底上げアピールへの期待も相手に圧倒された90分。天皇杯2回戦敗退
厳しい現実を突きつけられた。ヴェルスパ大分に0-1で敗れ、天皇杯2回戦敗退。スコア以上に力量差を感じた一戦が、チームにさらなる課題を迫る。
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アピールを促しての起用だったが…
スコアは0-1だったが、内容的にはそれ以上の差を感じた試合になった。90分間のうち、わずかに主導権を握れた気がしたのは、相手が先制した直後に若干プレスを緩めた時間帯のみ。それ以外は相手のパスワークとスペース管理に翻弄され、プレッシングにプレー精度を削られ続けた苦しい内容だった。
JFL第9節・鈴鹿戦から中10日でしっかり準備してリーグ戦のメンバーで臨んだヴェルスパ。山橋貴史監督体制3シーズン目で、前監督時代からの積み上げも生かしつつ、今季は選手が多く入れ替わった中でもチームスタイルを確立して練度を高めている。対してトリニータはJ2第19節・甲府戦から中2日。下平隆宏監督がフィールドプレーヤー全員を入れ替えたのは、負傷離脱者も多い中、これまで出場機会の少なかったメンバーに今後のリーグ戦に向けてのアピールを促す意図も大きかった。
片野坂知宏前監督時代から、戦術的指示があるとそればかりになってしまうという課題を克服しきれずにきたチーム。下平監督1年目の昨季もそこに苦心し、今季は選手たちの自主性を引き出そうと「共創」と銘打ったマネジメントで敢えて戦術に余白を持たせてきた。だが、相手に対策されて閉塞感が漂ってきたところでキャプテンの梅崎司が「選手たちはすごく頑張っていると思うけど、頑張るだけで結果が出る世界でもない。ロジックを使うことも必要だし、それぞれが能力を発揮するためにチームとして同じ絵を描くことが、いまは大切」とミーティングで発言したことなどを受け、甲府戦の前に、これまでよりぐっと具体的な戦術を落とし込み、やるべきプレーを明確化した。それにより甲府戦では改善が見られたのだが、それを今回のメンバーは体現できなかった。前半のうちはトライする姿勢も見えていたのだが、セットプレーから失点し、好機をものに出来ず、相手のプレッシングの前に上手く攻撃できない中で、次第に焦りからスタンドプレーが増え、組織はバラバラになっていった。
相手が緩めた時間帯にも得点できず
ファーストシュートは左サイドを攻略してからの3分のサムエルだったが、枠の上に逸れた。6分、自陣左で相手を倒して与えたFK。瓜生昂勢が短く出しての山﨑一帆のクロスから中村真人に合わせられて早々に失点する。弾道は長身の中村にピンポイントで合い、気持ちよく頭を振られてしまった。
9分の山﨑のシュートには西川幸之介が対応。その後、先制したヴェルスパは少しプレッシングを緩めて構えるかたちとなり、今度はトリニータがチャンスを築く。だが、12分の松尾勇佑のクロスからの松岡颯人のシュートはカバーに入った相手に掻き出された。22分、スルーパスに抜け出した屋敷優成のクロスがファーに流れたところで香川勇気が左足を振り抜いたが、枠は捉えきれなかった。31分には佐藤丈晟が独特のドリブルでカットインしてクロスを送るが、きわどい絶好機に飛び込んだ松尾はわずかに届かず。38分には松尾が狙ったこぼれ球を保田堅心がシュートしたが、これも枠外。セットプレーのチャンスもものに出来ず、試合は0-1で折り返す。
後半、ヴェルスパは再び激しいプレッシングを復活させた。球際やトランジションで相手に上回られるトリニータの選手たちはペースを掴むことが出来ない。55分には中野匠のシュートがワンタッチあってサイドネット。56分には中村のシュートが枠上へ。58分には左サイドを攻略され、最後は西村大吾にシュートを許して西川がキャッチと、ヴェルスパの時間帯が続いた。
後半のシュートはわずか1本
下平監督は62分、佐藤を茂平、松岡を中川寛斗に2枚替えするが、山﨑にカットインからのシュートを許すなどヴェルスパの優勢は覆せない。68分、ヴェルスパは中野を薮内健人に交代。70分にはトリニータがサムエルと香川を藤本一輝と上夷克典に代え、藤本が1トップ、屋敷が右SH、上夷が右SB、茂が左SBへと配置転換した。
だが、75分、その茂が接触プレーで負傷。担架で運び出される事態となり、急遽、左SBに弓場将輝を投入したのがトリニータの最後のカードとなった。79分にはヴェルスパが藤本拓臣を酒井信磨、山﨑を松木駿之介に2枚替え。81分には入ったばかりの松木がシュートして枠上に逸れた。84分、ヴェルスパは中村を半田航也、西村を石上輝に代えてアグレッシブさを維持する。
アディショナルタイムは5分。中川の右CKの流れから弓場が迎えたラストチャンスもシュートは左に逸れ、それが後半唯一のトリニータのシュートとなった。最後はコーナーでボールをキープされるなどして時間を使われ、ヴェルスパが盤石の勝利。トリニータは史上3度目の対戦にして、ヴェルスパにジャイアントキリングを許した。
個々のクオリティーを高めるために
試合後に不甲斐なさで泣きじゃくった選手たちに、下平監督は「いま泣いても遅い。ピッチでやらなくては」と話をした。やるべきことが明確にされていたにもかかわらず、上手くいかない焦りから組織のバランスを欠いてしまった選手たち。バランスを取ろうとした池田廉や皺寄せを被った香川が被害者になった側面もあったかもしれない。
今季からボランチにコンバートされた野嶽惇也は、試合経験を重ねながら内容のよくなかった試合を振り返り、「どうも自分がなんとかしなきゃと思ったときは上手くいかないことがわかった。発信して周りを使えるようにならなくては」と自らを分析していた。それが責任感からであろうがアピールしたい一心からであろうが、誰かの空回りは他のメンバーの足を引っ張ることになる。たとえばそういうふうに学んで積み上げていくことが、経験の少ない選手には必要なのだろう。
個々のコンディションやプレークオリティーにも課題が見て取れた。プロのプレーヤーであれば自身のパフォーマンスをつねに高く維持する努力が求められる。パスミスからのロストや危険な位置でのファウルを繰り返すなら、何故上手くいかないかを試合中にも修正できる力を養うべきだ。選手自身でそれが出来ないのであれば、監督やコーチがサポートして育てなくてはならない。サポーターからのブーイングと、彼らがヴェルスパに送った賞賛の拍手を胸に刻み、チームは歩みを続けていく。