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試合レポート

相手の術中にハマっていった90分。金沢の長所を引き出す展開に

 

相手の特徴を踏まえて攻略しようとしたが、ゴールを割るには至らず。逆に修正した相手に先制されてからは焦ったようにバランスを崩し、悔しい敗戦となった。

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押し込んだ状態で崩しにかかった前半

まさに相手の術中にハマってしまったとしか言いようのないゲームだった。
 
相手陣地ではあまりプレッシャーをかけず、ディフェンシブサードではマンツーマン気味に守るという特徴的な金沢の守備についてはスカウティング済みで、それに対する準備も施していた。割と早めに相手陣にボールを運び、相手がついてくるのを逆手に取って、つり出してはスペースを空けてそこを使うコンビネーションを駆使しながら攻略を試みた。
 
その狙い自体は的を射ており、柳下正明監督は「(大分は)ちょっと立ち位置を変えたり高さを変えたりして、こっちから(奪いに)行くのは難しかった」、庄司朋乃也も「誰が誰に行くのかがはっきりしていなかった」と前半を振り返る。
 
現象としては大分が金沢を押し込む形になり、チャンスも多く作れたのだが、9分の野村直輝のシュートも20分の長沢駿のシュートも、最後のところでは相手に阻まれてゴールを割ることは出来ない。相手陣で攻め続けることでCKも多く獲得したが、前半だけで8本あったCKも、いずれも得点には結実しなかった。

 

カウンターから先制点を奪われる

「持たせて引っ掛けてカウンター」を狙っていた金沢も、その狙いを出せた場面は少なかったが、14分には藤村慶太が、28分には林誠道がシュートを放つに至る。ただ、大分も帰陣が早く、いい体勢では打たせない。
 
45分にはビッグチャンス。だが、香川勇気の右足クロスからペナルティーエリア内で呉屋大翔が放ったヘディングシュートは、無念にもポストに阻まれてしまった。
 
「大分の精度不足にも助けられた」と言いつつ前半を無失点で終えた金沢は、なかなかボールを奪えずいい形でカウンターを発動できなかったことを受け、守備を修正。2トップの役割を明確にし、前半とは違って前からプレスをかけるよう守備の積極性を増した。
 
それにより、前半よりもスペースが生まれていた後半立ち上がり。まさにそれが試合の分水嶺となった。
 
右サイドのポゼッション中に長沢が相手をつり出してスペースを生み、そこを狙って野村が縦パスを差し込んで伊東幸敏が抜け出したまでは完璧な形。だが、伊東が野村へと出したパスは戻ってきた相手にカットされ、逆にカウンターを受けることになる。こちらもパスコースを切って一旦はスピードダウンさせたのだが、松田陸に長い縦パスを通され、抜け出した杉浦恭平に大分守備陣の連係ミスを突かれた。飛び出した高木駿もかわされ、53分、先制点を奪われる。

 

生じた焦りから攻守に緻密さを損なった

攻めていたにも関わらず得点できずにいるうちにカウンターで先制されるという展開に、選手たちには焦りが生じたように見えた。
 
勢いづく金沢は59分にも追加点。浮き球が多くなっていた激しい攻防の中、自陣中央で相手の浮き球を香川が胸トラップしたところを小野原和哉に奪われ、そのまま右に持ち出されてクロス。中で待っていたのは林で、ペレイラもついていたのだが阻むには間にあわず、フリーな状態でヘディングシュートを許してしまった。
 
62分、大分は3枚替えで流れの刷新を図る。小林裕紀をエドゥアルド・ネットに、呉屋を宇津元伸弥に、渡邉新太を井上健太に交代。井上は右SHに入り、野村が左に回った。だが、66分、自陣ゴール正面でパスコースを探すネットが林にボールを奪われ、持ち上がってシュートを放たれる。弾道が左に逸れて助かったが、危ないシーンだった。
 
