10人での試行錯誤。ピッチで、ベンチでチームが考えていたことは
今季4度目のFC東京戦。今度こそと勝利を期して臨んだが、退場者を出すイレギュラーな展開となり、0-3で敗れる結果となった。
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当初の狙いはボールを握り相手の攻撃時間を削ること
連戦による疲労や負傷などにより限られた戦力の中で、対FC東京のプランを立てて乗り込んだ味の素スタジアム。試合前にパラッと降雨したが本降りにはならず、じわりと息苦しい蒸し暑さの中、曇りのまま持ち堪えた。キャプテンマークを巻いたのは、大分が刀根亮輔、FC東京は東慶悟。北九州生まれ・大分アカデミー育ちの2人が並んで入場し、コイントスでも対面して試合ははじまった。
立ち上がりはゲームプランどおりに進んでいた。強力な外国籍トリオを先発させたFC東京に対し、じっくりと構えてボールを動かすことで、相手に攻撃権を与えずに時間を使う。リーグ戦初先発のペレイラも、チームの意図するボールの動かしに好感触で参加。パスを受ける際の顔を出し方など、着々とフィットしているようにも見えた。その流れにおいてサイド攻撃も成立し、2分には小林成豪がドリブルで持ち上がって折り返し。3分には小出悠太のクロスに長沢駿が頭で合わせてシュートを放った。
トップ下に入ったレアンドロの動きが厄介で、それを軸にしたディエゴ・オリヴェイラとアダイウトンの絡みは脅威だった。7分にはレアンドロのシュートをペレイラがブロックし、安部柊斗のシュートもポープ・ウィリアムが阻むなど粘り強く対応しながら、こちらも三竿雄斗の攻撃参加や香川勇気のクロスなどでチャンスを築いていたのだが、24分、外国籍トリオのコンビネーションから失点した。アダイウトンのパスを受けたレアンドロがディエゴとのワンツーからシュート。小林成が寄せはしたが、強烈なシュートはクロスバーの内側を叩いてゴールネットを揺らした。
それでも時間はまだたっぷりあった。長沢も間で受けて起点を作れていたし、安部やバングーナガンデ佳史扶と駆け引きする町田也真人のポジショニングも効いており、当初の戦い方を続けてこれ以上失点せずに粘っていれば、じきに可能性も見出せそうだった。
攻守に力をもたらしていた三竿が一発退場に
だが、35分にアクシデント発生。ペレイラからの浮き球の横パスを受けた三竿がコントロールを誤り足を上げたところへ、走り込んできた東と接触。スパイクの裏を見せたとしてレッドカードが提示された。
ゴール前まで攻め上がったりセットプレーのキッカーを務めたりして、その直前にも長沢のシュートをお膳立てする右CKを蹴っていた三竿が退場。大事な駒を欠いてチームは残り55分を10人で戦うことになり、このときから試合は「強度の高いFC東京をいかに抑え、いかにこじ開けるか」を楽しみにすることから「数的不利となったイレギュラーな事態にチームとしてどう対応していくか」を見届けるゲームへとシフトする。
ベンチからの指示は早く、ひとまずフォーメーションを4-4-1に変更。最終ラインは右から小出、刀根、エンリケ、香川。小林成と町田がSHとなり、スライドしながら守って前半をしのぐことになった。アダイウトンのシュートをブロックし、森重真人のシュートも枠外に逸れて、なんとか1点差で前半終了を迎えられそうだったが、45分、東のクロスからのディエゴのヘディングシュートで2失点目。急遽3バックから4バックに変えたことで、クロス対応のマークも曖昧になっていたのかもしれなかった。
修正を繰り返した10人での戦い方
後半、チームはあらためて10人での戦い方を示す。町田に代えて井上健太を投入し、フォーメーションを5-2-1-1のような形に変更。最終ラインは右から井上、小出、エンリケ、刀根、香川。長谷川とペレイラのダブルボランチの前に、長沢と小林成が縦関係となった。相手の攻撃に自陣で対応し、ボールを奪ったら前線へと送って、キープ&打開力のある小林成と長身でポストプレーも出来る長沢のコンビネーションで攻める割り切ったプランだった。
