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試合レポート

野村直輝、無双の1G2A。組織的に個の力を生かして今季初の3得点勝利

 

前回のアウェイ大宮で敗戦にもかかわらず応援してくれたサポーターの思いに応えるかのように、冷たい小雨の降り続く初めてのスタジアムで挙げた勝点3。積み上げてきた攻撃面のクオリティー向上が3つのゴールにつながっての勝利だった。

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ポゼッションの強みを生かして圧倒した立ち上がり

それぞれのチームスタイルによって強度の出し方には違いがあって、このゲームはその強度が出た部分で上回った側が流れを引き寄せ合う典型的な展開だった。その中で、流れを引き寄せた際のプレーのクオリティーの差が、3-1というスコアになった印象だ。
 
大分は立ち上がりから野嶽惇也や弓場将輝が相手2トップの間に立ち、西川幸之介や上夷克典を起点に丁寧にビルドアップ。いわきのプレスを誘って動かすことでシャドーのフリー状態を作り出し、そこにボールを入れて加速する攻撃の狙いが、前半は面白いようにハマった。
 
開始早々にいきなりクロスバー直撃の野村直輝のシュート。ペレイラからのサイドチェンジを受けたデルランが藤本一輝に出し、大外に張った野村が受けて持ち上がりつつインナーラップする藤本へとスルーパス。藤本のクロスはゴール前に飛び込んだ中川寛斗の頭上を越えて流れたが、逆サイドで茂平が拾ってマイナスのパスを出し、野村が右足を振り抜いた。サイドに起点を作ることで相手CBをつり出しての形。
 
4分には上夷のロングフィードを茂が落として中川がクロス。5分には茂のクロスを中川がスルー。どちらも中央で跳ね返されて野村の決定機には至らなかったが、立て続けのサイド攻撃は好感触だった。
 
いわきは奪ってすぐに背後を狙ってきたが、守備陣が対応。ライン際で上夷が突き飛ばされてボールを奪われ、加瀬直輝と山下優人にシュートを打たれたシーンもあったが、ペレイラと弓場がブロックしてことなきを得る。

 

連係から中川の今季初ゴールで幸先よく先制

先制は7分。野村が藤本に出したスルーパスは一度は相手に奪われかけたが、そのこぼれ球を素早く収めたのが伊佐耕平。その伊佐の落としを野村が低い弾道でゴール前に送り、タイミングよくニアに飛び込んだ中川がダイレクトで押し込んだ。その後も大分の時間帯が続く。フィジカル自慢のいわきの選手たちに対してもデュエルやトランジションで引けを取らず、ポジショニングと個のテクニックで相手を圧倒し続けた。
 
28分、いわきは負傷した嵯峨理久に代わって杉山伶央。その杉山を藤本が個人技で振り切り、31分のグラウンダークロスはゴール前に入ってきていた茂に合わず。33分には藤本が相手を引きつけながら潜った末に中川が狙ったが、山下にブロックされて枠上に逸れた。
 
巧みに立ち位置を取る野村や中川を捕まえきれずに手をこまねいていたいわきだが、前半の終盤にはボールを奪ったところから素早い攻撃を繰り出す場面も。それでも、37分の加瀬のクロスはペレイラがクリアし、39分に間を取った有田稜のシュートは西川が危なげなくキャッチした。42分には杉山とのワンツーから加瀬が抜け出して谷村海那にボールを入れたり、辻岡佑真がアーリークロスを供給するなどしてペレイラや西川が跳ね返した。
 
45分、上夷のフィードを伊佐が競り、茂が落として伊佐がクロス。それを逆サイドで拾った藤本が野村とのワンツーから折り返すが、これもゴール前の茂に惜しくも合わず、こぼれ球を伊佐がシュートして枠外だった。

 

後半は修正し前への圧を増したいわきのペースに

ほとんどの時間、相手を圧倒しながら前半の得点は1点のみ。当然、ハーフタイムにはいわきもプレッシングを修正してくる。前半、大分が左で組み立てていたところを狙うようにデルランにボールが入ったタイミングで激しく圧をかけ、右サイドから多くチャンスを築きはじめた。前への勢いを全面に出したいわきは、フィジカルの強さも生かしながら、後半開始早々に大分を押し込む。
 
