サムエル2発、新太1発。相手の修正ももう一度押し戻し、待ち侘びたホームで歓喜
サムエルのリーグ初ゴールを含む2ゴールと渡邉新太の2戦連発ヘディングで前半だけで3点のリード。後半は修正した相手に押し込まれる時間帯もあったが、松本怜の落ち着いたプレーで戦況を回復し、リーグ戦ではJ2第9節・徳島戦以来のホームでの勝利を遂げた。
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強い気持ちで仕掛けたミラーゲームでのバトル
「町田は強度が高く本当にいいチーム。まずはそこに打ち勝っていく、パワーを持って戦っていくということを、選手に強調したい。プラス、どうやってズレを生むかといったところはこれからトレーニングするが、まずは前節の群馬戦と天皇杯・しまね戦を勝った勢いをどう出せるかということが、すごく大事だと思っている。いまやっと結果が出て少し自信が戻ってきつつあるところなので、彼らの心の火が灯ったまま、もっとさらに燃えるようなかたちで持っていければ」
2日、町田戦に向けての囲み取材で、下平隆宏監督はこう話していた。開幕から3ヶ月間続いた大型連戦で、コンディションのいい選手をチョイスしながらその都度工夫して戦い方を変えてきたが、その連戦のラストゲーム、どういう戦法で挑むのかが注目された。
指揮官が選んだのは自ら「強度が高い」と評する相手に対してのミラーゲーム。第15節から本格的に3-4-2-1にシステム変更している町田のサイド攻撃に枚数を合わせるかたちで、こちらも同じ3-4-2-1でスタートする。守備時には5バックで、ダブルボランチも含めてセカンドボールを拾う。攻撃へと切り替わると両WBがWGのように張って3トップを形成。後ろは2バックになり、状況によって高木駿が出てきたりもしながら、野村直輝と渡邉新太が2列目で掻き回し、プレッシングに出てくる相手の空けたスペースを自在に使って主導権を握った。
サムエルリーグ戦初ゴール、新太2戦連続ヘッド弾
先制は11分。流動的なポゼッションから三竿雄斗の縦パスを野村が収め、相手との競り合いにも粘って前を向き、藤本一輝に託す。抜け出した藤本のクロスに合わせたのはサムエル。マークについていた相手の頭上からヘディングで叩き込み、自身のリーグ初ゴールを鮮やかに奪った。
さらに24分には追加点。相手のパスを先回りしてカットした三竿が縦に送ると、それを受けた野村が仕掛けてクロス。弾道はカバーに入った髙江麗央に当たって上方へと高く弧を描いたが、上手く相手の前に体を入れながらその落下地点に走り込んだ渡邉がヘディングでネットを揺らした。渡邉は前節の群馬戦に続く2戦連続弾。第17節の岡山戦でヘディングシュートを外したことを悔しがり、その後ずっと練習していたという負けん気が、見事に結実し続けている。
早くも2点ビハインドとなった町田は25分、古巣戦の岡野洵をベンチに下げ、奥山政幸を一列下げて左WBに翁長聖を投入した。勢いをもって攻める町田だが、ペレイラが鄭大世やドゥドゥに起点を作らせず、羽田健人や弓場将輝がセカンドボールを拾い、高木が落ち着いて処理。翁長には井上健太がスピードで対応し、チャンスを作らせない。28分には左CKの流れからドゥドゥの横パスに深津康太が左足を振ったが、ディフレクションの末に枠の上へ。その後のセットプレーのチャンスも大分の守備に阻まれた。
サムエル2点目で3点リードして折り返す
40分には羽田の展開を受けた藤本が相手の寄せも退けてグラウンダーパス。渡邉が走り込んだがシュートは枠上に逸れた。
町田は1トップ2シャドーに左WBの翁長も並んで4トップ状態になる時間帯もあるほどの追撃姿勢。41分には太田修介が速いクロスを入れるが三竿がクリアした。そうやって町田が前がかりになっていた44分、ポープ・ウィリアムの縦パスを野村が拾い、ガラ空きのゴールに向かってシュート。これは惜しくも左ポストに弾かれたが、その1分後には3点目が生まれる。