だがその5バックで守りきれずに47分、3失点目。アダイウトンの突破を阻んだこぼれ球をディエゴにつながれ、バングーナガンデのクロスはポープが掻き出したのだが、そのボールが小川の足下に転がってしまい、豪快な左足シュートを突き刺された。
容赦なく攻めてくるFC東京への対応に疲労が溜まった61分、片野坂知宏監督はペレイラと小出を渡邉新太と藤本一輝にチェンジ。3-4-2-1となり、最終ラインの並びは右から刀根、エンリケ、香川。ワイドは右が井上、左が藤本で、小林成を一列下げ、長沢の近くで渡邉を走らせるようにした。中盤での保持率が高まり2トップもより連係できるようにという狙いが見える交代だった。
64分には長沢からパスを受けた渡邉のシュートが森重にブロックされる。その直後にはアダイウトンが自ら持ち込んで左足シュートするが、ポストに当たって救われる。
失点は3に抑えたが攻撃は消化不良
70分、FC東京はディエゴを田川亨介に、安部を青木拓矢に二枚替え。同時に大分も、小林成と刀根を福森健太と上夷克典に代えて、システムを4-3-2に変更した。右SBが福森、左SBは香川で上夷とエンリケの2CB。長谷川を中央に井上と藤本で脇を固め、前線に渡邉と長沢が並んだ。小林成と刀根の疲労を考慮しつつ、守備では4-3のブロックで中を固めながら、前への推進力のある藤本と裏抜けスピードに長けた井上にも攻撃参加させる狙いだ。3点リードして少し矛を収めたFC東京に対し、一矢報いる策でもあったが、藤本と井上も守備に追われることが多く、なかなか前に出ていくことが出来ない。
75分にはFC東京が再び二枚替え。東に代えて三田啓貴、アダイウトンに代えて永井謙佑。パワーからスピードへとタイプを変えながら攻撃の威力を保ち、さらに大分を叩きに来る。
残り時間が少なくなると、前線のスピードでさらなる追加点を狙いつつ守備を固めるFC東京の前で大分がボールを動かす場面も生まれたが、牙城を破ることは出来ず、逆にカウンターを受けてしまう。セットプレーも含め最後までFC東京に攻められながら、体を張ったり相手の精度不足に助けられたりしながら、それ以上は失点を重ねずに終えた。
ベンチの意図した攻守のバランスとピッチでの匙加減
スコアを含めた試合展開や選手の疲労度合など、時間経過とともに目まぐるしく遷移した大分の戦い方は、スタンドから見ていてもロジカルに狙いを持っていると感じられたし、実際に試合後に指揮官に確認すると、やはり概ねそのとおりだった。
ただ、その狙いがピッチ上で表現できたかと言えば、その評価は難しい。特に長沢と渡邉を並べたあたりから、もっと割り切って前線のスペースへとアバウトなボールを放り込み続けてもよかったような気もする。藤本と井上の抜け出しに期待して積極的にフィードを送ることも有効だったかもしれない。森重と渡辺剛の2CBが率いるFC東京の守備組織はそうそう簡単には崩れないだろうが、数的不利で効果的なボールの動かしが出来ない状況ならば、そのほうが得点の可能性は高まったのではないか。
ただし、そのせいでさらに傷口が広がるリスクも高まる。大量失点してシーズン終盤に得失点差が残留争いに影響するような事態は避けたい。コーチングスタッフたちの狙った攻守の緻密なバランスは確かにロジカルではあったが、その匙加減をどうするかは、ピッチ上で選手たちが判断しなくてはならない部分。今節の戦いぶりからはその判断の一体感が希薄に見えて、結局、攻めに出られずに守備の時間を増やしてしまったようにも思う。ピッチ上ではっきりとプレーで方向性を示し、11人がまとまって戦う力の発現を見たかった。観客もそれを望んでいたはずだ。
次節は不動の左CB三竿を欠く厳しい状況。1週間の準備期間で、迷いなく戦えるように整理したい。