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試合レポート

最初に志した4-3-3で勝利。ラストゲームはまさに下平トリニータの集大成に

 

左サイドを起点に押し込み2点をリードした前半。相手の修正に少しペースを持っていかれた後半。さまざまな戦術的要素をきらめかせながら最後に勝ち切って、今季のラストゲームは勝利で終わった。

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「シモさんは毎回変えてくる」by 敵将

今季のチームのラストゲームで、下平隆宏監督による最後の指揮。J1昇格という目標は達成できなかったが、最後にファン、サポーターと喜び合って終わりたいと勝利を期して、チームはこの特別な一戦に臨んだ。
 
対戦相手の群馬は、こちらも指揮2シーズン目の大槻毅監督が落とし込んできた特徴的なスタイルを貫く。基本フォーメーションは4-4-2だが、ビルドアップ時には右SBがインサイドハーフ的な位置に上がって3-2-5のような立ち位置を取る。ボール保持時も3バックとダブルボランチが自陣深くに位置取っているので重心が低く、ロストしてもリスクが少ない仕組みだ。後ろの5枚でボールを動かし、相手のプレスを誘ってはロングフィードを前線に送る擬似カウンターが武器のひとつになっている。
 
それに対して下平監督は「不用意に奪いに行くと一発で背後を取られる危険性がある」と、4-3-3の中盤以降はフラットなゾーンディフェンスで対応した。大槻監督は試合後にその守備も含めて「大分さんは毎試合、やり方が変わる。今日のビルドアップに対する守備もそう。あそこで、こちらが見定めてやる時間がどうしても必要になる」とこぼしたが、大分の出方を見定めるとすぐに守備ブロックの大外で仕掛けたり、大分の最終ラインの隙を突いたりしようとしてきた。

 

完成度を高めた4-3-3で2点先行

ただ、前半に関しては実際には大分の左サイドのストロングが相手を上回り、ほとんどの時間帯でこちらが攻め込む展開となった。2分には藤本一輝のクロスに合わせた弓場将輝のヘディングシュートが枠の右。6分には高畑奎汰の左CKが相手に当たったこぼれ球を長沢駿が肩で押し込もうとしてクロスバー。10分には鮎川峻の、12分には保田堅心のシュートが櫛引政敏に阻まれる。15分にも弓場のヘディングシュートが櫛引に掻き出され、攻めながらなかなかゴールを割れない時間が続いた。
 
粘り強く攻め続けていた24分、ようやく先制に成功する。右サイドのローテーションからフリーになった野嶽惇也が、これぞ長沢の真骨頂を引き出すクロスという配球。きっちり合わせた長沢のヘディングシュートは櫛引の伸ばした手の上を越えて、ゴールへと吸い込まれた。
 
37分には渡邉新太のこの試合3本目のシュートが櫛引に掻き出されたところを弓場が押し込んで追加点。群馬が送ってくるロングフィードにはペレイラや香川勇気、保田らが対応し、弓場と渡邉もスペースを与えない立ち位置を取り続けて、相手にほとんど攻めさせずに試合を折り返す。

 

激しくプレスをかけてきた後半の群馬

群馬は杉本竜士を山中惇希に代えて後半をスタート。大分の左サイドをケアするように修正し、全体に激しく前からプレスをかける守備へと変更して流れを掴みに出た。
 
それによって群馬のポゼッション率が高まり、52分にはFKの流れから天笠泰樹がミドルシュートも枠の上。大分も負けじと54分には分厚い攻撃を仕掛けるが、群馬も水際で体を張ってそれをしのぐ。下平監督は60分、弓場を野村直輝、藤本を梅崎司に2枚替え。62分には大槻監督が佐藤亮を北川柊斗に交代した。
 
北川の圧が高く、大分がそれに押し込まれたところで、その北川の送ったボールがエリア内で香川に当たりハンドを取られる。64分、北川がそのPKを沈めて群馬が1点を返した。
 
67分には保田のシュートが、68分には野村のシュートが相手にブロックされる。勝利への思いをあらわにヒートアップする両軍。73分、下平監督は渡邉を中川寛斗、長沢を伊佐耕平へとチェンジして鮮度を保った。

 

パワーに押されつつ最後は逃げ切りに成功

74分には北川の強烈なシュートを西川幸之介がファインセーブ。79分には野村のクロスに伊佐が頭で合わせたが弾道はわずかに枠上に逸れた。80分、大槻監督は平松宗を髙木彰人に代え、さらに85分には天笠を畑尾大翔、川本梨誉を武颯に代えてパワープレーで追撃してきた。それに対し、下平監督は鮎川を下げて羽田健人を投入し、5バックで守備を固める。それでもなお攻める姿勢は損なわず、90分には高畑が個人技で左サイドを突破してクロスを供給するシーンも作った。
 
大分が逃げ切るか群馬が追いつくか、最後まで手に汗握る展開となったが、1万377人が来場したホームの雰囲気にも後押しされながら、大分が勝ち切った。これをもって今季の戦績は17勝11分14敗の勝点62で9位。下平監督のラストゲームを白星で飾った。

 

随所にきらめいた戦術的要素

「非常に手応えがあった。いまさらながら」と、この試合を最後に大分を去る指揮官は記者会見で笑った。本当は昨季、就任当初に落とし込もうとした4-3-3システム。開幕と同時にスタートした大型連戦の中で戦術浸透に時間がかかるのを待ちきれず、負傷者も多発して、この2年のあいだにチームの戦い方はさまざまに変遷した。
 
そのせいで特に今季はなかなか安定感のある戦い方が出来なかった印象だったが、ラスト4試合で思い切って舵を切り4-3-3での戦い方を落とし込むと、チームは一試合ごとにその完成度を高める。
 
今節、その戦いの中のさまざまな局面で、これまで試行錯誤しながらチャレンジしてきた戦術的要素が垣間見えた。香川のボール扱いからはじまり相手のプレスを見ながらのポゼッションや、サイドのローテーションで野嶽がフリーになった先制点のシーンに、中盤の流動性。逃げ切りのための5バックでの守備固めと、そこからのアタックの出て行き方。後半、修正してきた相手に少し押し込まれるところや、決定機の割に得点が少ないところも含め、まさに下平トリニータの集大成ともいうべきゲームだった。