だが52分、辻岡の浮き球を受けた谷村の反転シュートも、その1分後にボールを収めた谷村から託された加瀬のシュートも枠を捉えることが出来ない。ここで1本でも決まっていれば、流れは完全にいわきに傾きそうだった。54分には左サイドでの競り合いの隙を突いて藤本が茂へとサイドチェンジし、茂がカウンターで相手ゴールへと迫ったが、相手の素早い帰陣に阻まれる。
 
いわきの前への圧が強まったことで大分も背後を狙う戦法へと切り替えるが、押し下げられているため相手に収められ、また長いボールを入れられる繰り返しに。64分にはスローインの流れから有田にフリーで受けられ、上夷が急いで対応したが最後は山下にシュートを許した。これも枠上に逸れて、大分は胸を撫で下ろす。

 

苦しい時間帯に畳み掛けた追加点

自陣で守備がバタついたりもする苦しい時間帯。そんな65分に、一気に流れを変えるような2点目が生まれた。弓場とデルランの守備からこぼれ球を拾った野村は、中央の中川へと迷いなく差し込む。中川が球際で頑張ってペレイラに展開すると、ペレイラが中川に当てたボールはスペースに顔を出した野村へと渡った。野村のクロスはゴール前へと走り込んできた弓場へとピンポイントの軌道。大分市生まれのアカデミー育ちが、クラブの創立29年の記念日に、今季初ゴールを初めて頭で決めた。
 
再三の決定機を逃していたいわきは少し心が折れたか。68分、高木和徹からのパスを受けた家泉怜依から伊佐がボールを奪うと、それを野村が受けて高木和をかわし3点目を挙げる。
 
それでも球際で強度を醸すいわきは、72分には永井颯太がエリア内で粘って反転シュートし西川が横っ跳びで掻き出す決定機も作った。その直後、村主博正監督は永井を鏑木瑞生に、加瀬を近藤慶一に2枚替え。近藤はトップに入り谷村が右SHに移った。大分は75分、茂平を宇津元伸弥、中川を梅崎司、伊佐をサムエルに3枚替えし、さらに78分には藤本を高畑奎汰へと交代する。その1分後にはいわきが有田と谷村を速水修平と芳賀日陽に代え、近藤と芳賀の2トップ。速水は右SBに入り杉山が一列上がった。

 

攻撃のクオリティー向上がスコアに現れた試合

3点ビハインドになっても諦めず、いわきは追撃を続ける。サムエルからボールを奪った宮本英治が前線へと大きく蹴り出すと、対応に飛び出してきた西川と上夷が連係ミス。その隙を突いてボールを収めた近藤が無人のゴールへと流し込み、1点を返された。
 
86分、下平隆宏監督は野嶽を羽田健人にチェンジ。チームは梅崎のサイドチェンジから宇津元がカウンターを発動するなど流れを引き戻そうとする。87分の梅崎の右CKをニアで上夷が合わせたヘディングシュートは、惜しくも高木和に掻き出された。89分にはサムエルが左サイドでボールを収め、クロスを送ってCKを獲得。高畑の左CKからデルランが叩きつけたヘディングシュートは、わずかに枠の左へと逸れた。
 
アディショナルタイム4分も尽きて、試合は3-1で終了。攻撃のクオリティーを高めるトレーニングが奏功してアウェイ2勝目を挙げたチームは、冷たい雨の中を応援に駆けつけたファンやサポーターたちとともに、勝利とクラブ創設記念日の喜びを分かち合った。
 
得失点差を考えれば失点はもったいなかったが、試合は両軍がそれぞれにストロングポイントを発揮して相手を上回ろうとした好ゲームだった。巧みな組織的ポジショニングと個々のテクニックでいわきを圧倒した大分と、強靭なフィジカルとシンプルな前への推進力で大分を押し込みに来たいわき。次回対戦は7月22日の第27節だ。