0-2からの力強い追撃。勝点3には届かずも今後に向けて掴めた感触あり
外国籍選手の迫力に圧倒されつつ、粘り強い攻略から2点ビハインドを追いついた。思い切った対長崎戦術の徹底と新たなチャレンジの裏に、何があったのか。
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テイシェイラ、J初出場を果たす
2オフ明け、長崎戦に向けてのトレーニングの初日から、下平隆宏監督はGK交代の可能性を示唆していた。ここまで苦しい中を戦ってきた高卒3年目の西川幸之介、出場機会が来なくとも日々真面目に腐らず練習に取り組むことで周囲からの信頼も厚い新井栄聡、相次ぐ負傷に苦しんだがシュートストップ能力に長けるテイシェイラ。三者三様の守護神たちのストロングポイントとウィークポイントをそれぞれに挙げながら、誰を選ぶかと頭を巡らせ、コーチ陣とも相談を重ねていたようだった。
その中で、長崎戦に向けて選ばれたのはテイシェイラ。187cm81kgの長身でどっしりと構える。あまり動かずにゴールマウスを守るタイプで守備に安定感は増すが、足元の技術はあまり高くなく、ビルドアップに参加する経験もない。片野坂知宏前監督時代から継続してGKを加えることで数的優位を作るスタイルを築いてきた中で、テイシェイラを起用すればそれを諦めることになる。
ただ、それと引き換えに、シュートストップの確率アップは期待できた。フアンマ・デルガドをはじめとする強力な攻撃陣を多く擁する長崎に対して、守備に課題を抱えていたチームは、攻撃時にテイシェイラを組み込まず、リスクを負わずに戦う選択をした。前線には調子を上げてきた長沢駿と、守備にも献身的に走り相手のロングボールの精度を削ることが出来る伊佐耕平を並べ、ボランチには保田堅心と羽田健人。自陣ではあまりボールを持たず、構えた相手を押し込みにいくあたりから、羽田が落ちて3バックを形成し、野嶽惇也と高畑奎汰の両SBが高い位置を取った。
理不尽なまでのフアンマの強さ
様子を見ながらだった試合の入りには長崎にボールを動かされる時間帯。11分にはセカンドボールをマテウス・ジェズスに奪われ、そのパスをフアンマが収めてカイオ・セザールが反転シュート。最後まで体を張り続けた守備陣の頑張りもあって弾道は右に逸れたが、外国籍選手たちの力量に圧倒されるシーンだった。18分にも増山朝陽のクロスからマルコス・ギリェルメがボレー。これは当たり損なって枠上へ。
だが、その後は大分がボールを握り、長崎がブロックを構える展開に。20分には保田がゴール前に送った浮き球に渡邉新太が詰める好機も築いたが、わずかに早く波多野豪に対応された。
その1分後に先制点を奪われる。増山の左足のクロスはフアンマを目指し、そこで収めさせまいと野嶽と羽田が2人掛かりで対応したが、その奮闘をものともせずにスペイン生まれの巨体はボールを自分のものにすると、左足でゴールへと転がり込ませた。
とはいえ、大分のほうが組織的に相手を攻略できてはいた。35分には伊佐が下りて安藤智哉のクサビを受けると高畑奎汰に展開。高畑のクロスに対し、長沢が巧みに相手の前に出てゴールを狙ったが、惜しくも枠の右に逸れた。前半アディショナルタイムには高畑のFKのチャンス。無回転の弾道は波多野の片手に掻き出された。
守備の判断ミスから2点差へと広がる
大分がボールを握って攻め、構える長崎がそれを引っ掛けて鋭いカウンターを繰り出す繰り返し。サイドを割ってクロスを供給するところまで形は作れていたので、あとはカウンターリスクに備えながら辛抱強く続けていくのみという展開になった。
62分、長崎はアンカーの秋野央樹が足をつらせて安部大晴と交代。安部はそのままアンカーに入る。
長崎の豪快なカウンターをペレイラが体を投げ出して食い止めたところから、相手のセットプレーのチャンスが続き、その流れから66分、2失点目を喫した。中村慶太の左CKは安部に預けるショートCKで、再び中村からギリェルメとつなぐと、最後は増山がシュート。その弾道を防ごうと守備陣が人数をかけてブロック態勢に入ったところで増山のシュートはゴール前に4人が固まっていた長崎に当たり、そこには守備陣が誰もついていなかったため、至近距離でジェズスに仕留められてしまった。
今週は特に守備面の課題に向き合い、全員でのディスカッション形式による1時間近いミーティングを繰り返して改善に務めたのだが、ここで痛恨の組織的なミス。攻撃では粘り強く戦い、相手より好機の数も多いものの、それだけに2点のビハインドは重かった。68分、下平監督は伊佐をサムエルに、渡邉を町田也真人に代えてそれを追う。
右サイドから攻略して70分台に2ゴール
あきらめない気持ちが1点目を呼び込んだ。テイシェイラのキックを町田がヘディングで前に送り、後半に入ってから再三、右サイドを突破していた野嶽が抜け出してクロス。ニアに飛び込んだ長沢が咄嗟の判断でそれをスルーすると、長沢とサムエルに相手がつられていた背後にフリーの野村直輝が走り込んで左足を振り抜いた。70分に1点を返し、チームは追撃の勢いを増す。
長崎はブロックを構えていたが、守備はあまりタイトではなかった。そこを巧みに突きながら、大分はチャンスを生み出し続ける。77分には野嶽を上夷克典に、羽田を梅崎司に交代。野村が中央に入り、梅崎は左サイドに入った。
その2分後、上夷のスローインからペレイラ、野村、サムエル、町田と縦につけ、町田の展開を受けた上夷がクロス。これが前節の仙台戦に続く“ザ・長沢駿”なピンポイントのヘディングシュートでの同点弾を呼び込んだ。
勝てはしなかったがチームの変化が見て取れた試合
長崎の左サイドは大分の右サイドにやられっぱなし。83分、ファビオ・カリーレ監督はカイオとギリェルメを澤田崇と松澤海斗に交代したが、その直後、大分がビッグチャンス。高畑のスローインをサムエルが収めて中へと運び、町田とのワンツーから町田がシュートチャンス。右に外れて得点とはならなかったが、サムエルの強さと町田のポジショニングの巧みさが生み出したシーンで、長崎はいずれにも対応できていなかった。
勝点3を狙える流れの中で、85分には右サイドを突破されるカウンターを受け最後は中村にシュートを許すが、梅崎と保田が体を投げ出して防ぐ。長崎も90分にジェズスをジョップ・セリンサリウに、中村を岡野洵に代えて勝利を目指す中で、アディショナルタイムは5分。だが、松澤とのワンツーから放ったジョップのシュートも枠の右へと外れ、攻め合いのうちに時間は尽きた。
勝点1差で追う相手と引き分けたのは大きい。2点ビハインドから追いつく力を見せたこともチームの勢いにつながった。その陰にはチームを成熟させようと力を尽くす梅崎や野村、それを受けて動いた下平監督とコーチ陣によるマネジメントがあったと、野村は試合後に明かした。
今節の上位陣は東京Vを除いて引き分けだらけ。町田は群馬と、清水は徳島と、甲府は仙台とスコアレスドローで、磐田は秋田と、山形は大宮と1-1という結果に。どこも抜け出しきれないまま、混戦の度合いが深まるかたちで残り9試合となった。ヒリヒリしながら、可能性はまだまだ続く。