勝負どころを見極めた策で先制するも3分後の落胆。それでも勝点1は積んだ
蓄積疲労の色濃い、11連戦の7戦目。攻守にアグレッシブな山口を前に準備した万全の策が裏目に出た前半から立て直し、後半に先制するも3分後にセットプレーから失点。ショッキングな展開で初勝利がお預けになったことに落胆を禁じ得ない一戦となった。が、すぐにまた次節がやってくる。
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ロジックどおりに表現できなかった前半
毎試合得点は出来ているが無失点試合もない課題に取り組む一環として、今節、チームはフォーメーションを4-2-3-1に変更して臨んだ。大分と同様、GKからボールをつないで組み立てる山口の攻撃を制限するために、中盤3枚に枚数を合わせる形でマッチアップ。
守備時には4-4-2のブロックを組み、トップ下に入った運動量豊富な中川寛斗が相手の攻撃起点となる佐藤謙介をマークしながら前線からプレスをかけてボールを奪う狙いで、奪えずに縦パスを通されたときにはコンパクトなブロックの中で球際厳しく潰しにいくのが約束事だったと思われる。
だが、試合がはじまってみると完全に相手の勢いに押されることになった。もとより山口はボールの動かしが巧みで、アグレッシブな勢いもある。失ってからのプレッシングも早い。それに対する大分の選手たちからは、明らかに疲労の色が見て取れた。出足で上回られ、球際で競り負ける。前線からプレッシャーをかけても相手に剥がされたり、タックルしたにもかかわらず奪いきれずに攻められたりして後追いで守備をすることになるため、なんとか自陣で奪っても前を向くことが出来ない。
高い位置を取る相手SBの背後でSHが起点になる狙いについても、後ろからの配球の精度が低く、何度もチャンスで自滅した。増山朝陽や小林成豪にボールが入り仕掛ける態勢になっても、サポートが少なく中に入る枚数も不足していて、苦し紛れのクロスは容易に相手に掻き出された。インテンシティーで上回る相手に打たれるシュートを、高木駿のセーブや三竿雄斗のブロックでしのぎながら過ごす時間が続く。高木駿と小林裕紀は比較的落ち着いてプレーしていたが、他の選手たちは明らかに本来の力量を出せていないように見えた。
守備の修正がいい攻撃にもつながり呉屋弾で先制
完全に相手に主導権を握られてひたすら耐える様相を呈した前半だったが、それでもなんとか0-0で折り返した。前半の内容を踏まえ、ハーフタイムには呉屋と中川は2CBに圧をかけ、ボランチの1枚が佐藤謙介を見る形に変えることで前向きにボールを奪えるように守備を修正。サイドの立ち位置も高くなり、それが形勢挽回につながった。
さらに今節のゲームプランの大きなポイントはもうひとつ、後半勝負だった。ここまでの試合すべてで山口は先制点を挙げているが、同時に全試合で後半に失点を喫している。後半に勝負どころを定めていた大分は61分、中川を町田也真人に、増山を井上健太に交代した。するとその1分後、先制点が生まれる。右サイドでボールを拾った井上が高速で持ち上がって呉屋に当て、そのワンタッチでの展開を駆け上がってきた小出悠太がダイレクトにゴール前へ。絶妙に相手最終ラインとGKの間へと供給されたボールを、最後は好調の呉屋が左足で流し込んだ。
山口にとっては今季初めて先制を許したゲーム。大分にとっては、決してスマートな戦法ではなかったが、ここまでは完全にゲームプランにハメた感触だった。後半の盛り返しに先制弾が加わり、さあここから反撃して追加点を奪いにいこうという流れ。
先制の喜びも束の間、3分後の痛恨
だが、その流れは3分後、あまりにもあっけなく断たれてしまった。田中渉のクロスから得た右CKを池上丈二が蹴り、ニアで高木大輔が頭でそらすと、そのタイミングでゴール前を固める大分の選手たちの後ろに下がりフリーになっていた沼田駿也が蹴り込んで山口が同点に。
山口はそのタイミングで高木大と田中を吉岡雅和と神垣陸に交代。この時間帯になると山口も勢いは醸しつつひとつひとつのプレーがやや雑になる。逆に大分はサイドのローテーションが機能しはじめ、組織的な攻撃を繰り出せるようになった。76分、大分が小林成と呉屋を宇津元伸弥と長沢駿に代えると79分には山口が眞鍋旭輝を石川啓人へとチェンジする。タフなゲームの終盤、両チームに足を攣らせる選手が続出する。高木駿もボールを素早く前線へと送りながら攻める大分だが、長沢の長身を生かす攻撃はなかなか繰り出せない。85分には崩されて跳ね返したこぼれ球から吉岡のシュートが枠の左。86分には井上が走ってゲットした右CKの流れから下田北斗のクロスを坂圭祐が折り返し、飛び出した関憲太郎にキャッチされる。88分には空中戦で吉岡と接触した坂が頭を強打してピッチに倒れるが、しばらく様子を見てプレー続行。
アディショナルタイムは5分。90分には山口が足を攣らせた池上を佐藤健太郎に交代。大分も90+3分に三竿を香川勇気に代えて吉岡への対応と左足でのアーリークロスに懸けた。最後までどちらに転ぶかわからない試合になったが、結局ネットは揺れず、試合は1-1で終了。山口は連敗を回避し、大分の初勝利はまたもお預けとなった。
過酷な連戦の中、どこかで浮上のきっかけを
試合後、選手たちは疲労しきった様子でミックスゾーンに現れた。負傷者が続出している中での11連戦。特に15日のルヴァンカップ鹿島戦までの中2日での4連戦は、カップ戦で先発をターンオーバーしたと言ってもやはり負荷が高かった。結果が出ていないことが、精神的な疲労も増幅させる。坂は側頭部の大きなたんこぶを氷で冷やしながらも、ちゃんとミックスゾーンを通過してくれた。
今季の山口はペース配分を考えない勢いで立ち上がりからひたすらアグレッシブに飛ばすスタイル。90分を通してそれとまともにぶつかり合う負担は大きい。戦力のやりくりと選手たちの疲労度を考慮し、失点の多い守備の課題を克服する目的も持っての4-2-3-1採用と、後半勝負のゲームプランは理には適っていたし、実際にそれで先制することも出来た。終盤には目指している攻撃的スタイルの形も、本来の強度には至らなくとも、作れてはいた。
そこまでやってのしかかる、セットプレーからの失点。現状のチームコンディションで勝利を挙げるために策を凝らした下平隆宏監督も「今季初めてスーツを着てみたが流れは変わらなかった」と流れの悪さに自嘲気味。選手たちは前半のうちに修正できなかったことを悔やんだ。
展開が展開だっただけに先制点に歓喜し、その直後に落ち込んだ感も否めず、みんながまるで敗戦後のような空気感でスタジアムを後にすることになった。だが、この一戦にかぎって落ち着いて考えれば、ホームとはいえこのチーム状態で山口にドローは最低限の結果。問題は当初の予定どおりに勝点を積めていないことだが、まだ1勝すれば順位はジャンプアップする状況だ。守備面・攻撃面ともに修正できた部分もあり、それをポジティブに捉えて前を向かなくては、すぐにやってくる次節の琉球戦にも重苦しさを引きずってしまう。選手たちは決して言い訳しないが、この日程はどう考えても過酷だ。監督やコーチングスタッフは、戦術面から選手の勢いやパワーを引き出せるような策を考える必要もあるかもしれない。