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試合レポート

J1最終節にして今季初の3得点勝利。いろんな要素満載の“集大成”に

 

今季リーグ戦ラストゲームはいいところもよくないところも織り交ぜての3得点2失点勝利。「これぞ“カタノサッカー”!」という崩しからの得点で不甲斐なかった今季を締めくくり、天皇杯へとつなげる。

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まさかの相手の出方にも柔軟に対応し新太先制弾

降格確定後のチームが残留争いのプレッシャーから解き放たれて躍動するというのは往々にしてある皮肉な現象だ。この日の大分も、不甲斐ない戦績に終わった今季J1のラストゲームで、今季最高のパフォーマンスを披露した。
 
今季これまでのネルシーニョ監督の戦い方から、ミラーゲームを予想して準備していたチーム。だが、蓋を開けてみると相手は4-4-2の布陣だった。エース・クリスティアーノはメンバー外で、2トップには細谷真大とマテウス・サヴィオが並ぶ。
 
相手の出方は想定外だったが、チームは慌てなかった。過去の試合経験から、対4-4-2の相手戦術は共有できている。ミスマッチを突いて攻め、サイドで数的優位を作ると立ち上がりから立て続けに好機を連発。6分には野嶽惇也のクロスから渡邉新太がヘディングシュートを放ったが、わずかに枠の上に逸れた。
 
16分には柏の左CKの流れから押し込まれ、17分にはやはり神谷優太の右CKからのデザインプレーでマイナスのボールに合わせ三原雅俊にシュートを許すが枠の右。
 
だが21分、先制点を挙げたのは大分。一旦ボールを野嶽に預けて攻め上がった三竿雄斗がグラウンダーのクロスを送ると、ニアで呉屋大翔が流す。逆サイドでそれをピタリと足元に収めたのは渡邉。慌てて戻った神谷が勢い余ってカットできずに通り過ぎる中、渡邉は鋭い切り返しでキム・スンギュの逆を取ると、三丸拡がカバーに入る前に冷静にゴールへと流し込んだ。前節に続き今回は呉屋のためのゆりかごダンスが繰り広げられる。

 

出色の前半に華を添えた北斗のビューティフルFK

前半は出色の出来栄えだった。渡邉と町田也真人の献身的な守備と後ろを意識してのポジショニング。三竿の状況を見極めてのプレー選択。増山朝陽の強度の高い個人技。攻守で細やかにサポートに入りながら、時折大きなサイドチェンジで曲面を展開する小林裕紀。柏の得意とするカウンターも受けたが、孤立して単調になっていた攻撃陣は、エンリケ・トレヴィザンが単独で潰しに行った。
 
個々の得意なことが生きてバラエティー豊かな前半に、さらなる華を添えたのが30分、下田北斗による追加点だ。ゴール前での流麗なパスワークから渡邉がファウルを誘って得たFKを、精度自慢のレフティーは、壁の高くなっている側の上を通し、美しい軌道で落とすと見事にネットを揺らした。
 
37分にも渡邉、増山とつないでの呉屋のシュートをキム・スンギュが弾き、そのこぼれ球を野嶽が押し込んでネットを揺らしたが、これは呉屋がオフサイド判定。43分には後方でのゆっくりしたボール回しに相手が食いついてきたところで高木駿が左に送り、三竿のクサビを渡邉が落としたところに野嶽が走り込んで相手に倒される場面も作った。三竿や小出悠太の好守も光る。

 

ミラーゲームで苦戦する流れは宿命なのか…?

2点リードして迎えた後半。ネルシーニョ監督はドッジと三原を染谷悠太と椎橋慧也にチェンジ。並びは3バックの右から染谷、高橋祐治、古賀太陽。三丸と大南拓磨が左右のWBに上がり、ボランチは椎橋と戸嶋祥郎。神谷とサヴィオの2シャドー+頂点が細谷の3-4-2-1となった。
 
柏がシステム変更してミラーゲームへと持ち込むことは当然、片野坂知宏監督たちも予想しており、ハーフタイムにしっかりと指示済み。むしろそのほうが準備してきたことが出せる好機とも思われたのだが、球際での競り合いが増えた中、2点を追って仕切り直した相手の強度に上回られる。47分、野嶽からボールを奪ったサヴィオを起点に動かされ、最後は細谷にシュートを打たれる。が、これは勢いがなく高木が押さえた。49分には下田の左CKがクリアされたところからカウンターに持ち込まれ、サヴィオの素晴らしいスルーパスに神谷が抜け出し独走するが、小林裕も守備に戻りつつ最後は高木がきっちりと阻む。
 
だが、53分には失点。神谷のサイドチェンジを受けた大南がサヴィオとのワンツーで抜け出しシュート。高木が足を閉じて防いだこぼれ球を戸嶋に押し込まれてしまった。勢いづく柏はその1分後にも神谷がシュートして高木が正面でキャッチ。そのさらに1分後には同点弾を見舞われた。左のスペースでボールを収めた神谷が小出を振り切って送ったクロスをニアで細谷が流し、そのクリアボールのこぼれ球を右サイドでサヴィオに拾われる。すかさず高木が寄せたが切り返されて剥がされ、ネット左上に突き刺された。

