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試合レポート

アカデミーから5人を動員。総力のプランで消耗戦を制し8強へ

 

タフなゲームとなったリーグ横浜FM戦から中2日でのアウェイ連戦。雨上がりの正田醤油スタジアム群馬の湿度の高さに苛まれながら、チーム状態の万全でない両軍は死闘を繰り広げた。

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急造の編成でぶつかり合った両チーム

気力体力を出し切って終えた明治安田J1第24節・横浜FM戦から中2日。さらにこの後また中2日で第25節のホーム札幌戦、来週には第26節・神戸戦と第27節・広島戦を控え、天皇杯のメンバー選考に、チーム片野坂は頭を悩ませたようだ。新加入選手4人は天皇杯に出場できないこともあり、移動の負担を可能なかぎり軽減するためにも効率的な編成としたかった。
 
先発は全員入れ替え。うち渡邉新太と藤本一輝は横浜FM戦に途中出場。ベンチには横浜FM戦に先発した小林成豪と高木駿が入ったが、あとは総入れ替えで、先発に屋敷優成、サブに小野俊輔、後藤響、佐藤丈晟、安田堅心の計5人の2種登録選手が並んだ。すでに公式戦で戦力となっている屋敷以外はおそらくトップチームのトレーニングに参加した経験もほとんどなく、また中2日の敵地での準備ともあって、ほぼぶっつけ本番の急造チームだった。
 
大分ほどではないにせよ群馬のほうも台所事情は厳しく、コロナ陽性判定者を除くメンバーで、残留争い中のリーグ戦も考慮した編成としなくてはならない。15日まで活動停止だったチームに、試合への準備期間は乏しかった。
 
そんな両軍の激突なので、前半はお互いに探り探りという感じになった。スタートではペレイラを右CBに配置したが、ラインが揃わずそこを狙われた。先に徐々にペースをつかんだのは群馬で、13分には羽田健人と高畑奎汰の間にスルーパスを通され背後へと抜け出される。クロスを一度は刀根亮輔がクリアしたのだが、その2次攻撃で久保田和音の折り返しを走り込んできた白石智之に蹴り込まれて失点した。圧をかけられず相手に自由にプレーさせてしまっていた。長谷川雄志と弓場将輝のダブルボランチが縦関係になったところも使われがちだった。

 

クロスが相手のハンドを呼びPKで同点に

だが、ゲームは5分後に振り出しに戻る。
 
急造布陣でこの試合に臨むにあたり、片野坂知宏監督は選手たちに、積極的にアーリークロスを入れようと指示していたようだ。高畑も松本怜もゴール前に多くのクロスを送った。中で入る際の動きが不足して、クロスのほとんどは単純となり群馬のCBたちに跳ね返されてしまったが、松本と渡邉のタイミングが合ったそのうちの1本がエリア内での相手のハンドを誘い、PKのチャンスにつながる。渡邉がゴール左隅を揺らし、失点から5分後に、ゲームは振り出しに戻った。
 
飲水タイムには素早い修正も施された。ペレイラをダブルボランチの左に上げ、羽田を右CB、弓場を左CBにと配置転換。ペレイラはボランチでは精力的に動き回り、ボール奪取やセカンドボール回収に貢献して、立ち上がりの課題は解消した。
 
落ち着きを取り戻した大分は、ここからしっかりとボールを握れるようになる。クロスはなかなか実らずシュートもブロックされる中、44分には高畑が個人技で相手を抜きスルーパス。藤本がつないで最後は渡邉が狙ったが枠の右。前半アディショナルタイムには松本がえぐってマイナスのクロスを入れたが、相手にクリアされた。

 

狙いは同じだが采配は真逆の勝負

長谷川とペレイラの左右が逆になった以外は交代なくスタートした後半。右サイドからの好機がさらに増える。松本が立て続けにクロスを供給する中から、49分、ビッグチャンスが生まれた。松本のクロスに中央で立つ藤本の背後から渡邉が飛び込んで頭で合わせる。PK獲得の場面を上回る、狙いどおりの形だった。弾道も枠をとらえていたが、松原修平のファインセーブに掻き出されてしまう。
 
