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試合レポート

今季初黒星はモヤモヤ感の残る0-3。どう受け止めて何を修正するか

 

前節まで5試合2失点と安定していた守備がまさかの3失点。予期せぬ展開の中で工夫を凝らし新オプションも投入したが、機能しなかったところ、修正できなかったところが全体に響いての黒星となった。

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少しアンラッキーだった立ち上がりの失点

試合後、いちばん先にミックスゾーンを通りかかった高木駿は「今日は自滅だった」と厳しい表情を見せた。試合中は声を出して味方を鼓舞し、審判にも話をしに行くなど状況の改善に努めたが、ピッチサイドからの尽力も届かず無得点3失点。完全に相手にペースを握られ圧倒されたわけではない試合。いずれ来るはずだった今季初黒星は、モヤモヤ感の残るままになった。
 
「ふわっと試合に入った感じがあった」と野嶽惇也も振り返る。ホームで強い大宮の、オレンジ色に染まる専用スタジアムの雰囲気に支配されないようにと、1000人を超える大分のサポーターもビジター席を埋め尽くして声を出した。だが、開始早々の3分、出鼻を挫かれるような失点を喫した。
 
自陣右サイドでの守備。今節は高柳郁弥と左右を入れ替えて左SHに入っていた柴山昌也がスルーパス。抜け出していた茂木力也はオフサイドポジションにおり、副審の旗が上がった。だが、自らの立ち位置に気づいたのか茂木はボールに触れず、柴山が突破してクロス。ディフェンスラインの背後に通されたボールは西川幸之介が飛び込んで弾いたが、それが正面にいた富山貴光に渡りそのまま押し込まれた。オフサイドだと思っていた守備陣は富山をフリーにしてしまっていた。
 
当然、大分としては猛抗議の場面。争点は茂木をオフサイドとするか否かになる。だが、主審は茂木はプレーに関与していないとジャッジ。副審の旗も上がっていただけに、すっきりしないままゲームは再開される。

 

幅を使って攻めるもなかなかゴールに届かず

とはいえ挽回できる時間はたっぷりある。まずは落ち着きを取り戻し、チームは自分たちの形を作りに行った。ただ、相手の間でボールを受け、保持することは出来ていたが、布陣をコンパクトに保つ大宮を前に、軽いパスミスを頻発して相手に引っ掛ける場面が目立つ。奪われれば自陣まで戻らなくてはならない。14分には伊佐耕平が最終ライン付近まで走って対応した。
 
17分、相手の縦パスをカットした高畑奎汰からのボールをスペースで受けた野村直輝が持ち替えて右足を振り抜くが、相手に当たったボールは枠の上へ。22分には茂平のクロスのこぼれ球を野嶽が拾い、高畑と野村のコンビネーションから高畑がゴール前の弓場将輝へと送ったが、相手に蹴り出されてしまう。さらに野村が拾って最後はペレイラがミドルで狙い、これもブロックされた。33分には伊佐が相手と競ったこぼれ球を梅崎司がシュートし、枠上へと逸れる。40分には抜け出した高畑のクロスを野村が競り、伊佐が落として弓場が左足シュートする形も作ったが、笠原昂史にキャッチされた。弓場は44分にも茂のクロスのこぼれ球を反転シュート。こちらは相手に当たって枠外となった。
 
アンジェロッティのシュートを西川がキャッチしたり、バランスを欠いた形でロストして受けたカウンターに茂が全力で戻って対応したりしながら、それでも幅を使って攻めた前半。ただ、ゴールを割るまでには届かず、1点ビハインドのままで折り返した。

 

後半開始早々に広がった傷口

ハーフタイムに修正を施して取り返しにいこうとした後半立ち上がり。石川俊輝のパスを高柳が受け、富山とのワンツーからマイナスに折り返すと、ゴール前でアンジェロッティが沈めて大宮が追加点を挙げる。相手に競り勝てず寄せが甘く切り替える間もなかったという感じの、これまた出足で躓いた失点だった。さらに52分には高柳の右CKを浦上仁騎に頭で決められて3失点目。マーカーだった野嶽は袴田裕太郎に抱きかかえられてその抜け出しについていけなかった。
 
