戦い方を見つめ直した原点回帰の一戦。アグレッシブさを取り戻しダービーを制す
不完全燃焼だったここ3試合を受け、もう一度チームスタイルを徹底して挑んだ大事な一戦だった。アグレッシブさを取り戻したチームが貫いた攻撃的な姿勢は、劇的な勝利を呼び込む。
試合情報はこちら
立ち返る場所を確かめる大事な一戦
GWのはじまりを飾る、熊本との九州ダービー。大分ゴール裏を埋め尽くした3500人のサポーターが試合前から激しい応援でホーム側サポに対抗して雰囲気を煽る中、ピッチでは好ゲームが繰り広げられた。
ともに3試合未勝利同士。4戦ぶりの白星を、どちらかが掴むのか、あるいは引き分けに終わるのか。いずれも思うように結果が出ていないが、連敗もしていない。殺伐とした戦いの続くリーグ戦において、ここから巻き返して上位に食い込んでいくためには絶対に落としたくない中位同士のマッチアップだった。
特に大分にとっては、ひとつの正念場だったと言える。ここ3試合は勝利から遠ざかっていただけでなく、今季から取り組んでいる新たなスタイルを表現できずに消化不良な内容が続いていた。それを受けて前節を終えてからは、あらためてチームスタイルの要点を整理し共有。立ち返る場所を確かめる意味でも、大事な一戦だった。
キックオフ直後から、果敢にハイプレスを掛け合う両軍。球際に人数をかけながらスピーディーで流動的なパスワークによりゴールに迫る熊本に対しては、守備網の緩みが命取りとなるが、大分もリスクを恐れずにチャレンジし、隙を生まないようにスライドを繰り返した。
狙いどおりのカウンターから野村、会心の先制弾
とはいえゼロトップの熊本は厄介だ。豊田歩からのクサビを受けた藤井皓也を小酒井新大が倒してFKを取られる。8分、上村周平が直接狙った弾道は枠を捉えていたが、濵田太郎が掻き出して事なきを得た。だが、11分、裏に抜け出す藤井に対し安藤智哉が質の高いカバーリングを見せたところで、その前に相手と競っていた香川勇気が負傷。プレー続行不可能となり、早くも15分、茂平と交代しなくてはならないアクシデントに見舞われた。茂は最初は左SBに入るが、間もなく野嶽惇也と左右を入れ替わる。
ひとつ剥がされれば次々にズレが生じて瞬く間にゴールへと迫ってくる熊本に対し、大分も相手が球際に寄せてくる背後を巧みに突いて前進。上手くサイドから崩す場面も作り、ここ3試合の内容を払拭するような積極的な姿勢を表現した。
その姿勢が結実したように24分、先制に成功。押し込まれた状況からセカンドボールを拾った野村直輝が長沢駿に当て、その落としを藤原優大がワンタッチで前線へ。転々とした浮き球を攻め残っていた渡邉新太が叩き、駆け上がってきた宇津元伸弥に託す。宇津元は相手を引き連れて持ち上がりながら並走する長沢を飛ばして奥の野村へとパス。走り込んできた野村の右足トラップが決まり、振り抜いた右足から放たれたシュートは豪快にネットを揺らした。
9分後に追いつかれて再びイーブンに
一方の熊本も黙ってはいない。スペースを使ってボールを動かし伊東俊がドリブルで大分を押し下げたところから最後はリーグ戦初先発の藤井が個人技を交えて31分、自身のプロ初ゴールを挙げて同点に追いついた。
33分には相手のパスを長沢が高い位置で引っ掛けたところから攻め返し、茂のクロスに長沢が頭で合わせたが枠上へ。41分にはスペースからスペースへと縦パスを繋がれて松岡瑠夢にクロスを入れられ、濵田がジャンプしてキャッチした。45分には裏に抜け出した松岡に、安藤が体を投げ出して対応。前半アディショナルタイムにも伊東が自陣から爆速カウンターで持ち上がってきたが、弓場将輝が負けずに走って前に体を入れ圧巻の対応。ピンチの芽を摘み、だがこちらもチャンスで仕留めることは出来ずに1-1で試合を折り返した。
