ピッチで繰り広げられた陣取りの駆け引き。最後は相手のパワーをしのぎ切り5戦ぶり白星
激しいプレッシングとスペースを消す二通りの守備をバリエーション豊かに一体感を持って遂行することで、試合の流れを引き寄せた。両指揮官の頭脳戦が最後は力と力のぶつかり合いになだれ込む好ゲームを制し、5試合ぶりの白星を挙げた。
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相手の出方を見てショートカウンターで先制
両軍のポジショニングの駆け引きで形勢の遷移する、手に汗握る好ゲームだった。
先手を取ったのは大分。前線から連動して激しくプレスをかけ、浦和を封じると同時にショートカウンターでチャンスを築く。3分に小林成豪がボールを奪って相手SBの背後に抜け出しマイナスのクロス。走り込んできた下田北斗がダイレクトでシュートを放ったが、西川周作のファインセーブに阻まれた。
リカルド・ロドリゲス監督の試合前のコメントを見るかぎりはおそらく、天皇杯3回戦・相模原戦でもそうだったように、ここ最近、浦和に対して引いてくる相手をいかに引き出すかに意識を向けていたようだった。この試合でもSHに中を取らせSBが大外から高い位置を取るように入ったが、大分はそれを見極めた上で、両SHを両CBが潰し両SBを両WBが見るようにして、2シャドーがプレスをかけボールを奪うと相手SBの空けたスペースで起点を作るという狙いを遂行したのだと思われる。長沢駿は中央でクロスに合わせるか、空いた中央のスペースに落として下田を走り込ませる、そういうデザインも出来ていたのではないか。
立て続けにその形から好機を築くと、先制は12分。西川のキックを西が頭で落としたところをすかさず拾った三竿雄斗がショートカウンターへと切り替え、託された小林成が広大なスペースへと抜け出してクロス。ボールウォッチャーになっていた浦和守備陣の背後から町田也真人が頭で流し込んだ。試合後に明かしたところによると町田はこのときファーを狙ったそうなのだが、結果的に絶妙なニアを突く形となった。
追加点は取れずも前半はほぼ相手に何もさせず
なおも攻める大分は、23分にも長沢の落としを町田がそらして下田。これは西川に掻き出された。さらに29分には突破した井上健太のクロスに長沢がダイビングヘッド。だが、弾道は枠の上へ。
見事だったのは、プレスに行くときと構えるときを明確に意思疎通していた守備だった。5-2-3で三竿と上夷克典が相手SHを潰しに出るときには、きちんと横にスライドしてスペースを与えない。ハイプレスの矛を収めたときには5-4-1でパスコースを消して浦和の前進を阻んだ。この統率された守備の前に浦和はゲームメーカーの小泉佳穂やフィニッシャーのキャスパー・ユンカーにまでボールを運べない。飲水タイムに修正したのか、田中達也が外に抜け出しクロスという場面もあったが、大分もしっかり中を固めておりシュートは打たせなかった。
41分には大分のFKから浦和がカウンターチャンスを迎えたが、小泉が前線に送ったボールは汰木康也には合わず。その2分後、三竿が激しい守備でボールを奪って攻め上がり小林成へと託すが、小林成のシュートは相手に引っ掛かった。前半アディショナルタイムに中盤でボールを拾った柴戸海が狙ったのが、浦和のこの試合初めてのシュート。枠の左へと逸れた。
後半は相手の修正に遭い、次の一手へとシフト
大分はいい時間帯に追加点が奪えず、1-0での折り返し。そして浦和は後半から、はっきりとポジショニングを修正してきた。柴戸に代えて杉本健勇を投入し、ユンカーと並べて布陣を4-4-2に変更。杉本が運動量とパワーを生かし、それまでは前に出てきていた三竿や上夷を足止めさせる狙いだった。同時にボランチに落ちた小泉はボールを触る機会が増え、攻撃の組み立てに関われるようになる。
さらにはサイドの立ち位置変更が有効だった。それまで中を取っていたSHを外へと張らせ、逆にSBがハーフスペースを使うようになる。西がインサイドを取って小林成の攻撃を阻み、汰木がフリーでボールに絡んだ。最も顕著に奏功したのは田中が大外でボールを受ける回数が増えたことだった。田中が得意の仕掛けからクロスを供給するようになり、全体が活性化する。
57分には杉本のシュートをポープ・ウィリアムが阻み、58分には小泉のシュートをエンリケ・トレヴィザンがブロック。62分には小泉のシュートがユンカーに当たり枠外へ。相手に傾いた流れの中で、耐える時間帯が続いた。前半からの疲労も見えはじめ、どこかで修正しなくてはいつかやられる。そんな状況で迎えた飲水タイムを境に、片野坂知宏監督は小林成をベンチに下げて伊佐耕平を投入した。70分から布陣は5-3-2となる。中盤は右から町田、長谷川雄志、下田の並びでインサイドを取ってくる相手SBに枚数を合わせる形だ。耐えながら伊佐と長沢の2トップでカウンターを狙う。最悪、フィニッシュにまで至らなくてもラインを上げて浦和をゴールから遠ざけることが出来た。
最後は力vs力。ポープ&エンヒキの堅守も光る
75分、またも杉本の左足シュートをポープが掻き出す。耐える大分と攻める浦和の構図で試合は終盤に突入。両ベンチのそれぞれの立場での交代がめまぐるしく行われた。
浦和は79分、汰木とユンカーを関根貴大と興梠慎三に、大分は80分に長沢と下田を渡邉新太と羽田健人に交代。浦和はサイドからのクロスを増やして前線にパワーをかけ、大分はシステムを3-4-2-1に戻して中盤のスペースを消しつつ守備に柔軟性を持たせた。84分には町田と上夷を藤本一輝と刀根亮輔にチェンジして布陣の力を保つ。次々に送り込まれるクロスを、三竿が、刀根が跳ね返した。エンリケの存在が非常に心強い。90分には藤本が抜け出して持ち上がり、最後は1対1で伊藤敦樹に潰されたがわずかながら時間は稼げた。
小泉の田中へのスルーパスは果敢に出たポープが先にクリア。関根のクロスはエンリケが処理。3分のアディショナルタイムも尽きようとする頃、浦和は伊藤を金子大毅に交代。最後は西や槙野も前線に上がってパワープレーに望みをつなぐ。立ち位置の取り合いで優位性を競ったそれまでの試合は、終盤はシンプルに攻める力と守る力の激突の様相を呈した。
それを制したのは最後まで集中を切らさなかった大分。追加点が取れない課題は残ったものの、リーグ戦5試合ぶりの得点と勝利を手にした。ここ数試合で戦い方にバリエーションが増え、連戦中の戦力のやりくりもしながら、それを上手く使い分けていることにも注目したい。戦法が増えればこのチームのサッカーはぐっと有利になるはずだ。新たな仲間も迎えて中断明けの反撃に備える。
ちなみに、この試合で片野坂監督はリカルド・ロドリゲス監督に初勝利。2017、2018のJ2徳島には4戦4敗、今季の浦和との前回対戦では逆転負けを喫したが、6戦目にしてついに初白星となった。