それでも68分には1点を返す。宇津元の落としを野村が長沢に当て、拾った宇津元が井上に託す。追い越した伊東が受けてマイナスに折り返すと、相手の死角から走り込んだ野村がそれを仕留めた。“背番号10”の復帰後2戦連発に、ホームスタジアムが沸く。

 

スペースが生まれ、理にかなった交代策で追撃したが…

さあここから反撃と士気を高める時間帯。金沢も失点直後に、林と杉浦の2トップを大谷駿斗と豊田陽平に、小野原を力安祥伍に3枚替えした。
 
スペースが生まれた中で追撃の機運も高まり、70分にはボールを縦横に動かして最後は野村。だがシュートは枠を捉え切れない。ネット、井上、宇津元と交代で入った選手たちも多くボールに絡み、まずは同点を目指して攻撃の意識を強めた。
 
だが、その意識の強まりも裏目に出たような78分。3分前に嶋田慎太郎と代わってピッチに入った平松昇に痛恨の3点目を奪われる。三竿雄斗に激しく寄せられて倒れながらも出した大谷のスルーパスに力安が抜け出し、その横パスに香川もペレイラも追いつかなかったところを平松に流し込まれた。
 
80分、下平隆宏監督は伊東をベンチに下げサムエルを投入。井上を右SB、宇津元を右SHに移し、サムエルと長沢の2トップとして攻撃色を強めた。86分には疲労した香川を松本怜に代え、あきらめずに2点を追うが、コンビネーションからの松本のクロスも相手にカットされてしまう。
 
90分には金沢が松田を毛利駿也に交代。5分のアディショナルタイムにはネットがキッカーを務めるCKも2本得たが、追撃は実らないまま試合は1-3で終了。今季3連勝はならなかった。

 

真実と真実が噛み合って悪いほうに転がった

リーグ戦では第4節・長崎戦以来の複数失点。ホームで屈辱的なスコアとなった。
 
柳下監督は、試合の流れを引き寄せることになった先制点ゲットのポイントを、ハーフタイムでの守備の修正とした。嶋田も「前半は相手にボールを持たれる中で自分たちの思うようなプレスが出来なかったが、ハーフタイムにそこを修正して後半は上手くいった。前から圧を強めていくようにすると、上手いことハマった感じがあった」と振り返る。
 
一方で大分側からは、金沢の守備の変化はそれほど関係なく、ただただ自分たちが先制点を奪えなかったことに尽きるという声が出揃った。
 
どちらも真実なのだと思う。ただ、その意識の変化と相手の修正が、悪いほうに噛み合ってしまった印象だ。消されたスペースをこじ開けるべく苦心した末に得点を奪えなかった前半から、後半は一転、相手が前から圧をかけてきたことによってスペースが生まれ攻めやすくなったはずなのだが、ひたすらゴールを目指す意識が、逆に相手のストロングポイントを引き出してしまった。
 
「こちらが1点、2点取ってから、大分が厳しいところでもパスをつけてくるなという感があり、前に行きたいのかなと感じていた。うちとしては来てくれたら奪ったあとのカウンターがある。そこをいちばんの狙いとしていた。もちろんそこで剥がされる部分もあったのだが、上手く奪えればビッグチャンスになるので狙っていた」と嶋田は話す。
 
長沢も「少し攻め急いだところがあった」と話したように、たとえ先制されても粘り強く攻めていれば、もうひとつ崩せた場面もあったようにも思える。「先制されたことへの焦り」で意識のバランスから崩れてしまった背景には、連戦による疲労も関係していたかもしれない。先週とは逆でミッドウィークがリーグ戦、週末がルヴァンカップという日程も、大会ごとにターンオーバーしているチームにとっては不運だった。
 
こうした“勝負のアヤ”はサッカーのいたるところに生じて、そのわずかな要素が試合展開を動かすきっかけになることも多い。タフなJ2で相手を上回っていける勝負強さを身につけて、次の準備へと切り替えたい。