ようやく届いた4試合ぶりの勝利。ミラーゲームで先手を取って9試合ぶり完封
「攻撃力の高い相手に対しては攻撃させないのが最大の防御」。指揮官の言葉どおり、激しい守備で相手を阻み巧みにポゼッションしながら攻めた。ミラーゲームは10試合ぶりだったが、前節・仙台戦での手応えを結実させて、チームはもう一段階上へと踏み出した。
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超攻撃サッカーの藤枝に先手を取る真っ向勝負
3連敗となった前節の仙台戦を終え、チームは翌日、次なる敵地に向け移動。さらにその翌日から静岡県内のグラウンドで調整を行った。仙台戦で香川勇気とペレイラが次節出場停止となったことを受け、2人のメンバーを入れ替え。下平隆宏監督が大分から合流させる2名に誰を選ぶかで、藤枝戦の戦い方が見えてくる。そこで選ばれたのは上夷克典と羽田健人だった。
今節は第3節・栃木戦以来10試合ぶりのミラーゲーム。須藤大輔監督が標榜する「3点取られても4点取って勝つサッカー」は、下平監督も理想とするエンターテインメント・スタイルで、敵将は「本当に似たチーム同士」と試合前から語っていた。その超攻撃的スタイルを見事に表現してリーグ得点ランク首位に立つ藤枝に対し、下平監督は「攻撃力の高い相手には攻撃をさせないことがいちばんの防御」という真っ向勝負を選択した。
藤枝ボールでのキックオフと同時に勢いよくスタートしたプレッシング。ボランチの位置から飛び出した野嶽惇也と藤本一輝がサイドに追い込んだところでボールを奪い、素早いトランジションから左CKをゲットして試合ははじまった。その後も1トップ2シャドーが藤枝のビルドアップに激しく圧をかける。須藤監督は「もう前半で倒れるんじゃないかくらいの圧力」と試合後にそれを振り返った。突破力に長けたドリブラー榎本啓吾が務める左WBに対し、茂平が高い位置を取ったり上夷克典がパス交換しながらハーフスペースを攻め上がったりと、先手を取る。高木駿がビルドアップに参加することで数的優位の状況を作り出すほか、ボランチが縦関係となって保田堅心が中盤の底から配球し、野嶽は駆けずり回って各局面で数的優位を演出し続けた。野村直輝や藤本一輝らが個の力量で相手を上回れることも試合を優位にする。藤枝は縦関係でアンカー状態となった保田にプレスをかけてショートカウンター発動を狙っていたようだが、その保田がことごとく相手に競り勝ってボールを失わずセカンドボールも拾えていたことが、主導権を大きく引き寄せていた。藤枝も大分のプレスの背後を突いて攻めようとするのだが、安藤智哉とデルラン、上夷の3バックがラインコントロールと潰しで対応し、最後は高木が落ち着いて止めていた。
今季初右CB上夷のクロスに伊佐ヘッドで先制
圧倒的に大分のペースで進む前半。8分には安藤が倒されて得たFKを高木が蹴り、まさかの直接ゴールを狙ったように見えたのは、藤枝の「エンターテインメント・サッカー」に「目には目を」で答えたかたちだったか(※残念ながら公式記録ではシュートとは認められていない)。10分にはフリーでルーズボールを拾った上夷もセンターサークル内からロングシュートを放った。
藤枝も9分、右CBの小笠原佳祐が持ち上がって勢いよく右足を振り抜くなど、攻撃的サッカーのぶつかり合いは心躍る見どころの多いゲームに。14分には高い位置でパスカットした保田が自ら持ち上がりミドルシュートを放って北村海チディに横っ跳びで阻まれ、27分には久保藤次郎がドリブルで潜ったところから最後は横山暁之のクロスにデルランがゴール前で長い脚を伸ばして掻き出す。
