アクシデントとアウェイの洗礼にさらされた今季初陣、それでももぎ取った+1
予定とは異なりアウェイで、ようやく迎えることが出来た今季の初陣。地震やコロナ禍や負傷のアクシデントを乗り越えたチームが踏み出した第一歩は、今度は強風という試練に見舞われた。
試合情報はこちら
目指す形の片鱗は見えたが…
CK時にボールをセットしても風で動いてしまうほどの強風の小瀬。コイントスに勝った大分はエンドを入れ替えて風上スタートを選んだが、ボールを蹴りあった立ち上がり、弾道は絶望的なまでに風に流されて意図どおりには描かれず、互いに落ち着かない入りとなる。
大分のほうが手探り気味だったのは今季初の公式戦ということもあったか。加えてドームをホームスタジアムとするチームは風の影響の強いゲームに慣れていない。球際の競り合いで上回られる場面も多く、ミスも多発して立て続けに相手にシュートを許した。
が、徐々に落ち着くと10分、ようやく攻撃が成立する。自陣深くでの競り合いからボールを奪った下田北斗が浮き球を送ると、渡邉新太が右サイドを持ち上がり、中から追い越した井上健太へとスルーパス。井上のグラウンダークロスは相手DFの間に位置取った呉屋大翔へと届いたが、やや後ろに入ったためジャストミートできず相手GKにキャッチされた。
19分には左サイドで粘り強いポゼッションからの崩し。下田、渡邉、小林成豪の連係から最後は町田也真人が送ったゴール前への縦パスに渡邉が反応するも、シュートは河田晃兵に阻まれた。決めたかったところだが、ここにも今季のチームの目指す形の片鱗が見えたようだった。
実戦の中で今季の戦い方を整理していく
ボールを握りたいチーム同士の対戦とあり、トランジションを繰り返す細やかなカウンター合戦が予想されていたが、はじまってみるとシュートにまで持ち込む回数は圧倒的に甲府のほうが多い。球際激しく寄せ、風下ながら勢いを醸して、大分のアンカー脇やSBの背後を使い積極的に攻めた。
J1で生き残るためにバランス重視の戦い方をしていた昨季までと異なり、J2から積み上げて1年でのJ1復帰を目指す今季は敢えてリスクを負ってでも攻撃的な立ち位置を取りにいくため、カウンターの応酬となるとどうしてもスペースを使われがちになる。それでもこちらが奪って攻め返せばそのほうが態勢もよくゴールへの距離も近いのだが、この試合ではその“攻め返す”段になってミスや精度不足が多発し、再び攻め返されて相手の時間が長くなるという課題が露呈した。
加えて相手カウンターを受けたとき、ドリブルの後追いになる場面も多かった。大分はWGが高い位置を取ることで相手WBを牽制していたようだが、一度そこをかわされるとバタつくことになった。フォーメーションに継続性のある甲府のほうが、ミスマッチに関する判断が早かった印象だ。32分の失点も、右WB須貝英大の前方スペースへのスルーパスに飯島陸が抜け出し、そのマイナスのクロスを長谷川元希に合わせられた形だった。おそらくスペースの埋め方や帰陣のコースなどだと思われるが、下平監督はハーフタイムに守備面に修正を施したという。
向かい風に苦しむ後半も粘り強さを維持
前半がはじまる前には強風の影響でピッチに水が撒けず、ハーフタイムには撒水できたことも不運だった。追い風だった前半は風に押されて弾道が伸びがちだった反面、乾いた芝をボールが走らずコントロールに苦心した。後半は、ピッチは濡れたがボールが向かい風に押し戻されて前に進まない。逆に甲府は前への勢いを増すことになった。
甲府のターンが増える中、粘り強い戦いは続いた。64分には相手のシュートコースを阻みに入った渡邉のハンドによりゴール正面からのFKも与えたが、長谷川のキックは壁が防いだ。67分には飯島にシュートを許し、吉田舜の好セーブでしのぐ。
ボールを前に運べない時間帯、下田はどう戦うのが正解なのかと逡巡していたようだ。先に動いたのは甲府ベンチ。68分、飯島を関口正大に交代した。大分は72分に2枚替え。井上と小林成の両WGを増山朝陽と藤本一輝にチェンジすると、相手の背後へとボールを引き出そうと駆け引きしたり個人技で前へ運ぼうとしたりの動きが増えた。
あきらめない姿勢が劇的同点弾を生んだ
76分には甲府が、ウィリアン・リラと松本凪生を内藤大和と林田滉也に交代。残り時間が少なくなるにつれて、なかなか上手く攻めきれない大分を前に、甲府には1点を守ろうとする姿勢が見えはじめる。それを見越してか、下平監督は81分、呉屋を長沢駿に、渡邉を中川寛斗に代えた。82分、増山のロングスローは驚異の飛距離を見せたが相手にクリアされる。85分、長沢のヘディングシュートは枠を捉えきれず。
自陣にブロックを構え、大分の攻撃をシンプルに跳ね返すばかりになった甲府に対し、大分は86分、町田をベンチに下げ小林裕紀を投入。小林裕がアンカーに入ってセカンドボールを拾い配球し、下田は一列上がって相手を押し込みにかかった。
アディショナルタイムは4分。90+3分には甲府が長谷川を石川俊輝に交代して時間を使う。なんとももどかしかったが、選手たちはあきらめなかった。仕掛ける増山が倒され、敵陣深くで獲得したFK。下田がボールをセットする間に、ベンチからコーチ陣総出での指示を受けて吉田もゴール前に上がった。90+4分のラストチャンス。下田のキックを最初に競ったのはその吉田だったが、ボールは相手に当たって真上に跳ねる。それが落ちてきたところを混戦の中、ヘディングで押し込んだのはペレイラだった。昨年末の天皇杯決勝・浦和戦に続く、土壇場での同点弾。勝点1をもぎ取る今季初得点に大歓喜しながら吉田が走って自ゴールへと戻る。増山は逆転するぞとばかりにボールを抱えセンターサークルへと走った。
その直後に長いホイッスル。プレシーズンから度重なるアクシデントを乗り越え、ようやく敵地で迎えた初陣は、決して理想を体現できたものではなかった。だが、ここで評価を下すのは時期尚早だ。これだけの悪条件の中で、まずは目指すものにトライしたこと、最後に泥臭くとも勝点1を奪ったことを、次につなげられれば評価は丸になる。
中2日で迎えるルヴァンカップグループステージ第2節・G大阪戦が、今季初のホームゲーム。戦力をターンオーバーすることを、指揮官は匂わせた。敵将となった片野坂知宏前監督との対戦も楽しみに、今季の大分の勇敢さを示すゲームにしたい。