苦しい展開もCKからの長沢弾&今季初の無失点。9連戦は白星スタート
攻撃力の高い相手を前に苦しい展開を強いられたが、粘り強く戦う中でセットプレーから得点。細かい守備戦術の落とし込みも機能して今季初のクリーンシートで、ライバル徳島を下した。
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出足で上回る徳島に主導権を明け渡した前半
リーグ戦4試合連続無失点にして3試合連続無得点という難しい相手をホームに迎えた一戦。無得点試合が続いているとはいえ徳島の攻撃力は高く、連係しながらサイドを崩し機を見極めて背後を狙ってくるなど厄介だ。その攻撃を封じながらゴールを狙うことが、今節の大きなポイントだった。
開幕後初めて得た1週間の準備期間に、チームは守備を重点的に確認。隙なくブロックを組むこととタイミングを図ったラインコントロールが要点だったが、同時に守備意識を高めることによって攻撃の勢いが落ちないよう、攻守のバランスも考慮したという。
立ち上がりは小林成豪の持ち上がりから呉屋大翔がゴールを狙うなど積極的に攻めたが、次第に出足で上回る相手にセカンドボール奪取やインターセプトを許し、主導権を明け渡してしまう。西谷和希の仕掛けを起点に児玉駿斗や新井直人が絡む左サイド、浜下瑛との連係から藤田征也がクロスを入れてくる右サイドへのそれぞれの対応で、徐々に中盤が押し下げられ距離感が悪くなった。2トップやSHも戻って攻守に関わろうとするが、大分の選手の足元も狙いつつ前線から激しくプレスをかけてくる徳島にベースの部分でも上回られる。下平隆宏監督はその要因を「ボールを持たれる側に回ったことでの疲労感」と分析した。
守備ではトレーニングの成果を発揮できていた
ただ、流動的な相手の攻撃にも粘り強く対応し、エリア内に進入されても根気よく跳ね返し続けることは出来ていた。トレーニングで徹底したラインコントロールで、26分と31分には相手の裏へのボールもオフサイドで無効化できた。32分には浜下にパスカットされ白井永地にフリーでシュートを許したが、高木駿が左手一本で掻き出した。
選手間の距離が遠く上手く攻撃の形を作れない中で、松本怜が持ち上がって自らシュートを放ったり、呉屋が懐深くボールを呼び込んだり、小林成がドリブルで全体を押し上げたりと個々の力量の見せ場は作っていたが、どうにも意図したような攻撃は繰り出せない。
前半アディショナルタイムには長沢駿のポストプレーを小林成が展開し松本のクロスから呉屋がフィニッシュという形が作れたが、万全な体勢で呉屋に打たせることが出来ず、シュートは絶好調のホセ・アウレリオ・スアレスにキャッチされた。
互いにチャンスを仕留めきれず緊迫した時間が続く
守備の積極性を増して仕切り直した後半は、立ち上がりに立て続けに好機を築く。51分には小林成のクロスに呉屋が頭で合わせて枠のわずか右。53分には松本のクロスがクリアされたこぼれ球に渡邉新太が走り込んだが枠の上へ。
徳島も57分、西谷の仕掛けから児玉が落として新井がシュートするが枠の右。度重なるセットプレーのチャンスもものに出来ず、63分に徳島ベンチが先に動いた。右WGを浜下から杉森考起へとチェンジする。69分にはフィードに抜け出した西谷がビッグチャンスを迎えるが、自ら打たずにムシャガ・バケンガへのパスを選択したことで、ペレイラが間一髪で素早くそれを阻んだ。
ひとつのミス、一瞬の隙で均衡が崩れそうな緊迫した展開の中、下平監督は72分に3枚替え。当初は小林成を井上健太に、呉屋大翔を伊佐耕平に交代するだけの予定だったが、このタイミングで松本が足をつらせたため増山朝陽とチェンジ。井上が右SHに入り、渡邉新太が左SHに移った。徳島は74分、内田航平をカカに、西谷を藤尾翔太に交代する。
デザインされた左CKから長沢渾身の一撃
この交代が早速奏功したのは大分だった。75分、ペレイラのフィードを長沢が落とし、拾って運んだ伊佐はシュートコースを切られたが、左サイドを駆け上がってきた増山が拾って渡邉がクロスを試み、相手のブロックに遭って左CKを獲得。
苦しい展開を強いられた中、これがこの試合唯一の大分のCKチャンスだった。キッカーの下田はショートCKを選択し、増山に一旦預けてから再び受けてクロス。ファーで競り勝った伊佐の折り返しにゴール前で両軍何人もが飛び込む中、さすがのヘディングシュートを放ったのは長沢だった。76分、ついにネットが揺れ、徳島は5試合ぶりの失点を喫する。
81分には徳島が白井に代えて渡井理己。相手の追撃に備えたい84分、だがここで増山が負傷するアクシデント。坂圭祐と交代し、坂がCBに入って三竿雄斗が左SBに移ったが、ピッチに立っていたわずか12分の間に得点に絡む大仕事を遂げた増山は天晴れだった。
戦いに込められた思い。勝利のもたらすもの
徳島は右サイドを反時計回りに高くした攻撃的布陣で最後の追撃に出るが、集中を切らさない大分の守備網は破れず。90分には下田をエドゥアルド・ネットに代え、上手く時間も使いながら無失点のまま乗り切った。内容的には相手に主導権を握られた難しいものとなったが、守備を強化した中で、今季初のクリーンシートを達成できたことには手応えを得た一戦となった。
この試合で選手たちは、大分U-15を卒業したばかりの選手の急逝を受け、喪章を巻いてプレー。急な病に倒れた15歳のために下田、町田也真人、屋敷優成が動画メッセージを送るなどして励まし、選手全員のサイン入りユニフォームも贈っていた。試合前にロッカールームで強化部からあらためて悲報を受け、長沢は「みんなでつらい思いを味わった。僕たちは目指されている立場だと思うので、恥ずかしくないようなプレーをしなくてはならないという思いで臨んだ。必ず見てくれていると思っていた」と試合後に明かしてくれた。
その後の円陣では岡山一成コーチが松本のJリーグ出場通算250試合を勝利で祝おうと声をかけた。大分でJ1からJ3までをクラブ史とともに戦い抜く34歳と、来季はもう一度J1のステージに立ちにいく。まずは9連戦を白星スタート。弾みをつけて勝点を積み上げていきたい。