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試合レポート

「戦える準備が出来ている18人」で掴んだ7試合ぶり白星。まずは+3

 

2週間の中断期間明け最初の試合に、指揮官は前節から先発6人を変更して臨んだ。選ばれたのは「戦える準備が出来ている18人」。勝ちたい思いをあらわにした集団は激しい攻防を制し、見事、2-0での勝利を掴み取った。

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戦術的狙い以上に「準備」を重視した選手起用

声を出せないホームスタジアムが歓喜に包まれた、7試合ぶりの白星。録音音声ではあるが『大分よりの使者』が流れ、手拍子にあわせて選手たちがラインダンスを披露する。2ヶ月のトンネルは長かった。クリーンシートも7戦ぶり。複数得点は第17節の福岡戦以来、実に12試合ぶりだった。
 
山口智監督による新体制となった湘南が、前節の浦和戦から先発1名を入れ替えたのみだったのとは裏腹に、こちらは前節の広島戦から6名を入れ替えてスタート。リーグ戦6試合ぶり先発の刀根亮輔を右CB、11試合ぶりの羽田健人をボランチに配置した意図はウェリントンやタリクら高さと強度のある湘南の攻撃陣対策で、9試合ぶりの小出悠太を右WBで起用したのは奪ってから素早く攻撃を仕掛ける狙い、そして長沢駿の下に渡邉新太と小林成豪を並べた1トップ2シャドーは攻撃でシンプルに当ててからの連係と前線からの守備に期待したものかと思われた。
 
実際に試合での狙いもそのように見受けられたのだが、片野坂知宏監督は試合後に、今節の選手選考の意図は戦術的狙いよりも「ピッチで戦える準備が出来ている18人を選んだ」と明かした。中断期間のトレーニングへのそれぞれの取り組み方の中で、チームに貢献したい思い、ゴールへの思い、勝ちたい思いが強く、アグレッシブに戦っていたメンバーを選んだという。その選択が2-0という結果につながったことを、チームマネジメントの上でも非常に大きかったと、指揮官は手ごたえを口にした。

 

チームのファーストシュートは小出の先制弾

現象としては、前半は湘南のゲームに見えていたと思う。セカンドボール対応やトランジションの判断のスピードで上回る湘南がペースを握り、リズミカルにボールを動かしてサイドを起点にチャンスを多く築いた。大分はそれに粘り強く対応し、15分には山田直輝のシュートをエンリケ・トレヴィザンがブロック。23分には古林将太のクロスに合わせたタリクのヘディングシュートを高木駿がキャッチした。
 
大分もボールを奪って攻め返すのだが、切り替えも寄せも早い湘南の守備に遭い、なかなかフィニッシュにまでは至らない。ただ、湘南もスペースを使われることを警戒して田中聡が堅実なポジションを保ち、タリクやウェリントンがプレスバックしてくる中で、長沢が落ちてクサビを受け、2シャドーがギャップを作り、下田北斗が攻撃を組み立てるなど中盤でも駆け引き。3バックも状況によっては自ら持ち出すなどして攻め続けたことで、相手に押し下げられることなく試合を進めていた。湘南が得意とするカウンターも脅威だったと思うが、特に刀根が攻める場面と保持する場面をよく状況判断しており、シュートは打てないものの、布陣全体で一体感は保たれているように見えていた。
 
そんな32分、大分にとってはファーストシュートが先制点へと結実する。三竿雄斗がゴール前に送った長いボールは相手にクリアされたが、逆サイドから絞っていた小出がそのこぼれ球を拾い、自ら左足シュート。相手に当たって上方向へと軌道を変えたボールは、谷晃生の伸ばす手を越えてゴールへと吸い込まれた。小出にとってはこれがJ1初ゴールとなる。
 
これで4試合連続の先制。ここ3試合は早い時間に追いつかれてしまったが、今節は集中を保った。セットプレーの守備でも長身選手を中心に存在感を発揮して、1-0で折り返す。

 

