ギリギリで残した希望。攻め続けて生まれたキャプテンの劇的決勝PK弾
今節も相手を圧倒しながら幾多の決定機を逃し、勝ちきれずに終戦かと思われた。だが、諦めずに攻め続けた後半アディショナルタイムに、その姿勢から劇的な展開が訪れた。
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先発5人を入れ替え、6分にアユ弾で先制
前節の栃木戦でも勝ちきれず、いよいよ窮地に追い込まれて臨んだ第40節・秋田戦。勝利してもライバルチームが勝点を積めばJ1昇格の可能性が刻々と狭まるというヒリヒリした状況下で、下平隆宏監督は今節、大胆に5人の先発メンバーを入れ替えた。
フォーメーションは前節から採用している4-3-3。下平監督自らが陣頭指揮を取って戦術を落とし込み、今節も対秋田戦術を浸透させた中で、よりポゼッションに特化したメンバーが選考された模様だ。ベンチにはこれまで先発出場してきた梅崎司や伊佐耕平、羽田健人、そして怪我から復帰した野村直輝と中川寛斗が並ぶ。
狙いどおりボールを握り、相手の守備を剥がして攻め込む立ち上がり。左サイドがコンビネーションと個人技を織り交ぜながら相手を攻略する中で、4分に高畑奎汰の左CKから長沢駿がヘディングシュート。叩きつけた弾道は枠の右に外れたが、キックオフ直後からのポゼッションが伏線となったかのような先制弾が6分に生まれた。最後尾でボールを持った香川勇気のフィードを長沢が落とし、それを収めた鮎川峻が相手に挟まれながら難しい体勢でゴールへと押し込む。
優勢に進めながらセットプレーから追いつかれる
9分には相手陣左サイドからの保田堅心のFKに長沢が飛び込み、ポストを叩く。ここでも得点は奪えなかったが、スタートから頂点に立った長沢は空中戦のターゲットとしてだけでなく、タイミングよく下りてクサビを受けるなど4-3-3システムの特長をよく生かした動きで存在感を発揮した。
同サイドに寄る傾向のある秋田に対し、幅を使いながら揺さぶりをかける大分が優勢に進める時間が続く中で、それでも得点を挙げるのが秋田の怖いところだ。19分、ハーフウェイライン手前で与えたFKから同点弾を仕留められた。小柳達司のキックを河野貴志が折り返し、ゴール前密集の中で収めた齋藤恵太が体を捻りながらシュート。早くもスコアは振り出しに戻される。
その後も大分はボールを握って攻め続けた。30分には藤本一輝の個人技で相手のゴール前守備網を掻き回すと渡邉新太がシュート。だが、圍謙太朗のファインセーブに遭い追加点とはならず。32分には野嶽惇也が中央を駆け上がって保田からボールを引き出しチャンスを演出したところからも相手を押し込んだ。
秋田は45分、テイシェイラとの接触プレーで飯尾竜太朗が負傷するアクシデント。急遽、三上陽輔と交代して左SHに配置し、才藤龍治を左SBに一列下げて対応すると、前半アディショナルタイムの大分の攻撃もしのぎ切って試合は1-1で折り返す。
後半はベンチワークも含めた激しい攻防
後半もポゼッションして相手を押し込む大分と、粘り強く対応しながらカウンターを狙う秋田の図式は変わらない。56分には左サイドの崩しから高畑が送った低いクロスに長沢が左足で合わせたが、これも圍に横っ跳びで掻き出された。58分には大きなピンチ。秋田にボールを持たれて動かされていた中で、人数をかけていた相手の左サイドから畑潤基にシュートを許す。わずかに右に外れて助かった場面だった。
ここからは両ベンチの采配合戦となる。61分、下平監督は弓場将輝に代えて野村を投入した。65分には早速、左サイドでのポゼッションから野村がインスイングのクロス。長沢のヘディングシュートは枠を捉えきれなかった。68分には吉田謙監督が畑を中村亮太、齋藤を梶谷政仁に2枚替え。70分には下平監督が藤本を梅崎、鮎川を松尾勇佑に交代する。
ロングスローやクロスを屈強な前線に送り続ける秋田の攻撃を、香川やペレイラ、テイシェイラがゴール前で跳ね返す回数も増えた。78分には渡邉を中川、長沢を伊佐にチェンジ。両軍が互いに得意のスタイルを貫きながら勝点3を目指す激しい攻防が続く。
好機を仕留めきれずアディショナルタイムに突入
81分には松尾のクロスに合わせた伊佐のヘディングシュートが相手にクリアされた。82分にはビッグチャンス。野村のクサビを伊佐が落とし、中川に当たったこぼれ球を拾った相手のバックパスが、ゴール前にいた梅崎の足元に流れる。だが、間髪入れず左足で放ったシュートは無情にもポストに阻まれた。
85分、秋田は青木翔大に代えて丹羽詩温。88分には梶谷に高速ドリブルでゴール前まで運ばれシュートを放たれたが、ペレイラが体を投げ出してブロックした。89分にはパスを繋いで攻め込んだところから最後は野村がシュートして相手に防がれる。90分には高畑のクロスのこぼれ球を野嶽がミドルレンジから狙うがこれも相手にブロックされた。
それによって得た梅崎の右CKの流れから松尾と香川が頑張りを見せてFKを獲得。アディショナルタイムは1点を得るにも失うにも十分な5分。このFKを梅崎が蹴るところから、劇的な終幕がはじまった。弧を描いたボールは相手に掻き出されたが、そのこぼれ球に反応した松尾が前に出ながら素早く左足を振り抜くと、そのシュートが至近距離でブロックに入った相手のハンドを誘う。
クラブの命運を背負った生え抜きキャプテンの覚悟
成功すればプレーオフ圏内争いにまだギリギリ食い下がれるし、失敗すれば今季の目標はここで未完を告げることになる。そんな重要な局面でのキッカーは、経験豊富な選手に託したい。野村はその大役を「ウメさんが蹴って」と梅崎に委ねた。
2005年に大分アカデミーからトップチーム昇格し、西川周作とともにクラブ初のA代表に選出された生え抜きのレジェンド。フランス2部・グルノーブルへの期限付き移籍を挟み浦和で10年、湘南で3年半を過ごして一昨年夏、13年半ぶりに大分に戻ってくると、昨季、下平監督の下で新たな戦術眼を得て今季はチームキャプテンを務めている。度重なる怪我や残留争いを乗り越えながら戦ってきた経験のすべてを、今季のラストスパートに注ぎ込もうとしている最年長。そしてこの試合は梅崎にとって、J通算350試合出場を果たしたひとつのマイルストーンでもあった。
「そういった局面になったら自分が蹴るんだという思いをずっと持っていて、昨日もそう考えていた。自分の思う価値、自分の望む選手像として、やっぱりあそこで逃げちゃいけない、自分が蹴るんだという思いを持っていたいし、実際にそれを実行できる選手でありたいので」
試合後にそう明かした梅崎は、練習からよく狙っていたという左隅ギリギリのコースに、しっかりと球を沈めた。わずかな残り時間、秋田の追撃を退けての劇的な勝利で、大分のJ1昇格の可能性はわずかながら次節以降へと持ち越されたことになる。