後半立ち上がりには大分が立て続けに好機構築。47分、茂からの落としを受けた野村のクロスに宇津元が飛び込むが惜しくも合わず。ファーに流れたボールを拾った野嶽惇也がもう一度ゴール前に送るが、渡邉もわずかに届かなかった。両サイドから攻めた直後の48分には安藤のクリアを長沢が落とし野村がスルーパス。宇津元が仕掛けたが相手に阻まれてシュートには至らない。
だが、その後は次第に熊本ペースへと傾いた。55分には竹本雄飛にシュートを放たれたがCKに逃れ、57分には自陣で伊東に奪われ藤井にシュートされるが枠の左へ。
オープンな展開の中、流れを手繰り合う采配合戦
初夏の陽射しが照りつけ上昇する気温が時間経過とともに体力を削る中、もとより相手の隙を突いて素早く攻め合っていた試合は、さらなるオープンな展開へと傾れていった。66分には大分が相手を押し込んだが、野村のパスを受けた宇津元のシュートは大きく枠上へ。
両軍選手に疲労が見える中、66分に片野坂知宏監督が先にカードを切った。渡邉を伊佐耕平に、宇津元を松尾勇佑に2枚替えすると野村を左SHに移し松尾を右に配置する。68分には大木武監督も松岡を道脇豊、竹本を三島頌平に交代。伊東を前線に上げ、三島が右WBに入った。
70分には弓場のクリアボールを上村が直接ミドルシュートしてわずかに枠の右。71分には茂が体をひねって前に送ったボールを野村がスルーパス。抜け出した伊佐はボールを収めたが味方の上がりが間に合わず、角度のないところからシュート。ニアを打ち抜こうとしたが田代琉我に阻まれ、こぼれ球を拾った松尾のシュートも枠を捉えきれなかった。
76分、熊本は伊東に代えて大﨑舜。186cmの道脇と189cmの大﨑、スピードも誇るツインタワーで得点を狙う。大分も伊佐や松尾らの途中出場組がオープンな展開の中で勢いを醸し出し、戦況は一進一退。80分には伊佐がボールを収めて野村のスルーパスに弓場が走り込んだが、わずかな差で相手に対応された。大﨑のクロスを濵田がキャッチし松尾のスルーパスに伊佐が合わず、どちらに転ぶかわからないゲームは最終局面へと突入する。
83分にピッチに立った梅崎司が勝利を引き寄せた
片野坂監督の最後の交代は83分の2枚替え。長沢に代えて梅崎司、小酒井に代えて保田堅心。熊本ベンチからは即座に豊田が保田をマークする旨であろう「26」と「21」のパネルがピッチの選手たちへと提示された。85分には大木監督も2枚替え。岩下航を藤田一途、藤井を神代慶人にチェンジして、両軍は最後の勝負に出る。
暑さの中で迎えた試合終盤、選手たちの動きが重くなっている中、それでもともに前への意識を絶やすことなく攻め合いは続く。87分には黒木晃平のクロスが中で合わずに流れ、89分には藤原のクサビを伊佐が受け梅崎がシュートして相手にブロックされた。
だが、この梅崎のシュートで得た左CKが、運命の決勝点を呼び込む。90分の梅崎の左CKは田代に掻き出されたが、セカンドボールを拾った松尾のパスをカウンターに切り替えようとした大﨑のトラップがハンドとなった。均衡を保っていたダービーマッチは、分水嶺となり得るクライマックスを迎える。
キッカーは梅崎。田代との心理戦を制し、落ち着いて放たれた弾道はゴール左隅を揺らした。アディショナルタイム5分にして、90+1分の勝ち越し。熊本の猛追を粘り強く跳ね返し、最後は相手陣右サイドでスローインで粘りながら逃げ切ると、大分が劇的な勝利をものにした。
「原点回帰の大事な試合だった」と試合後に西山哲平GMもほっとした表情。自分たちのスタイルを見失うことなく挑んだ一戦で、勝利という結果が出たことが大きかった。「それでもまだまだ質を上げていかなくては」。これを機に仕切り直し、チームは一歩ずつ浮上を期す。