そんな攻防の中で28分、大分に先制点が生まれた。上夷のサイドチェンジを受けた藤本のシュートはミートしきれず、逆サイドに流れたところを拾った茂がシュートを放って相手にブロックされる。さらにそのこぼれ球を中川寛斗が拾って上夷が送った長いクロスに、伊佐耕平が飛び込む。ここまでの試合の流れの中で相手の背後に隙を見つけ、そこを狙っていたという伊佐のヘディングシュートは、掻き出そうとした相手のスライディングもむなしくゴールへと吸い込まれた。
39分には上夷のパスカットから野村が落として保田が前に送り、茂のマイナスの折り返しに中川が合わせたが枠の上。40分には水野泰輔のスルーパスに渡邉が反応したところを高木が間一髪で押さえた。42分には北村のフィードを上夷がクリアしたルーズボールを渡邉に拾われ、強烈なシュートを放たれる。弾道は風に押されて急速に落ちヒヤリとしたが、高木が跳ね返し上夷が蹴り出してことなきを得た。
交代とシステム変更で流れを手繰り寄せようとする藤枝
1点リードして折り返し、ともに交代なく後半スタート。48分には高木と安藤のパス交換から長い攻撃がはじまる。デルラン、伊佐、野嶽、茂、野村と絡んだところで相手にクリアされるが再び上夷が拾い、野村にクサビを入れて走った上夷がスルーパスを折り返した。拾った中川は相手に囲まれながらスペースに出し、そこに走り込んできた藤本がシュートを放ったが、北村のファインセーブに阻まれる。51分には藤枝が左サイドで細かいパスワークを披露し大分の守備を剥がしてゴールへと迫った。パス交換しながら攻め上がった山原康太郎が渡邉にスルーパスを出すが、デルランが体を入れて高木が押さえる。
56分、藤枝は川島將と平尾拳士朗を鈴木翔太と矢村健に交代。鈴木は左CBに入り山原がセンターに移った。谷村はそのまま左シャドーへ。65分には大分が2枚替えし、ポジションはそのままで藤本の位置に高畑奎汰、中川の位置に町田也真人が送り込まれる。72分には両軍が2人ずつの交代。藤枝は新井泰貴を金浦真樹に、渡邉を徳永裕大に代えて矢村と徳永の2トップ気味に。大分は野嶽を弓場将輝に、伊佐を宇津元伸弥にチェンジした。宇津元はそのまま1トップに入る。
78分には弓場がドリブルで運び野村がシュートして相手にブロックされる。81分、高畑のクロスに入った弓場は一歩届かず。81分、藤枝は横山を久富良輔に交代。久富は右WBに入り久保が1.5列目で矢村、徳永と流動的に動くようになる。
追撃する相手の背後を突き途中出場の弓場が追加点
システムや選手の配置を変え、高木まで行くようにプレスを修正して追撃する藤枝。風上の勢いにも乗じて前がかりに攻めに出るが、その背後を突いて85分、大分が追加点を挙げる。保田の展開を受けた高畑が出したスルーパスを野村が左足でクロス。そこに飛び込んだ弓場のヘディングシュートがゴールネットを揺らした。81分の高畑のクロスに対して「サボってしまった」と反省し、今度は走ると決めていた生え抜きが、途中出場で見事に出した結果だった。88分、下平監督は野村を羽田健人に代えて守備を固める。
藤枝は89分に矢村が裏に抜け出してシュートしたが、高木が体を張って阻む。アディショナルタイムは5分。最後まで激しかった藤枝の追撃は実らず、6試合ぶりの黒星に。大分は連敗を3で止め、4試合ぶりの勝利となった。
町田戦と水戸戦の連敗を受け、高木をビルドアップに組み込んだり最終ラインやボランチの顔ぶれを変えたりしての修正が、ある程度の形を見せた仙台戦。そこで勝点を得ることが出来なかったことも糧に、今節はしっかりと勝利を掴んだ。ひさしぶりのミラーゲームで、超攻撃的スタイルの相手に対する戦術を、中3日で落とし込んでの結果だった。
連敗や連戦、そしてメンバーの出場停止によって、この2試合でいくつかの選手起用や配置が試され、それが新たなオプションとなった。次節は特徴的な守備でリズムを作る金沢だ。また4バックシステムの相手となるが、今節の戦い方を応用できる要素は多分にある。3連戦のラストはホームで歓喜を分かち合いたい。