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試合レポート

もろもろを乗り越えての劇的勝利。白星発進が今後に勢いをもたらす

 

雨混じりの強風に苛まれながら、辛抱強く戦ったアウェイでの開幕・徳島戦。一度は下されたジャッジが覆るなどセンシティブな事態も起き、終盤には同点弾を食らったが、あきらめずに貫いた総力戦から90+3分、宇津元渾身の劇的決勝弾が生まれた。

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向かい風に苛まれ耐え続けた前半

今回もポカリスエットスタジアム鳴門は強風の中にあった。前半、風下に立った大分は小雨混じりの向かい風に苛まれながら戦うことになる。
 
徳島のビルドアップに対して前線から激しくプレッシャーをかけていく狙い。プレッシング職人こと伊佐耕平を頂点に、続く野村直輝、梅崎司と経験豊富な3人が徳島の攻撃精度を削りにいく。風上に立つ徳島はその風に乗せるように2トップの右に立つ森海渡を目掛けて長いフィードを送ってくるが、マッチアップするデルランが空中戦をほぼ制圧し、そのままヘディングで前へと弾き返し続けた。
 
一方で、まともに風を受ける大分は前進できない。長いボールを前線に送っても風に押し戻されてしまう。短いパスを縦に差し込めば、たちまち徳島のプレスに行く手を阻まれた。藤本一輝と茂平も高い位置を取るに取れずといった具合で、あるいはそれが相手SBを引き出すことにもなっていたかもしれないのだが、フィールドの全域で潰し合いが繰り返される試合の入りとなった。20分にはデルランのクサビを梅崎が繋ぎ、藤本が持ち込んでシュート。相手守備陣に当たったこぼれ球を伊佐も押し込めず、決定機を仕留めきれない。
 
徳島は西谷和希が機動力でペレイラとの1対1を上回れると読んだのか、ワイドに開いて起点を作るようになると徳島の時間帯が増えた。グラウンダークロスがゴール前を横切りヒヤリとした場面もなんとかしのぎながら、ピッチでは梅崎や野村が「前半は風下で前進できないから、とにかく無失点で耐えよう」とチームメイトたちに声をかけていた。「後半、風上に回ったらボールを持てるようになる」。やりたいことは両軍ともに出来なかった印象の前半だったが、大分にとって、スコアレスでの折り返しは上々と言えた。

 

先制は野村弾。またも古巣相手に会心の一撃

後半立ち上がりはいきなり相手のカウンターに晒された。2連続の左CKを与え、2度とも柿谷曜一朗のショートCKではじまる全く同じパターン。2本目はオリオラ・サンデーにシュートを許すが、枠上に逸れてくれた。
 
先制は50分。カウンターから藤本が左サイドをえぐってマイナスのパスを送ると、野嶽惇也には合わなかったが、野村が拾って落とし弓場将輝がシュート。相手にブロックされたこぼれ球を再び野村が拾って置き直し、左足を振り抜いた。グラウンダーのシュートは密集を抜け、ホセ・アウレリオ・スアレスの指先をかすめてゴールへと転がり込む。またも古巣のスタジアムでの野村弾。大分ゴール裏へと走る野村を、サポーターがお祭り騒ぎで迎えた。
 
リードした大分は風上に立ったこともありペースを握ったかに思われた。茂が右サイドで仕掛ける回数も増える。徳島は58分、森を渡大生に交代して状況の改善を図るが、大分ペースが続いていた。

 

覆った判定に微妙な空気が漂うも…

だが、それに水をさされるような出来事が起きる。64分、弓場の放ったシュートがエリア内でコースを切った櫻井辰徳の腕に当たった。吉田哲朗主審は笛を吹きハンドの判定を下すが、それに対して徳島の選手たちが主審を囲み猛抗議。吉田主審は副審のもとへ走り、しばし話し合いを行うと、ピッチに戻ってきて自らの判定を覆した。すでにPKを蹴る態勢になっていた梅崎をはじめ大分の選手たちにとっては受け入れ難いジャッジ転換だ。ハンド判定の際に笛が吹かれたため、大分としては攻撃を途中でストップしている。ピッチサイドでは副キャプテンの高木駿も副審のもとに確認に行っていた。だが、スタジアムで審判団からのターンオーバーは行われず、どういう経緯で判定が覆ったかは謎のまま、試合はドロップボールで再開された。
 
気持ちを切り替えてプレーしようと、キャプテンの梅崎が中心になってチームに呼びかけ、選手たちは判定を受け入れる。その間に徳島は櫻井を白井永地に、杉本太郎を坪井清志郎に2枚替え。
 
73分には藤本が弓場との連係から相手守備網を突破して自らシュートするがサイドネット。74分には西谷のクロスから柿谷にシュートされて枠の上。

 

痛恨の89分。相手の圧を防ぎきれず

息詰まる熱戦が続く76分、下平隆宏監督もカードを切った。伊佐を宇津元伸弥に、梅崎を屋敷優成に。この日はポゼッションの巧みな徳島に対し激しくプレッシングしていく戦法を踏まえ、選手交代がカギになると指揮官は踏んでいた。現在絶好調で伊佐のプレスをそのまま継承できる宇津元と、今季はシャドーでスプリント力を生かす屋敷がプレッシングの勢いをキープする。
 
80分には茂が倒されて得たFKを宇津元が蹴り、ペレイラが触って混戦となったところを藤本が押し込んだが、オフサイド判定でゴールは認められず。追加点が取れずに終盤に突入した83分、徳島は田向泰輝を山下雄大に、児玉駿斗を西野太陽に交代。立ち位置をより攻撃的にシフトしてきた。
 
86分には野嶽を保田堅心に、野村を中川寛斗にと、大分ベンチも動く。展開がオープンになってきた中、保田と中川でボールを握り好機を築く狙いだった。だが、この直後、徳島の攻撃の威力が上回る。坪井のシュートはペレイラにディフレクションして空中高く上がり、西川幸之介が掻き出したボールは西野のもとへ。西野のボレーシュートは体を投げ出した安藤とデルランが一度は防ぐのだが、そのこぼれをもう一度西野に押し込まれて同点に。89分に追いつかれるという痛恨の展開だ。「昨季だったらこのまま追いつかれて終わったか、下手したら逆転されていたのだが」と下平監督も試合後に漏らしたが、今季のチームはここからもう一度、攻守にギアを上げる。

 

“共創”のチームが成した快挙と今後への課題

90+1分、下平監督は藤本に代えて高畑奎汰を投入した。ペレイラが渡や柿谷からボールを奪って攻めに転じる中から、右CKを獲得。キッカーは高畑だ。ボールはゴール前の密集の中でデルランのヒールによって掻き出され、そこでフリーになっていた宇津元がゴール右隅へと突き刺した。90+3分、見事なストライカーの仕事だった。宇津元にとっては自身のJ初ゴールでもある。
 
選手交代も含めての90分間のゲームプランは、強風や微妙なジャッジによる逆境の中でも貫かれた。指揮2年目となり、より選手個々の特徴を把握した下平監督のマネジメントの妙と言える。それを遂行した選手たちは、キャプテン梅崎を中心にピッチ内で意思疎通し、試合をコントロールしていた。
 
強風や相手の強いプレスに遭った攻撃では精度に課題が残った。ここは今後、高めていかなくてはならない部分だ。ただ、プレシーズンのトレーニングマッチでも確認できた組織的守備の安定感は、リーグ戦でも健在だった。
 
次節はいよいよホーム開幕戦。レゾナックドーム大分がどんな雰囲気に満ちるのか、楽しみにしたい。

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