急造布陣で120分戦って113分に失点。若手の公式戦出場という収穫は得たが…
北九州とのダービーは2015年以来。ミクスタでは初の対戦だった。若手が多く出場して経験を積んだ側面もあるが、敗戦を成長の糧に繋げられるか否かは個々の当事者次第というところもある。
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厳しい台所事情の中、狙いを持ってスタート
リーグ前節・横浜FC戦から中3日、さらに中3日でアウェイでのリーグ第3節・藤枝戦を控えてのルヴァンカップ1stラウンド1回戦・北九州戦。負傷離脱者多発中のチームはリーグ戦とは戦力を大幅に入れ替え、特別指定選手2名を加えた若手を多く起用して試合をスタートした。
4-2-3-1の頂点は長沢駿。トップ下に走力のある松岡颯人を配置したのは長沢とともに前線から激しくプレスをかけ続ける狙いだったと思われる。ボランチには攻守のバランスが取れクサビも期待できる羽田健人とテクニカルな小酒井新大。左SHには特別指定のドリブラー・木本真翔を配置した。急造布陣ではあったが、長沢を頂点に置いている時点でチームとしてやるべきことははっきりしている。戦力が限られた中、短い期間で最善の準備を施した感が見て取れた。
蓋を開けてみると北九州のフォーメーションは予想とは異なる3-5-2。プレシーズンのトレーニングマッチやこれまでのリーグ戦2試合は4-2-3-1で行っており、それを踏まえての準備が裏をかかれた感じになった。そんな相手の“奇襲”に対して片野坂知宏監督がテクニカルエリアから細かく指示を送り続けたことで、選手たちはそれほど迷わずにプレーできたようだった。北九州のほうも短期間で準備したようで、それほど完成度が高かったわけでもない。
両軍に若い選手が多く出場している中で、最初は互いに長沢と永井龍のベテランFWが存在感を発揮する展開に。ともに献身的に守備に走り、下りて組み立てに参加する。そこで起点を作れるかどうかの勝負だったが、結果から言えばともにチームとしてそのベテランの献身性とポテンシャルを生かせない試合となった。
それぞれ好機は築きながら決め手に欠ける展開
序盤は大分が優位に試合を進めたが、相手の帰陣も早く、クロスを入れても跳ね返されたりGKにキャッチされたりの繰り返し。24分には右サイドから攻略して松岡と松尾勇佑がエリア内に進入したが、相手に阻まれる。26分にも右サイドを起点に相手を押し込んだところから最後は松岡が右足を振るがシュートは枠上へ。
次第に北九州も狙いどころを定める。小酒井と松岡が一列ずつ落ちて西川幸之介を加え、相手のプレスを誘いながらビルドアップしていた32分、ペレイラから有働夢叶へのパスがズレたところで乾貴哉にインターセプトされ、平原隆暉にシュートされるが枠の左。逆に34分には松尾が相手陣で引っ掛けてボールを奪い、持ち上がってシュートまで行くが、枠を大きく上に逸れた。逆に43分にはペレイラから羽田へのパスがミスになりショートカウンターを受けるが、相手のクロス精度不足に助けられる。
0-0で折り返した後半立ち上がり、大きなピンチ。48分、小酒井が永井にボールを奪われ、平原に運ばれてクロス。有働も見ていたようだったのだが乾に飛び込まれてヘディングで合わせられ、わずかに右に逸れて命拾いした。53分には長沢のスルーパスに松岡が抜け出したが、相手の寄せもあって時間を作ることが出来ないままゴール前にグラウンダークロスを送り、誰も飛び込めずに田中悠也に押さえられる。
試合を決めきれずリーグ戦メンバーが徐々にピッチに
互いに相手のミスを狙いつつミスマッチを突きあう攻防が続く中、先に動いたのは大分ベンチ。60分に羽田と松尾をベンチに下げ、宇津元伸弥と野嶽惇也を投入した。野嶽が右SBに入り有働が一列前、宇津元は長沢と2トップの立ち位置を取り松岡と小酒井のダブルボランチになった。18分には小酒井の展開を受けた野嶽が早めに長沢目掛けてボールを送り、長沢がスルーした背後で宇津元が胸トラップからゴールを狙おうとしたが打てず。65分には野嶽のクロスのこぼれ球を小酒井がミドルシュートしたが枠は捉えきれなかった。