伊佐の献身性から生まれた追加点が勝利を決定的に

後半になると湘南の運動量が落ち、逆に大分がいい距離感でボールを動かしてペースを握る。前半、フィニッシュにまでは至らずとも、こちらもボールを動かしたことで相手を疲労させ引き寄せた流れだった。
 
湘南は57分、山田に代えて池田晃生。さらに64分、古林に代えて岡本拓也、ウェリントンに代えて大橋祐紀を投入し、リフレッシュして流れを取り戻そうとした。さらに74分には茨田陽生に代えてウェリントン・ジュニオール、高橋諒に代えて大野和成。いずれもそのままのポジションに入る形で、早い時間帯にカードを使い切る。
 
それに対抗して大分は68分、足をつらせた小出に代えて藤本一輝、小林成を増山朝陽にチェンジ。そのまま藤本が右WB、増山が右シャドーに入った。79分には長沢を伊佐耕平に交代する。
 
ウェリントン・ジュニオールが積極的にゴールを狙うが、ゴール前で集中して跳ね返す終盤。86分に、伊佐が大仕事を遂げた。藤本が相手のパスを阻んで高くバウンドしたボールを、相手を背負いながら伊佐がトラップ。ボールは転々とスペースへ流れたが、相手が一瞬出遅れたところを伊佐が収めて独走。最後は冷静にコースを見定め、谷の股を抜いてゴールへと流し込んだ。勝利を引き寄せる大きな2点目だった。
 
アディショナルタイムは7分の表示。90+2分、羽田を小林裕紀、渡邉を野嶽惇也に代えて、大分は時間を使う。野嶽が右WBに入り、藤本が左シャドーに移った。だが、あきらめずに追う湘南との激しい攻防の中、野嶽が空中戦で杉岡大暉と激突。脳震盪の疑いにより、6枚目のカードを切ることになった。急遽、町田也真人がシャドーに入り、藤本は再び右WBへ。湘南の追撃を退けて、2-0のままタイムアップした。野嶽が倒れている間にも、高木がベンチに指示を仰ぎに行くなど「詰めへのこだわり」が見えた終盤だった。

 

渡邉新太は指揮官に「これは使うしかない」と思わせていた

終わってみればシュート3本で2得点。きれいに崩しての得点ではなかったが、ゴールへの希求や献身性が結実した形だった。ひさしぶりに出場機会を得たメンバーも含めて戦い、アグレッシブにハードワークする相手を上回って勝利を掴めたことは大きい。片野坂監督は試合後に、それぞれの起用の理由を述べた。
 
「刀根を抜擢した理由は、もちろん高さもあるが、刀根がトレーニングですごく集中して戦い、アグレッシブにやっていた」
「小出に関しても、紅白戦を含めゲーム形式のトレーニングをやっていく中で、状態がすごく良くなってきていて、(中略)トレーニングでも僕が求める戦術のタスクをしっかりと遂行し、戦術の狙いの中での役割においても良いプレーをしてくれるということで先発に選んだ」
「渡邉は本当にアグレッシブにプレーして球際で戦い、とにかく得点したい気持ち、勝ちたい気持ちが練習から伝わってきていた。それにいいプレーをしていたので『これは使うしかない』と。長沢は経験もある中で、やはりこのチーム、クラブに対して自分が貢献したい思いや選手を引っ張る姿勢などは非常に素晴らしいものがある」
「伊佐も、本当にトレーニングから手を抜かず、周囲に求め、求めるぶんしっかりと自分もやる。技術や上手さは高いレベルにあるかどうかはわからないのだが、今日のゲームのような、球際で戦って、途中から出てパワーを出して、追加点を自分で取りに行って、というところは、トレーニングの中からすごく出し切ってやってくれていた」
 
その上で、さらなるチーム内競争を求める。もとより抜きん出た個に頼るチームではなく、それぞれの特長を生かして多彩なテイストを醸すことを目指し編成されたチームだ。全員が心身のコンディションを整え競いあってこそ、充実した戦いが実現する。これからは試合もほぼ週1ペース。目の前の一試合のみに心置きなく集中して準備できるはずだ。残り10試合。今節、反攻の狼煙は上がった。