水の浮くピッチで蹴り合うゲーム。勝ちきれず負けもせぬスコアレスドロー
大雨の影響でいわゆる“田んぼ状態”になった敵地のグラウンドで、ひたすらリスクを負わずに蹴り合った。不完全燃焼感はどうしても残るが、ただでは転ばない貪欲さで、どんな小さな収穫も次につなげていきたい。
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割り切る約束は出来ていたが、そこは相手の庭
未明から降り続いた雨は、もとよりだいぶ長めに整えられたソユースタジアムの芝にたっぷりと含まれ、ピッチ内アップ時からすでにボールが転がらない状態になっていた。まもなくピッチのあちこちに水が溜まり、選手やボールが動くたびに大きな水飛沫が上がるようになる。
ポゼッションスタイルの大分にとっては環境からパスワークが阻まれる状況だ。前日から雨予報を受け心の準備をしていたチームは、実際のピッチコンディションを確かめて後方からのビルドアップを諦め、とにかくラインを下げないようにとボールを持てば前方に大きく蹴り出す戦法を採った。
一方の秋田は日頃からボールを保持することにこだわらず、前線に長いボールを当ててセカンドボールを拾うスタイルを浸透させている。それは大分よりもピッチコンディションの影響を受けづらいスタイルであり、そのスタイルを強化するために特化したトレーニングで鍛えたキック力を生かして力強いロングボールを送り込んできた。同時に秋田は大雨のたびに水溜りの出来るホームスタジアムのピッチに慣れてもいるのか、攻守に迷いなく自信を持ってプレーしているようだった。
大分のほうもピッチに立つ全員が意思疎通している様子は見て取れるのだが、いかんせん、巧みにトライアングルの立ち位置を取ってもボールのほうが動かない。いつもの感覚でプレーしてはロストすることになる。前線にボールを送っても相手の屈強な守備陣に潰されて奪われ、いましがた送ったボールは即座に自陣へと蹴り戻された。クリアに逃げるたびにロングスローを中心としたセットプレーで押し込まれ、立ち上がりから劣勢が続く。
前半のうちにシステムと配置の変更で対応
容赦なく放り込まれるロングボールに押し下げられて、ピンチが続いた。21分には上夷克典のクリアボールを拾った畑潤基が右足を振り抜いて枠の右。22分には自陣でパスカットした髙田椋汰が高速ドリブルで持ち上がりクロスを供給して味方に合わず。大分も25分には藤本一輝の仕掛けから得た野村直輝の左CKにペレイラが頭で合わせる好機を築いたが、弾道は枠外へと向かった。29分には前線でボールを収めた梶谷政仁にシュートを許し、クロスバーに当たって命拾いする場面も。32分には水谷拓磨のクロスに畑が飛び込んでのヘディングシュートを西川幸之介がキャッチした。
今週はボールサイドに密集する秋田に対し、幅を使うことで広げる策を準備してきたのだが、このピッチではボールを縦方向に蹴り出すしか選択肢がなく、幅を使う意味がないと見た下平隆宏監督は、前半のうちにシステムを4-4-2に変更した。このピッチコンディションでも左SHで比較的ボールを持てていた藤本を最前線に上げ、サムエルとのコンビネーションによる攻略に期待する。秋田の攻撃のストロングポイントである右サイドへの対応も鑑みて、守備強度の高い茂平を左SHに回し、スタート時はトップ下にいた野村が右SHへと移った。
それでも秋田優勢は変わらない。42分には自陣中央付近で与えた畑の直接狙ったFKがディフレクションしてゴールへと飛び、西川が横っ跳びで掻き出すファインセーブ。45分にも高田のミドルシュートが枠の左へと逸れ、なんとか無失点で折り返せたことに胸を撫で下ろすような前半だった。
選手交代により少しボールが動きはじめる中で
ともに交代なくスタートした後半早々にも、高田にパスカットからクロスを入れられる。攻め込まれたりセットプレーで押し込まれたりと状況は変わらないかに思われたが、徐々に大分もこのピッチの感触を掴んできたのか、野村と藤本とのコンビネーションなどが生まれはじめる。