右サイドを起点とした攻撃でCKのチャンスも多く迎えたが、しっかりとブロックを構える相手を前に、これもなかなか結実しない。56分には逆に群馬にカウンターで攻められ、高橋勇利也の鋭いシュートがサイドネットを揺らしてあわやというシーンも招いた。
 
60分あたりから両軍ともに、足をつらせる選手が続出。82%にも上る湿度と、コロナ禍により自由に飲水しづらい環境、そして慣れない布陣での慣れない相手との戦いによる精神的負担も、選手たちに重くのしかかった。
 
ここで両指揮官の判断が真逆に向かった。久藤清一監督はまず62分に2枚替え。白石と北川柊斗を進昂平と髙木彰人に代え、それぞれそのままの位置に入れた。68分には弓場が足をつらせピッチサイドで処置を受けたが、まもなく立ち上がるとプレーを続行。久藤監督が72分には吉永昇偉を小島雅也に、76分にも高橋と青木翔大を中山雄登と金城ジャスティン俊樹に代え、配置も変えながら疲労の見えるところを次々に入れ替えたのとは裏腹に、片野坂監督はなかなか動かない。
 
采配は真逆だったが、いずれも90分で試合を決めたがっていることは同じだった。

 

決着をつけようと「仕上げの成豪」を投入したが…

そんな片野坂監督の最初の交代は77分。細やかに立ち回ってきた松本を小出悠太にチェンジして、クロスにダイナミックさをもたらす。相手も小出の利き足を切ろうとしてくるが、クロスの積極性は保たれ、藤本や渡邉の好機を築く。
 
一方の群馬も、中山や進、金城らが絡んで左サイドでボールを動かすようになる。右の小出を起点とする大分との主導権争いになりかけたが、ゴールに向かう回数は大分のほうが上回っていた。
 
情勢がこちらに傾いているのを見て、片野坂監督は「ここで仕上げろ」とばかりに小林成に準備を促す。ボールがなかなか切れず、屋敷と交代してピッチに入るのが89分になったのが、誤算といえば誤算だったかもしれない。アディショナルタイムは5分設けられたが、いずれの攻撃も疲労のため精度が低下している。90+6分には高畑が足をつらせ、佐藤が左WBに入った。

 

小出と成豪、2種登録の面々がタスク完遂

1-1のまま延長戦にもつれ込むと、群馬は足の痙攣をずっと耐えていた畑尾大翔を奥村晃司に交代。どうにか戦力をやりくりして、中盤の形も変わったようだった。その急造最終ラインを96分、ついに大分が打ち破る。起点はペレイラの右へのサイドチェンジから。小出のクロスを小林成がヒールで流し込んで、リードを奪った。
 
高木彰や金城もシュートを放って追撃するが、枠外だったりポープ・ウィリアムに阻まれたりと得点にならない。延長前半が終わる頃、片野坂監督が5バックで守備を固めようとした矢先にペレイラの足が限界を迎えた。ペレイラと弓場がベンチに下がり、後藤と保田がピッチに。延長後半は右WBが佐藤、左WBが後藤、ボランチに保田が入ってフレッシュなプレッシングで群馬の追撃を邪魔した。後藤と佐藤の個人突破からのシュートもあったが、マイボールの際には攻め急がず、カウンターを警戒しながら時間を使う。群馬も終盤まで果敢にゴールを目指したが、最後は大分がCKでキープして終了。120分の勝負にはなったが、スコアの動き方と采配が見事にハマった形になった。
 
9月24日、準々決勝組み合わせ抽選会で次の対戦相手が決まる。リーグ戦と並行しつつ、チームはさらなる高みを目指して戦う。