サムエルをターゲットにした高木のキックに爆速で抜け出した井上が高い位置でボールを収めるが、翁長がついてきたためサポートに来た野村へ。野村のクロスはやや後ろに入ったかにも見えたが、サムエルがヘディングで沈めてこの試合の自身2点目を挙げ、さらにリードを広げた。
相手の修正に押し込まれる後半
3-0で折り返した後半、ランコ・ポポヴィッチ監督はフォーメーションを4-2-3-1に変更。最終ラインが右から翁長、深津、高橋祥平、奥山。2列目は右から太田、平戸太貴、ドゥドゥの並びとなった。
この変更により翁長と太田の町田の右サイドが活性化。下平監督も3点のリードを逆に警戒し、守りに入らないようにと指示を出して後半に臨ませたのだが、相手の突破力に押し下げられ、自陣に押し込まれる時間帯が続いた。51分には左サイドから高江を経由して右サイドにボールを送られ、翁長のスルーパスから奥山がクロス。これは高木がジャンプして掻き出した。52分にはセットプレーの流れから翁長のクロスにドゥドゥが頭で合わせ、枠の左。
選手たちに疲労が見えはじめた63分、下平監督はまずサムエルを、これが負傷明けで復帰戦となる長沢駿に交代。64分にはポポヴィッチ監督が鄭大世をヴィニシウス・アラウージョ、平戸を長谷川アーリアジャスールに代えた。白熱したポポヴィッチ監督にはレフェリーへの異議でイエローカードが提示される。
ここからは翁長のロングスローが脅威になった。68分、そのロングスローをクリアしたこぼれ球から、奥山が目の覚めるようなゴラッソ。1点を返された。
71分にも翁長のロングスロー。72分には高江のアーリークロスを高木がキャッチ。73分には佐野海舟の浮き球に抜け出した太田にシュートを打たれたが、至近距離で高木が体を張って阻んだ。
なにしろ2018年のJ2第11節を思い出す。早々の12分に深津が退場した中、馬場賢治のハットトリックで3点リードして折り返すも、10人になった町田の激しい追撃に遭って47分と84分に失点し、90分の伊佐耕平の4点目でなんとか逃げ切れるかと胸を撫で下ろしたあと、90+3分に3点目を奪われたという記憶に残る一戦だ。あれから指揮官は替わったが、町田伝統の強度の高い戦いぶりは変わらない。次の1点を奪われると危ないという空気感が漂った。
サイドのテコ入れでペース回復に成功
この状況を打開すべく74分、下平監督は野村と藤本を梅崎司と松本怜に2枚替え。経験豊富な2人の鮮度の高い対応により、翁長の突破は抑えられ、前線でボールを引き出す動きが生まれて、大分の戦況が回復する。76分には弓場とのワンツーから渡邉のパスに梅崎がエリア内でシュートチャンスを迎える形も作った。82分にはゴール正面からの梅崎のFKがポープ・ウィリアムに横っ跳びで掻き出される。
82分、町田はドゥドゥと太田を山口一真と佐藤大樹に交代。次々に送り込まれる町田の攻撃陣にも、集中を切らさず大分の対応は続く。86分には渡邉と弓場を下田北斗と保田堅心にチェンジしてそれぞれそのままの位置に配置した。保田はこれがリーグ戦デビューとなる。
アディショナルタイムは5分。町田は高橋を前線に上げてのパワープレーで最後まで追撃姿勢を緩めなかったが、大分が落ち着いて逃げ切り、試合は3-1で終了。天皇杯を含め公式戦3連勝、リーグ戦は今季3度目の2連勝で、リーグ戦ホームでは4月10日の第9節・徳島戦以来の白星を挙げた。
ミラーゲームで目の前の相手に負けず、前へと攻める姿勢を前面に出した一戦。野村は試合後に「J2のサッカーはシンプルで、前に行ってガチャガチャしてバトルで勝ったほうが意外と優位になったりもするので、そこのバランスをいま、上手くやれているのではないかと思っている」と振り返った。
とにもかくにも、これで過酷だった大型連戦は終了。前半戦ラストの次節から、リーグ戦はほぼ週1ペースとなる。負傷者の何人かはようやくスパイクを履ける状態になったと指揮官からの情報もあった。全力での巻き返しは続く。