ヴェールを脱いだ「シン・カタノサッカー」。選手の個性を生かしつつドロー発進
初陣は1-1のドローだった。逆転勝利にまで持ち込みたかったが、選手の個性を生かしたゲームプランもハマり今後に期待の持てる内容だったと言えるのではないか。
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まずはメンバー選考とゲームプラン
キックオフ約2時間前にメンバーが発表された1時間ほど後、急遽、先発メンバーが変更となった。体調不良のためGKが西川幸之介から濵田太郎に。ベンチにはムン・キョンゴンが追加された。
負傷者が多く選択肢が限られた中から、片野坂知宏監督とコーチ陣は先発11人とサブ7人を選抜。選手の個性とコンディションを踏まえ、組み合わせを考え抜いて、90分のゲームプランと合わせて選ばれた18人だった。先発には若く勢いのある、プレシーズンにもよく走っていた選手たちが多く並ぶ。渡邉新太、香川勇気、野村直輝が彼らをリードすることに期待された。ベンチには経験値の高いメンバーが多く控えたが、中には怪我明けやコンディション向上中でフル稼働は難しそうな選手の姿も。そして複数ポジションでプレーできアクシデントの穴埋めにも期待できる特別指定選手の有働夢叶も、ベンチ入りした。
昨今の戦術トレンドの中では、トランジションが活発で個の特徴や能力があらわになるゲームになりがちだ。さらに仙台は新体制で開幕戦でもあり、出方が読みづらい。その中でスタートは前への勢いと走力を生かし、カードを切って戦いの幅を広げながらギアを上げていくプランであることが、スカッドから透けて見えた。
仙台のほうは強度の高いターゲットとなる中山仁斗を1トップ、そのそばにプレー精度が高く機動力のある中島元彦。左右SHにはスピードと推進力のある相良竜之介とオナイウ情磁を配置し、経験豊富なボランチ長澤和輝の相方はリーグ戦初出場の工藤蒼生となった。郷家友太やエロン、鎌田大夢のベンチスタートは少し意外だったが、その印象は片野坂監督も同じだったようだ。
「ちょっと僕は逆かと思っていて。仙台さんが、まずはプレス回避のポジションを取ってくるような、郷家選手とかを使ってくるんじゃないかと。実際に発表されたメンバーを見て、スタートから勢いをつけていきたいのかなというメンバーだと思った」と試合後に明かしてくれた。
出足早く強度の高い仙台に先制を許す
そんな駆け引きの妙もありながらの14時キックオフ。立ち上がりから互いに勢いを醸し激しくぶつかり合う中で、仙台は出足も早くシンプルで迷いない入りを見せた。大分もアグレッシブにデュエルに挑み、一度はボールを奪うのだがそこからのパスが相手に渡る場面が多い。開幕戦特有の緊張からなのか、特に若手のプレーが硬く、野村がキープして落ち着かせたり香川が丁寧に味方に落としたりとベテランたちが支えながら時折、相手陣でボールを動かす形も作るのだが、構える仙台の守備は今季も堅固だ。
最初のシュートは4分、スローインの流れからセカンドボールを拾った仙台の石尾陸登。これは濵田が正面で危なげなく押さえた。大分は5分、松尾勇佑と弓場将輝がボールを奪ったところから右サイドを崩し抜け出した松尾がクロス。野村が飛び込んだがシュートは林彰洋にキャッチされる。6分には仙台、オナイウのクロスに大外から相良が飛び込んだがシュートは枠上。7分には大分、長いボールを相手陣に送ってセカンドボールを拾ったところから渡邉、弓場とシュート性のボールを放ち最後は宇津元伸弥がゴール前で合わせたが枠を外れた。
互いにチャンスを作り合った中で、次第に球際や出足で上回る仙台がボールを収めて両サイドの推進力とトップの攻め残りで大分を押し込みはじめる。22分には相手のカウンターを止めるためにゴール正面からのFKを献上。中島のキックは濵田が横っ跳びで掻き出して事なきを得た。30分には相手陣でボールを奪って最後は渡邉がシュートするが枠の右。37分にはボールを奪って勢いよくゴールへと迫る相良を猛スピードで戻った保田堅心が阻み、ゴール裏を煽る。
激突する両軍の均衡が破れたのは40分だった。濵田のキックがオナイウに渡り、ドリブルで運ばれると最後は相良が相手のタイミングを外すテクニカルな右足シュート。大分も枚数はいたのだが機動力自慢の相手両SHにやられてしまった。45分には左から崩して宇津元がシュートするが枠の上へ。前半アディショナルタイムには保田が攻め上がって難しい体勢から強引に狙ったが枠は捉えきれず。