68分には増本浩平監督が井野文太を井澤春輝に、永井を渡邉颯太に2枚替え。その1分後、岡野凜平のクロスのコースに入った薩川淳貴がハンドを取られるが、岡野のFKは宇津元が跳ね返し、もう一度送り込まれたクロスは西川がキャッチした。
一進一退の戦況の79分、松岡と木本に代わって保田堅心と弓場将輝が登場。保田は小酒井とボランチを組み、弓場がトップ下、宇津元が左SHに移った。80分には北九州も平山駿を156cmのドリブラー高橋隆大に交代する。次第にオープンな展開になりつつ攻めあうが、85分に岡野のFKからの流れを大分がクリアしきれず北九州も決めきれずと、ともに精度を欠きながら、試合は0-0のまま延長戦へと突入した。
均衡が破れたのは一瞬の隙から
延長戦にもつれ込んだことで交代枠が1枚増え、ここからのベンチワークにも注目された。94分には北九州が平原を坪郷来紀に交代。大分も98分に小酒井を藤原優大に代え、藤原が右SB、野嶽が右SH、有働がトップ下という立ち位置になった。両軍の交代選手や配置転換はそれぞれに奏功しながらも、相手の集中した守備に阻まれたり重なる疲労により精度を欠いたりして決定機には繋がらない。
延長前半アディショナルタイムのCKのチャンスも押し込めず、PK戦が見えてきた延長後半。疲労の中で高橋の高速ドリブルへの対応が後手に回りがちになる。108分には高橋のドリブルで運ばれ井澤のクロスに飛び込んだ乾のヘディングシュートも西川が押さえ、その2分後にも高橋に運ばれた。
そして113分、失点。中盤のなんでもない競り合いの中から乾にアーリー気味のクロスを上げられ、デルランがカブった背後で薩川も止めきれず渡邉にヘディングシュートでネットを揺らされた。
すぐに大分ベンチは薩川に代えて安藤智哉。有働を左SH、宇津元を右SHに移しデルランを長沢との2トップにしてパワープレーで追撃を試みるが、相手も117分に岡野を伊東進之輔に代え、守備を固める。直後に安藤のフィードをデルランが競り、さらに長沢が落としたところに宇津元が決定機を迎えたが、右足シュートは田中に阻まれ、大分はどうしてもゴールを奪えない。
攻撃の連係とクオリティーを高める必要
結局、終わってみればシュートはわずか5本。うち枠内は最後の宇津元の1本だけだった。長沢を120分ピッチに置いていながら、そのストロングポイントを生かすことが出来ず長沢のシュートは0。献身的なポストプレーもそこからの繋がりを作れず、フィニッシュ周りのクオリティーに関しては非常に残念な内容となった。
守備やデュエルに関しては強度もあり、見応えのあるゲームは出来ていたが、たとえ急造布陣ではあってもチームで共有している戦い方をベースにそれぞれが気を利かせて繋がりを作り、組織らしさを打ち出していかなくてはならない。さらにこの試合に先発出場したメンバーはもっと根本的な部分で個々のプレー精度を高めなくては、タフなJ2を生き残っていくことは難しいだろうと思わせられた。
初めてのミクスタでの試合、“お隣”との九州ダービーとあって、大分からのみならず全国から多くのトリサポがスタジアムに駆けつけた中、ルヴァンカップは1回戦敗退。この試合の審判団のうち3人は審判交流プログラムによって招聘されている、カタールW杯の日本対クロアチア戦でレフェリングを務めた面々だったことなどトピックも多い試合だったが、とにかく結果が伴わなかったことが悔やまれる。
また、90分で試合を決定づけることが出来ずリーグ戦出場メンバーも多く駆り出したことで、週末の藤枝戦への影響も懸念される。特に今季唯一の得点を挙げている長沢が120分プレーしており、その疲労回復は急務だ。