59分、下平監督は戦況を見て2枚替えした。相手に厳しくマークされてなかなか周囲との関係性を作れないサムエルを伊佐耕平に、守備面でやや不安定だったデルランを安藤智哉に。疲労も見える前線と後方の1枚ずつを刷新したことで、全体のラインが高くコンパクトになり、セカンドボールを拾う回数が増え、ボールを前に進めることが出来はじめる。
それでも秋田のシンプルにして強力な攻撃は威力を保っていたが、65分、水谷のFKに合わせた梶谷のヘディングシュートを掻き出したのをはじめ、このあとはしばしば西川のファインセーブがチームを救うことになった。
66分には相手の左CKから藤本が抜け出し独走するカウンター。だが、自慢の足元を生かしてゴール近くにまでは迫れても、ピッチがピッチなので相手に囲まれたときに味方にパスを出せず潰されてしまう。
最後まで秋田の力強い攻撃にさらされたが
68分には吉田謙監督が水谷を三上陽輔に交代。下平監督も71分、今度は藤本を宇津元伸弥に、野村を野嶽惇也に2枚替えする。野嶽は右SHに入り、今季初めてサイドでの出場。前線でセカンドボールを拾ってゴールへと迫るタスクを課せられた。
74分、両軍が密集する大分の右サイドで、その野嶽から茂へとパスをつなぐが宇津元は打ちきれず。キャッチした圍謙太朗が前線へと送ったボールは安藤が一発で大きく跳ね返したが、それがまた相手に跳ね返されてこぼれ球が畑に渡り、クロスから三上にヘディングシュートされて西川が押さえた。79分には西川の縦パスが相手に引っ掛けられミドルシュートを打たれるも枠の右へ。
80分には大分にとってこの日最大の決定機。右サイドを茂がドリブルで切り裂き、マイナスのパスを弓場将輝がシュート。弾道がゴール前で失速したところで宇津元が右足を振り抜いたが、シュートは無情にも枠の上へと逸れた。
秋田は80分、青木翔大と田中裕人を吉田伊吹と小柳達司に2枚替え。さらに86分にも畑と梶谷を沖野将基と丹羽詩温に代えて勝点3へと圧をかけてくる。87分、沖野のFKは味方に合わず。5分のアディショナルタイムにまでロングスローで押し込まれる展開が続いたが、守備陣の集中した対応により、ついにどちらのゴールネットも揺れないままタイムアップを迎えた。
特殊な状況に一丸で対応できたことを収穫として
とうとう降り止まなかった雨により刻々と悪化するピッチコンディションの下、ともに本来のパフォーマンスが出せなかったことが残念なゲームだった。比較的影響の少なかった秋田の選手も、やはりボール扱いがイメージどおりにならない場面が見られた。だが、やはり“慣れ”の差はじわりと響いてくるのかもしれない。昨季まで秋田でプレーしていた茂のボール運びは、大分の他の選手よりも巧みだったように思える。
その茂にしても、どこに水溜りが出来るのかはわからなかったという。ただ、不完全燃焼感が残った反面、5試合ぶりにクリーンシートで終えることも出来た。ここ最近の失点の多さに責任を感じていたという西川は「今日は練習の成果を表現することが出来た」と、少しだけ胸を撫で下ろしていた。
意図していた戦い方は出来なかったが、状況に応じて切り替えて戦えたことをひとつの経験値として刻んでおきたい。下平監督以下コーチ陣の采配もロジカルで、実際に前半より状況を改善し決定機を作ることも出来た。ただそれが結果につながってほしい。試合後の会見で下平監督は、決定機を逸した宇津元がロッカールームで悔しさに暮れていたと明かした。大分も秋田も、課題は決定力。こういうチームが上位に食い込んでいくためには、やはり両ゴール前の強度が必要となる。そして秋田と大分は、その強度を醸す方法が異なる。
今節、出番はなかったが池田廉と松尾勇佑が今季初メンバー入りを果たしたというトピックもあった。負傷離脱者が多い台所事情による部分もあったようだが、いまこのチームで待たれるのは新しい刺激だ。次節に向けての選手たちのアピール合戦に期待したい。