3枚替えから徐々に手繰り寄せた流れ
ハーフタイムに守備を修正して臨んだ後半。片野坂監督はハーフタイムでの交代も視野に入れていたが、スタッフと話してそのまま粘ることにした。もとより前半1失点は想定内だったという。指揮官は後半にギアを上げるプランで必ず挽回できると読んでいた。
49分には自陣で相手にセカンドボールを収められ相良にミドルシュートを許すが濵田がキャッチ。ロングスローで押し込まれたり、最終的にオフサイドにはなったがカウンターでピンチに陥ったりと仙台が上回る時間帯が続いた。
大分ベンチが動いたのは56分。ペレイラ、宇津元、松尾をベンチに下げて野嶽惇也、長沢駿、中川寛斗を送り込む。野嶽が右SBに入り藤原優大は本職のCBに移った。前線は長沢と渡邉の2トップに変更し、野村が左、中川が右へ。この3枚替えが奏功し、明確なターゲットが生まれると同時に右サイドが活性化。中央の藤原も自ら持ち上がってラインを上げつつクサビを供給するなど本領を発揮しはじめる。
流れが大分に傾いたところで63分、森山佳郎監督も2枚替え。疲労の見える長澤を鎌田に代え、相良を郷家に代えて郷家を右に、オナイウを左に配置する。70分には鎌田のドリブルから最後は郷家がシュートチャンスを迎えるが、香川が体を投げ出して阻んだ。仙台はさらに73分、石尾をマテウス・モラエス、中山を菅原龍之助に交代。最終ラインは小出悠太を右SB、髙田椋汰を左SBに移しマテウス・モラエスと菅田真啓の2CBという並びにして守備の強度を高める。
ギアアップのラストピースは一列前に入った薩川
76分には大分が4枚目のカード。弓場を下げて薩川淳貴を送り込む。薩川は左SHに入り、野村をボランチに落として鎌田とマッチアップさせ主導権を握りに行く態勢を取った。その形が落ち着く前に押し込まれた状態から中島にシュートされたがクロスバーが弾いてくれた。そのこぼれ球を狙った菅原のシュートも枠外へ。
激しいデュエルを繰り返してきた両軍は終盤に入りピッチもベンチワークも白熱。息詰まる攻防の中、ついに大分に得点が生まれた。スペースに落ちて藤原からのクサビを受けた中川が保田に渡し、保田がすかさず送ったスルーパスに抜け出したのは薩川。しっかりと中を見ながら運んだレフティーが丁寧に送ったマイナスのグラウンダーを、長沢が倒れ込みながら押し込んだ。「90分のゲームの中のより90分に近くなるときにギアが上がって盛り返して追いついて、さらにまたそこから追加点という勢いが出るようなプランで戦いたい」という指揮官の目論見どおりの、83分の同点弾だった。
互いに勝点3を取りたい終盤、ピッチ内はしばしばヒートアップ。87分には大分が野村に代えてプロデビューとなる小酒井新大、88分には仙台が中島に代えて遠藤康と、最後まで勝利を狙いに行く。アディショナルタイムは6分。90+1分には左サイドを抜け出した香川からのクロスに野嶽が入っていくがシュートは打ちきれず。その1分後、郷家のクロスは藤原が弾き返した。ピッチでは足をつらせる両軍選手が続出。最後は安藤智哉が前線に上がってパワープレーで勝ちに行ったが、スコアはそれ以上は動かずに1-1でタイムアップを迎えた。
「シン・カタノサッカー」の今後に期待
3シーズンぶりに大分のテクニカルエリアに立った片野坂監督は、1万6000人超の観客を集めたレゾナックドーム大分に感慨しきり。と同時に今日のタフな戦いを終え、「こういう勝負のゲームがあと37試合続くのだな」と、ひさしぶりの現場にあらためて気を引き締めた。
勝ちたかった思いと負けなくてよかったという思いが入り混じる中、今季はSBにも挑戦することになる藤原のSBスタートや濵田のJ2&大分デビュー、小酒井の公式戦初出場、有働のメンバー入りと収穫に繋がるトピックも多かった一戦。激しいプレッシングにはじまり選手が流動的に動きサイドも中央も使いながら素早くゴールを目指す「シン・カタノサッカー」の目指すところも見え、今後への期待も感じられた。
第1節の全体を見渡せばどこも難しい試合ばかりで、今季これからの荒波が容易に想像できる。ホーム連戦の次節の相手は“降格組”の横浜FC。開幕戦の緊張感も乗り越えたところで、次はもっと自分たちの標榜するフットボールを表現していきたい。