 

立ち位置の修正から生まれた“真骨頂”の朝陽初ゴール

後半は前半とは打って変わった展開で2点を追いつかれる。4バックの相手には優位に試合を進めるも、相手が3バックに修正してミラーゲームになると力負けする展開は、今季も何度かあった。J2の頃からミラーゲームに課題を抱えがちだったチームは、最後までこの課題に飲み込まれてしまうのか。
 
62分には細谷にプレッシャーをかけられた高木のパスがサヴィオに渡り、そのままシュートを打たれる。だが、すぐに切り替えてシュートコースに入った高木が掻き出し、自作自演状態でしのぐ場面も見せた。それで与えた右CKのクリアボールを戸嶋にシュートされる。枠の右に逸れたが、流れは完全に柏に傾いていた。
 
なんとかそれを引き戻したい大分は、片野坂監督からの指示で立ち位置を修正。小林裕と下田が最終ラインに落ち、サイドを一列ずつ押し上げた状態から、再び大分の丁寧なポゼッションが復活する。最後尾から下田が送った長いボールは染谷が頭で落としたが、それを予測して拾った三竿がドリブルで中央へと持ち上がると、サポートに追いついた町田へとヒール。町田が野嶽に渡してサイドに開くと野嶽は小林裕へとバックパス。そこから町田を経由して相手陣ハーフスペースでボールを受けた下田の縦パスの先にいたのは、そのまま前線に残っていた三竿。ボックス内での呉屋との軽やかなワンツーから抜け出して送ったクロスに逆サイドから増山が飛び込んでネットを揺らした。これぞ“カタノサッカー”の真骨頂と言うべき、ボードゲームのように相手を動かして奪った3点目だった。

 

手堅い交代と集中した守備で競り勝つ

74分、片野坂監督は足をつらせた呉屋と疲労の見える野嶽を伊佐耕平と香川勇気に交代。柏に攻め込まれる時間帯もあったが粘り強く対応する。エンリケがロストした場面では小出が隙なくカバーした。
 
柏は84分、戸嶋、サヴィオ、細谷を山田雄士、仲間隼人、武藤雄樹へと3枚替え。大分も、足をつらせた町田と増山をベンチに下げ、小林成豪と刀根亮輔を投入。刀根が右CB、小出が右WBに入り、守備の強度を高めた。小林成の守備への戻りや刀根の攻撃参加にも迫力があり、チームの勝ちたい気持ちが伝わってくる終盤。
 
87分には渡邉がシュート、90分には下田のFKからエンリケがヘディングシュートとチャンスも作ったが、いずれも強度が出ずキム・スンギュにキャッチされる。6分という長いアディショナルタイムには神谷のFKの流れから押し込まれたまま分厚い攻撃にさらされたが、集中した守備でゴールは割らせず。最後に2連勝して、2021年J1での大分の戦いは終わった。

 

カタノサッカー集大成のような要素満載の一戦

4-4-2の相手に対する攻略の仕方、ミラーゲームでの力負け具合、そこから盛り返す立ち位置の修正。そして何よりも、後方のポゼッションを伏線としてコンビネーションよくボールを運ぶことで相手を崩し、有利な状況を作ってからきっちりと仕留める見事なゴールの形。
 
いいところも良くないところも、たくさんの要素が盛り込まれ、この6年間で積み上げてきた“カタノサッカー”の集大成のようなゲームになった。その結果が、競り合った末の今季初の3得点で、アウェイでの2勝目。
 
試合後、ゴール裏に挨拶に集まった選手たちを、キャプテンの高木が煽った。今季はアウェイでサポーターたちと喜び合えておらず、最後に勝利をプレゼントしようと指揮官に言われて臨んだゲーム。ここで喜び合って、来週の天皇杯準決勝にいい雰囲気をつなげたかったのだろう。だが、J1残留を果たせなかった選手たちは複雑な表情で戸惑い立ち尽くすばかり。一人、サポーターの前で仲間を呼びながら飛び跳ね続けていた高木もさすがに勢いを失いかけた、そのときだった。選手たちの後ろからスタッフたちとその様子を見守っていた片野坂監督が、現役時代の攻め上がりさながらに選手の列を追い越して高木の隣に飛び込んだのだ。
 
肩を組んで弾ける笑顔で飛び跳ねる二人に、まず町田が加わった。町田に誘われ、全員が肩を組んで跳ぶ。監督も選手たちもJ2降格という重みを背負いながら、サポーターたちのために、そして次なる戦いのために、笑顔で士気を高め合った。日立台の西陽が傾く中で、それは苦しみも伴いながら、ずっとサポーターたちの記憶に残るに違いない光景だった。チームは12日、新国立への道を拓きに、敵地で王者・川崎Fに挑む。