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試合レポート

劇的なラストプレーで辛くも勝点1は掴んだが…組織の一体感が見えなかった試合

 

相手の出方が読めない中、準備したプランは悪くはなかったが、戦況が苦しくなるにつれてチームは一体感を損ない、個々がバラバラになっていったように見えた。危機感をつのらせるサポーターからは、試合後に厳しい声が飛んだ。

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次第に行き当たりばったりな印象となったゲーム

ラストワンプレーで同点に追いつくという劇的な幕切れで3連敗は阻止したものの、約1000人が駆けつけた大分のゴール裏スタンドからは、試合後、厳しい声が飛んだ。
 
おそらく結果以上にこの日の試合内容が、応援する人たちのフラストレーションを呼び起こしたものと思われる。最初は狙いを持ってスタートしたものの、次第に相手の勢いに押された。組織の意思統一した様子が見えず、時間経過とともに行き当たりばったりな印象ばかりが強まっていく、そんな苦しい展開だった。
 
フアン・エスナイデル監督が山口で就任して10試合目。いまだ戦力の見極めの最中にある敵将は、毎試合、異なる選手起用と配置で最適解を探っている様子だ。フォーメーションは2戦目以降4-3-3を採用していたが、ここ2試合は連敗中で、修正を必要とされていた。マンツーマン気味のしつこい守備は継続されたとしても、メンバーやシステムを予想するのは難しかった。さらには新戦力も加わっている。ブラジル国籍ストライカーのシルビオ・ジュニオールは前節の千葉戦の終盤に出場したが、プレー時間が短くどんな選手なのかがわからない。
 
十分な相手対策を施せない中で、マンツーマンのプレスを想定して、下平隆宏監督は今節、4-4-2の布陣を組んだ。最前線にはサムエルと藤本一輝を並べ、相手と2対2の状況を作り出して強度の高い2人の収まりに期待する。左右のSHには野村直輝と中川寛斗を配置し、2人がインサイドを取ることでゴール前にかける人数を増やしコンビネーションでゴールを狙う作戦だった。

 

10分に先制も29分に追いつかれる

蓋を開けてみると山口のフォーメーションは3-5-2。シルビオ・ジュニオールが2トップの一角で先発し、新加入のキム・ボムヨンは左CBに。最終ラインで出場を重ねていた前貴之がアンカーに配置されていた。
 
大分は直前に負傷者が出て予定していた起用選手や配置を変えざるを得なくなったが、ファーストプランは悪くはなかった。積極的に2トップを使い、立ち上がりからペースを握ると10分には上夷克典のスローインから先制点を挙げる。相手を背負いながら藤本がキープし、ゴール前で池田廉が受けて野村へと横パス。タメて出したところへ走り込んできた高畑奎汰が左足を振り抜くと、シュートは対応に入っていた高橋秀典に当たってわずかに軌道を変えゴールネットを揺らした。
 
キム・ボムヨンのアーリークロスやシルビオ・ジュニオールのしなやかな仕掛けによる山口の攻撃にも、西川幸之介が落ち着いて対応できていた。池上丈二のシュートや田中稔也のクロスも西川が処理。
 
だが、サイドチェンジを多用して大分を走らせながらプレッシングとゴールへの矢印の勢いで勝る山口が、徐々にセカンドボールを支配して各所で上回りはじめる。サムエルとデルランが相手に競り負け、高橋にクロスを入れられて安藤智哉がクリアしたシーンによくない空気感が増していた29分。前の展開を受けた高橋のスルーパスに抜け出したシルビオ・ジュニオールが送ったクロスに、梅木翼がワンタッチで合わせて山口が同点に追いついた。

 

イージーなミスの連鎖で許した逆転

左右に蹴り分けながらゲームを組み立てるアンカーの前を藤本がマークし、サイドチェンジもケアするなど大分も守備を修正して流れが相手に傾くのを防ごうとする。山口もそれによって空いたスペースを使うなど、粘り強い駆け引きが続いていた。
 
