85分の悲劇に宿る魔物。チーム戦術を貫ききれずまたも勝点2を失う
ほとんどの時間帯を優勢に過ごしながら今節も追加点が取れず、疲労だったのかメンタル的なものだったのか両軍の選手交代のアヤだったのか、チーム戦術を貫ききれずに終盤に失点。またも勝てるはずだった試合を落とす痛恨の結果となった。
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奏功した可変システムで藤本の個人技が光る
中断期間を利用して落とし込んだ対栃木戦術。準備してきたものを存分に発揮できた前半だった。今節の基本フォーメーションは4-3-3。守備時にはアンカーの羽田健人が最終ラインに落ちて5-4-1となる可変システムだったが、前半は守備時のフォーメーションを確認する間もないほどに、ほとんどの時間帯で相手を押し込み続けた。
3分、デルランのフィードを前線で弓場将輝や伊佐耕平と協力しながら収めた藤本一輝が個人技でエリア内に攻め込んで右足シュート。U-22代表守護神の藤田和輝に阻まれたが、勢いあふれるスタートを切った。それで得左CKの流れから安藤智哉が放ったシュートは枠上へ逸れる。
その後も大分が栃木を攻め立てる時間帯が続いた。26分には相手の右CKから吉田朋恭にシュートを許したが、枠を捉えていた弾道はテイシェイラがビッグセーブして命拾い。29分には野嶽惇也がするすると前線に上がって安藤からのボールを引き出し右CKを獲得。梅崎司のキックに香川勇気がダイレクトで合わせたが、惜しくも枠の左へ。
押し込み続けたところから弓場が先制弾
37分には左サイドの丁寧なポゼッションからデルランが相手の背後へ抜け出した渡邉新太へと配球。絶好機となりそうだったが、栃木の守備陣もアラートさを維持しており、先に掻き出されてしまう。
だが、攻め続けていた中で39分、待望の先制点。左サイドから押し込んだところでブロックされて右へとサイドチェンジすると、野嶽のクロスを伊佐が相手と競り合い、そのこぼれ球を弓場が左足で仕留めた。この試合ではインサイドハーフとしていつもよりゴールに近い位置にいた背番号6は「浮き球が来たので被せることだけをイメージして流し込んだ」と試合後に振り返った。
出来れば相手が修正を施す前に追加点を取りたい流れだった。立ち上がりこそは前からプレスに来たものの、大分のポゼッションに剥がされると見るとリトリートに切り替えた相手に対し、ボールを保持しながら優勢に進める中で、43分には藤本が得意の切り返しで黒﨑隼人を翻弄しクロス。軌道には梅崎が入ったが、藤田に掻き出されてしまった。
相手のシステム変更にも対応できていたが…
ハーフタイムのロッカールームで下平隆宏監督が注意を呼びかけたとおり、栃木は後半からシステムを変更し、イスマイラの1トップから宮崎鴻との2トップで積極的にプレスをかけてくるようになった。それへの対応策も打ち合わせどおりで、後半立ち上がりも大分のペースが続く。
48分には左サイドの絶妙な崩しを伏線に藤本のスルーパスを受けた弓場のマイナスのグラウンダーに走り込んだ渡邉新太が勢いよくシュートを放ったが、これも藤田のビッグセーブに防がれた。その後も大分がボールを握り続け、セットプレーも含めて多くのチャンスを得る。53分にはCKの流れから相手のカウンターが発動したが、それも危なげなく阻止。55分には梅崎の右CKのこぼれ球を拾ってカウンターを仕掛けようとする西谷優希から渡邉がタックルでボールを奪うと自らエリア内に持ち込む場面も。相手に阻まれて渡邉のパスは通らなかったが、そのこぼれ球を香川が左足でゴール前に送り、攻め残っていた安藤が詰める形も作った。
だが、いずれもゴールには繋がらない。そこからいろいろな要素が絡み合い、少しずつ流れが相手のほうへと傾いていくことになった。
優勢に進める中で少しずつ相手へと傾く流れ
59分、西谷がボールを引き出そうとしたところでデルランのクリアしたこぼれ球を巧みに収めたイスマイラに右足を振り抜かれたが、弾道は枠の上。60分、カウンター気味に抜け出す弓場を大谷尚輝が手で引っ張って止めに入り、レフェリーのホイッスル。止めるならば得点機会阻止でレッドカード相当ではないかと選手たちは猛抗議したが、大谷に提示されたのはイエローカード止まりだった。
それによって得たFKは梅崎が右に開いていた野嶽に出し、野嶽がクロス。安藤が折り返してデルランが左足で狙ったが、ディフレクションあって枠外へと逸れた。
63分、時崎悠監督が大谷を高嶋修也、黒﨑を石田凌太郎へと2枚替え。ここから栃木が強みとしている右サイドの強度が際立っていく。イスマイラらも右サイドに流れつつ、大分の左サイドを徐々に圧倒。64分には攻め込まれたところをデルランがクリアしたが、佐藤祥に右足シュートを放たれる場面もあった。
68分には伊佐がボールを収めて起点を作り、まずは藤本がシュート。ブロックされたこぼれ球を梅崎が落として渡邉がシュートするがこれも相手に当たった。さらに梅崎が拾って弓場が繋ぎ、駆け上がってきた野嶽が抉って狙ったが、枠を捉えることは出来ず。70分には栃木の右CKからイスマイラに頭で合わせられたが、テイシェイラがガッチリと押さえてゴールは割らせなかった。
チーム戦術を貫けず相手の強みを引き出すことに
下平監督は71分、梅崎を鮎川峻、渡邉を池田廉にチェンジ。さらに73分には足をつらせた伊佐に代えて長沢駿をピッチに送り込んだ。同時に時崎監督は西谷に代えて髙萩洋次郎。さらに79分には宮崎を矢野貴章に、吉田をラファエルに交代する。中盤には高萩、伊藤、大島康樹が並び、前線はイスマイラと矢野の2トップとなった。
80分にはデルランが相手陣でイスマイラからボールを奪いロングシュートを試みたが藤田にキャッチされた。終盤になって栃木の圧が増し、疲労の見える大分は徐々にいい時間帯に見せていたようなポゼッションが出来なくなっていく。84分にはジャッジに異議を唱えた下平監督にもイエローカードが提示された。
相手のプレスを受けて長いボールで逃げるのは、相手の土俵に乗ることにもなる。疲労が蓄積したところへ相手に激しく圧をかけられ、立ち位置が取れなくなってとにかく前線にボールを送るのだが、セカンドボールを相手に拾われて攻め返されてしまう繰り返し。そして85分。ラファエルの長いクサビを佐藤が引き出してイスマイラが右に展開。石田が落としてラファエルがクロスを送ると大島がヘディングシュート。速い弾道にはテイシェイラも反応できず、試合終盤に痛恨の同点弾を許してしまった。
90+1分には藤本を高畑奎汰、羽田を宇津元伸弥に代え鮎川と長沢の2トップで勝点3を狙いに行ったが、最後まで攻め続けるも焦りが見えて雑になり、ことごとく相手に防がれてタイムアップ。J1昇格争いにおいて痛恨の勝点-2となった。