクサビを伊佐が展開し、保田がダイレクトに前線へと送る。狙いどおり新保の背後へと抜け出した野村のクロスには渡邉がしっかり走り込んでいたのだが、接触のリスクも厭わず飛び出してきた関にガッチリと押さえられ、シュートは打てなかった。
70分には山本のシュートを濵田が掻き出す。相手にゴール前まで迫られセットプレーのピンチも増えてきたタイミングで、77分、片野坂知宏監督は野村をペレイラに代えるとシステムを3-4-2-1へと変更する。最終ラインは右から安藤、ペレイラ、藤原。右WBに保田、左WBに野嶽。宇津元を頂点に伊佐と渡邉をシャドーに並べる形で、機動力を生かして山口のギャップを突きに出た。
だが、早くもその2分後に志垣良監督も動く。田邉を板倉洸に代えると前貴之をボランチに上げ、3-4-2-1にしてすかさずミラーゲームに持ち込んできた。終盤になると山口がゴールを狙う場面を増やす。大分は87分、宇津元を梅崎司に、藤原をデルランに交代。デルランがシンプルに前線に送って好機を狙うが、梅崎のクロスは相手に掻き出される。6分のアディショナルタイムにも山本のシュートを濵田がキャッチして、いずれのゴールネットも揺れないままで試合は終了した。
4戦連続の+1。+3に繋げていくために
終わってみれば大分のシュートは2本のみ。相手のシュートも7本で、全体に堅い試合になった。ゴールを脅かす場面が少なく、スコアも動かなかった試合は、多くの観客にとっては退屈なゲームに映ったかもしれない。
ただ、ピッチとベンチでは目まぐるしい駆け引きが繰り返されていた。対山口戦術を一体感をもって遂行できたことには、一定の手応えが感じられた。一方で、相手の堅守をこじ開けるには至らなかった攻撃に関しては、さらなるブラッシュアップが必要だ。
負傷者が多くゲームプランが限られてしまうところが最大の難点で、その台所事情を考えれば、好調の山口を無得点に抑え、その連勝を3でストップしたことはひとつの成果だったと言える。積んだのは勝点1だったが、愛媛戦のように勝点2を逃しての引き分けとは異なる。4戦連続で1ずつを積み上げており、順位はひとつ上がった。大敗や大勝も散見される乱気流気味の今季J2において良くも悪くも安定感がある現状を、今後に繋げられるかどうか。
本気で欲しい勝点3。それを得るためには地道な積み上げが必要だ。この山口戦ではチームとしての積み上げが見えただけに、もうひと踏ん張り、ひとりひとりがギアを上げていきたい。