複数の決定機を、あとは決めきるだけ。勝点1止まりも成熟に手応え見える一戦
セットプレーから呉屋の移籍後初得点で先制するも、強度を増した相手に押されて同点に。最後まで攻め合ったチームは勝ち切れなかった悔しさを滲ませたが、ここで積んだ勝点1を今後につなげていきたい。
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初先発の呉屋の初得点で先制に成功
分け合った勝点1により、残留圏へと浮上したい大分は連敗を3で止め、札幌は今季初の3連勝を逃した。片野坂知宏監督が「どちらに転んでもおかしくない試合だった」と総括したとおり、いずれにも勝機のあった試合。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督も試合後会見でいつも以上に悔しい思いを切実に吐露し、師弟関係にあたる両指揮官はともに、まるで敗戦後のように無念さをあらわにした。
天皇杯を含むアウェイ連戦から中2日で今節に臨んだ大分は、呉屋大翔と伊佐耕平の2トップの下に町田也真人を並べた3-5-2システムで、前線から激しくプレッシャーをかけた。ボールを奪うと素早くゴールに向かう姿勢を見せ、先制点を狙う。一方の札幌は守備の要・宮澤裕樹を出場停止で欠き、リベロは田中駿汰、右CBに岡村大八。こちらも大分の背後を突いて先制しようと、立ち上がりからゴールに迫った。
先制は11分、大分。それまでにも左サイドのスペースに抜け出してチャンスを作っていた呉屋がクロスを試みて得た左CKを下田北斗が蹴り、ゴール前密集の中でマーカーと駆け引きし相手を振り切った呉屋が、頭で合わせてネットを揺らした。移籍後初先発の呉屋の移籍後初ゴール、また前節・横浜FM戦の伊佐に続くセットプレーからの得点に雰囲気が上向く。
両守護神が迫真のビッグセーブを連発
ジャッジの基準の影響もあってか、デュエルの激しい展開となった。ボールを握っていた札幌が多くFKのチャンスを得たが、大分の守備陣にことごとく跳ね返される。27分には福森晃斗のFKを坂圭祐がクリアしたところを荒野拓馬が狙ったが、高木駿が危なげなく掻き出した。31分には福森のクロスに岡村の頭がわずかに合わず、札幌は好機をものに出来ない。
大分は34分にビッグチャンス。増山朝陽が対角に送ったパスの先にいたのは、ゴール前でフリーになっていた香川勇気。絶好機だったが、左足シュートは足を投げ出した菅野孝憲のビッグセーブに阻まれる。逆に39分には青木亮太の浮き球パスに抜け出した小柏剛が角度のないところから強烈な一閃を放ったが、高木が至近距離で体を張って防いだ。ボールをまともに鳩尾に受けて一時は呼吸困難に陥った高木だが、立ち上がった直後に、今度は右CKからファーで合わせた岡村のヘディングシュートを横っ跳びで掻き出すファインセーブを披露する。
札幌はデザインを凝らしたセットプレーも実らず、また大分も追加点を奪えずに、試合は1-0で折り返した。
強度を高めた相手に押され追いつかれる
札幌は後半頭から、岡村と菅大輝をベンチに下げ、ジェイとルーカス・フェルナンデスを投入。宮澤を最終ラインで起用するようになったのと同様に高嶺朋樹をリベロに下げ、駒井善成がボランチ、ルーカスを右WB、青木を左WBに配置して頂点にジェイを据えた。全体の攻撃色が強まり、前線の高さと右サイドの強度が加わる。
ルーカスの単機突破に金子拓郎が絡んだりジェイにボールを預けたりといった狙いは、目論見どおりに試合の流れを札幌へと傾けた。押し込まれた大分は、それを盛り返そうと64分、町田と増山を野村直輝と井上健太に交代。66分には早速、中央でボールを持った野村が左に展開してカウンターが発動した。三竿雄斗が早めに送ったアーリークロスは惜しくも呉屋の頭上を越える。
67分、札幌の何気ないリスタートから同点に追いつかれた。「戻れ戻れ戻れ!」と片野坂監督の声が響く中、守備への切り替えに一瞬の隙があったか。エンリケの頭上を越えた青木のクロスは、三竿も体を寄せたのだがジェイの頭で落とされた。そこへ巧みに小林裕紀を振り切って走り込んできた小柏のフィニッシュ。クオリティーの高さ全開に鮮やかに3戦連続弾をものにされた。
勝点は1に止まったが着実な進歩も見えた
勝点3を取るために、大分は72分、呉屋と伊佐を長沢駿と渡邉新太にチェンジ。75分には札幌が荒野に代えて柳貴博を投入した。押し込まれながらエンリケを中心に必死で跳ね返す大分にトドメを刺そうとでもいうように、ペトロヴィッチ監督は86分、金子をドウグラス・オリヴェイラに代えて2トップに変更した。大分は前線にボールが収まらず押し返す力を発揮できない。
それでも90+3分、最後のビッグチャンスを築いた。札幌の右CKをキャッチした高木のスローからスタートしたロングカウンター。ボールを受けた野村は中へと切れ込んで井上へと展開。ドリブルで相手をかわして送ったアーリークロスをゴール前まで駆け上がっていた香川が頭で折り返す。胸トラップした長沢のコンパクトなシュートは、残念ながら菅野に抑えられた。そこから受けたカウンターは井上がスライディングで掻き出して阻止。最後までどちらかに転びそうな白熱の攻防は、1-1のまま終焉を迎えた。
チームの状況的に勝点3が欲しかった試合ではあったが、前節から明らかに変えた戦い方が、今節は浸透度を高めた手応えもあった。天皇杯ラウンド16・群馬戦から中2日で対札幌戦術を落とし込み、その狙いどおり香川がゴール前でフリーになる場面も作れていたし、強度を高めた相手に押し込まれた終盤にもロングカウンターでチャンスを築くことが出来た。そこで仕留め切れていない課題は残るが、先発した香川と三竿がこの時間にゴール前にまで駆け上がっていたことには敬意を表したいし、今季はこれほどまで長距離のカウンターで迫力を出してフィニッシュに持ち込めた場面もなかった。攻撃の形を作れずに苦しんだ以前とは見違えるような姿を、いまチームは見せはじめている。堅実に積み上げることを信条とする大分は、こうして粘り強く勝点を積んで生き残りを目指すのみだ。