修正したものを表現するより先に失点を重ねて傷口が広がり、これでは戦術以前の問題になってしまう。54分、下平隆宏監督は梅崎を町田也真人に、高畑を藤本一輝に2枚替えしてテコ入れを図った。56分には藤本のクロスから伊佐がヘディングシュート。惜しくも枠は外れたが、少し挽回できそうな匂いも立ち込めてくる。59分には相馬直樹監督が柴山を泉澤仁に代えてサイドの鮮度を保った。
 
なんとかゴールを割ろうと、下平監督は63分、伊佐と弓場をサムエルと長沢駿に代えて3-5-2へとシステム変更。これは長沢の負傷からの復帰とサムエルのコンディションアップを待って密かに準備していた追撃のためのオプションで、出来れば発動させる状況にならないほうが望ましい最終手段でもあるが、完成度を高めれば相手にとっては間違いなく脅威になるはずの布陣だ。

 

最後まであきらめずに攻め続けたが…

66分、茂が倒されて得たFKを野村が蹴り、長沢が頭で合わせたが枠の上。69分にはペレイラのアーリークロスを野嶽がヘディングして笠原にキャッチされた。大宮は70分、富山と高柳を中野誠也と室井彗佑に交代する。71分、デルランが足を負傷しプレー続行不能となった。代わって羽田健人がピッチに入り、3バックの真ん中に。左CBには上夷克典が移動した。
 
76分には茂の左足クロスを長沢がヘディングシュート。わずかに枠上に逸れはしたが、長沢が少しずつ合ってきつつあるように見えたシーンだった。86分には藤本がサイドから鋭いシュート。笠原に弾かれ、こぼれ球に茂が反応したがミートしきれず上へと逸れる。
 
3点差に開いても諦めず攻め続けるチームだが、大宮ゴールは割れない。89分、小島幹敏とアンジェロッティを河田篤秀と栗本広輝に代えて時間を使う大宮。茂のロングスローも野村のFKも最後まで実ることはなく、無失点のまま、戦いは終了した。

 

個と組織を高めなくては勝つのは難しい

コンパクトな相手を攻略しようと手を尽くす中で、ピッチ全体を見ていて感じたのは選手間の温度差だ。考えながら多彩に試行錯誤していた選手がいる一方で、上手くいかないことに対して工夫しようとしていないように感じられる選手もいた。その皺寄せをガッツでカバーする場面もあったが、淡々とミスを重ねる場面もあり、考えてプレーする選手たちに多く負荷がかかっているように見えた。
 
それに対して下平監督やコーチ陣がどう見ていたのかは気になるところ。今季は「共創」のテーマの下に選手たちの自主性を引き出そうと安易に「正解」を与えない方針のマネジメントを貫いているが、それによって選手たちがどこまで力を発揮できるのか。
 
前節から左WBは藤本ではなく高畑が先発しており、個で仕掛けるのが得意な藤本とコンビネーションからの抜け出しを武器とする高畑では周囲のタスクも変わってくる。藤本に自由に仕掛けさせるにあたりデルランの守備力は心強いが、高畑が入った際にはデルランの関わりの少なさが攻撃の選択肢を狭めてしまう。上夷が左CBに入ってからは最終ラインからの関わりが増えた。今節のデルランはアンジェロッティ対応に多くのパワーを削がれたかもしれないが、それならそれも周囲がカバーしなくてはならない。ちなみに相馬監督によると、今節、高柳と柴山の左右を入れ替えた意図は以下のとおりだった。
 
「相手の分析をしたことがひとつ。3バックの脇を突きたかった。もうひとつは、ここまでの試合で彼が逆足で立っていてよい時間を作れているときもあったが、フィニッシュまで行き切れていない部分もあった。そういうところを含めて今回は、戻すのは守備を含めて簡単なので、相手のトランジションが狙いやすいというところも含め、逆にしてスタートさせた」
 
そろそろ相手からの研究も進んでくる時期。実戦の中で、時には期せずして起きてくる部分も含めて、ピッチでどれだけ対応できるのかが問われてくる。
 
千葉戦の前だったかの公開トレーニング。受け手の特徴を見ながら出すことを考えるパス練習が行われていた。意識を高め技術を磨く余地と機会は、たくさんある。