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試合レポート

出鼻の失点とプラン不発で相手の長所を引き出した前半。猛追も及ばず5試合ぶり黒星

 

立ち上がりのミスからの失点も影響したか。前半は狙いが裏目に出て相手の良さを引き出す展開になってしまった。後半に修正して猛追したが1点を返したのみ。4年ぶりの熊本との九州ダービーは黒星に終わった。

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用意したプランが裏目に出た前半

とにかくスピーディーかつ流動的にボールを回す大木武監督のパスサッカーは、ひとたびペースを握られれば、立ち位置でどんどん後手に回ってしまう。その厄介さゆえに、絶対に主導権を渡したくない相手だった。こちらが主導権を握るために、チームは前から激しくプレッシャーをかけようと狙いをもって臨んだ。
 
だが、立ち上がり数十秒でいきなり失点。勢いよく前から守備に行ったところで背後を取られ、ペレイラが髙橋利樹に競り負けてクロスを入れられると、中央に走り込んできた田辺圭佑にダイレクトで合わせられネットを揺らされた。
 
想定外の展開に鼻白んだか、その後の展開は完全に精彩を欠く。球際やスピード、セカンドボールへの反応で遅れを取ったことで、準備してきた戦術が裏目に出た。エドゥアルド・ネットが最終ラインに落ち、下田北斗もインサイド気味に下りた3-5-2の立ち位置でボールを動かすが、相手の速い守備に阻まれて2トップとの距離が広がる。呉屋大翔が体の強さを生かして突破を試みれば人数をかけて潰され、伊佐耕平や高畑奎汰のクロスは相手にクリアされた。球際に寄せることで布陣のバランスが崩れた状態になり、攻撃時にいい立ち位置を取れず奪い返される繰り返し。執拗なチェイシングで奮闘した中川寛斗も、攻撃で数的優位を作ろうとボールサイドに顔を出すがなかなか前を向かせてもらえない。守備でも大きなサイドチェンジや長いボールへと追いつけない場面が見られた。

 

戦い方を整理できないまま2失点して折り返す

相手にボールを持たれると球際へ寄せる守備が後追いになり、そこで剥がされるのを警戒してか自陣では慎重になったことが寄せの甘さへと裏返る。29分、ボールを動かされた末に2失点目を喫した。田辺の縦パスに走り込んだ坂本亘基が折り返し、最後は杉山直宏がペナルティーエリア中央でダイレクトシュート。ゴール前に守備の人数は多くいたにもかかわらず、フィニッシュの場面はボールウォッチャーになってしまった。
 
30分にも高橋の折り返しに田辺が走り込む大ピンチに陥り、エドゥアルド・ネットが体を張ってしのぐ。35分のクリアボールからの坂本のシュートは枠の右に逸れた。
 
38分には呉屋が頑張ってライン際から折り返したが、走り込んだ中川は相手に阻まれてシュートを打てず。41分にはようやくエドゥアルド・ネットのパスを受けた中川が上夷克典との縦関係で呉屋がシュートする形を築いた。熊本がややプレスを緩めた前半終了間際、上夷が高い位置を取れるようになる。45分には黒木晃平のミドルシュートを高木駿がしっかりと抑えた。
 
だが、前半の大分はほとんどいいところなく組織は分断されたまま。ハーフタイムでの修正が待たれた。

 

野村・藤本の投入と立ち位置の変更で形勢挽回

下平隆宏監督は、中川とエドゥアルド・ネットを藤本一輝と野村直輝に代えて後半をスタート。小林裕紀のアンカーの前に下田と野村のインテリオールを並べ、フォーメーションを4-3-3に変更する。藤本と伊佐の両WGを高く張らせ、2人に長いボールを入れて相手を押し込む策に出た。
 
2点リードした相手が前半の疲労もあり勢いを落としたこともあるが、この修正が奏功するかたちで、後半の大分は息を吹き返した。特に藤本と野村の個人技で相手を圧倒して一気にペースを握ると、48分に呉屋、51分に伊佐、54分にFKからペレイラと好機を増やす。
 
熊本は57分に竹本雄飛を伊東俊に代えたが大分ペースは変わらない。62分には野村が切り返しで相手を剥がしシュートして、わずかに枠の左に逸れた。大分が押し込む展開の中、熊本は69分に田辺と杉山を阿部海斗と粟飯原尚平にチェンジ。やや盛り返すかと思われたが、やはり大分が攻め熊本が守る構図は続いた。

 

サムエルがわずかずつフィットしはじめている

押し込みながらも得点を奪うことが出来ずにいた72分、下平監督は呉屋と伊佐をサムエルと梅崎司に交代。まだ体が絞れておらず動きも重いサムエルだったが、短時間ながら出場を重ねるたびに、少しずつその長所が見えるようになってきた。この試合でもポストプレーやコンビネーションを披露。出した後に動いたり細かくポジションを取り直したりという連続性は不足していたが、体の強さを生かして相手に競り勝ったりボールを収めたりすることが出来ていた。さらに76分には上夷に代えて羽田健人。羽田はそのまま右SBに入った。
 
そして80分。ようやく大分が熊本の牙城をこじ開ける。野村のFKのクリアボールに走り込んだ梅崎のシュートはいまいちミートしきれなかったが、ゴール前混戦の中でサムエルが足を出し、最後に藤本が押し込んだ。だが、電光掲示板には「サムエル」の文字。2点目のためにボールを抱えてセンターサークルへと急いでいた藤本は「あとで公式記録で書き換えられるかなと思っていた」と試合後に笑いながら明かした。実際に、のちに公式記録は藤本のゴールへと訂正される。
 
1点を返して勢いづいたチームはまずは同点を目指し追撃を続けるが、87分、三島頌平を酒井崇一に代えた熊本を前に、サムエルのシュートは佐藤優也のセーブに遭い、藤本のミドルシュートはわずかに枠外。5分のアディショナルタイムにはペレイラが前線に上がり、CKのチャンスには高木もパワープレーに参加したが、2度目にネットを揺らすことは出来なかった。

 

狙いが裏目に出た皮肉な展開に

「相手に好きなことをさせないように、こちらのペースに持ち込みたい」とハイプレスで相手を阻みに行った前半は逆に相手のストロングポイントを引き出す展開となり、追撃のために相手よりも自分たちのストロングを出そうと作戦変更した後半のほうが主導権を握れるという皮肉な展開になった試合。シーズン序盤になかなか結果を出せず、一旦は封印していた4-3-3のフォーメーションで流れを引き寄せたことについても、下田は試合後に複雑な表情を浮かべた。
 
怪我から一度は復帰したものの軽くぶり返して大事を取っていた野村が、スタートから起用できる万全のコンディションであればプランも変わっていたかもしれない。立ち上がりの失点がプランを狂わせた部分もあった。
 
だが、この試合だけでなく今後の戦いを見据える上でも、やはり相手の速いプレッシャーを剥がせるまでにビルドアップの完成度は高めなくてはならないし、プレスをかけられる中でも前を向けるようになる必要がある。どうしても守備で相手に剥がされるなら、球際に行かず構えて守る選択肢もセオリーとしては存在する中で、チームがそれを選択するかどうか。上手く行かない時間帯のピッチからはもどかしさと焦燥感ばかりが伝わってきたが、そこで柔軟に修正していく力も養っていきたい。

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