33分には藤本がキープしたところから野村が個人技で相手を剥がしシュートを放ったが、関憲太郎にキャッチされた。35分には上夷が前線に送ったボールを巧みに体を使った藤本が収めてシュートするが、これも関がセーブ。38分にはデルランのフィードから放った藤本のシュートが関に防がれ、そのこぼれ球を中川がもう一度狙ったが、またも関に防がれた。
 
セットプレーも含めて複数の決定機を作りながらなかなか追加点が取れずにいた41分。ミスを連発しPKを献上して逆転を許す。上夷のスローインを受けたサムエルが相手に寄せられて池田廉へとバックパス。それを梅木に奪われ、安藤も止めきれずシルビオ・ジュニオールにボールを入れられると、エリア内で対応したデルランが倒してしまった。PKはシルビオ・ジュニオールが自ら蹴って山口が逆転に成功。大分としては失い方も悪くイージーなミスが連続したかたちで、士気の削がれる失点となった。

 

オープンさの度合いを増すタフな展開に

下平監督は弓場将輝を保田堅心に代え、セカンドボール対応を強化して後半をスタート。同時にエスナイデル監督もイエローカードをもらった生駒仁を佐藤謙介に代えてアンカーに配置し、右CBに前を移した。山口はさらに56分、五十嵐太陽を矢島慎也に代えて中盤の運動量を保つ。
 
オープンな展開でトランジションが激しさを増していた59分には、池田がボールを奪って攻撃へと切り替え、高畑のクロスにサムエルが合わせる好機を築いたが、シュートはヘナンにブロックされた。
 
疲労も増す時間帯。やや大分が流れを引き戻しそうな匂いもしていた61分、下平監督は藤本とサムエルの2トップを長沢駿と鮎川峻に、中川を松尾勇佑にと3枚替え。62分の前のシュートも65分のシルビオ・ジュニオールのシュートも67分の矢島のシュートも枠を逸れ、山口も追加点を取れない。エスナイデル監督は71分、池上を水口飛呂にチェンジした。
 
76分には関のゴールキックを高畑がカットしたところから一気にカウンター。高畑の送った浮き球は抜け出した鮎川がシュートを打つ前に関に掻き出されたが、そのこぼれ球に長沢が詰め、これも相手にわずかに先にクリアされた。

 

相手につきあわず確固たるスタイルを表現したいが…

ここから終盤にかけてはバタバタ感が増した。76分には上夷と西川がお見合いし、そのミスをカバーするために西川が ハーフウェイラインにまで出る。そこから松尾のクロスのこぼれ球を拾った池田がもう一度ゴール前に送り、その精度は高かったが鮎川のヘディングは枠の上へ。
 
下平監督は81分、上夷を羽田健人に交代してシステムを3-4-2-1に変更した。1分後にはエスナイデル監督が田中とシルビオ・ジュニオールを大槻周平と松橋優安に2枚替え。勢いを緩めない山口と、なんとしても追いつきたい大分とのせめぎ合いは、ともに理想とするスタイルの表現をかなぐり捨てたかのような闘いぶり。展開がオープンすぎて個々が局面ごとにプレーしているかのようだった。
 
84分にはなんでもない浮き球を処理しようとした西川が大槻に隙を突かれてヒヤリとする場面も。5分設けられたアディショナルタイムのパワープレーでは高畑の右CKの流れから西川にシュートチャンスが訪れるもミートしきれず、試合はこのまま終わるかに思われた。だが、90+6分、ドリブルで持ち上がった高畑のクロスに長沢が潰れた背後へと飛び込んできたのは松尾。今節も見事なワンタッチゴールでネットを揺らし、ラストワンプレーで劇的同点弾をものにした。
 
3連敗を阻止したことには安堵もしたが、いくら試合前からオープンな展開になることを覚悟していたと言っても、チームのオーガナイズが損なわれたような試合には、危機感を抑えられなかった。試合後、意思疎通の不足を課題に挙げた選手たち。ポゼッションスタイルを志向してきたチームが、今節はどういう意図をもってこういう戦い方を選んだのか。負傷者が多く頻繁にメンバーが入れ替わるからこそ余計に今一度、チーム内で意識を共有して次に進む必要があるのではないか。

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