立て直した守備。鹿島の威力を削り7試合ぶり無失点で+1
前節から短期間で立て直した組織的守備で、攻撃力の高い鹿島の威力を削いだ。潰し合う中で互いにシュートの少ない展開となったが、最後まで集中して拮抗したゲームを乗り切った。
試合情報はこちら
“やらせない守備”が機能して鹿島を封じる
前節のアウェイ札幌戦から移動日を含めて中3日の大分と、前節のホーム仙台戦から中2日の鹿島。互いにタフな状況で迎えた3連戦の2戦目に、大分は先発4人、鹿島は7人を入れ替えて臨んだ。荒木遼太郎と上田綺世の6得点コンビはメンバー外だったが、エヴェラウドを頂点にトップ下にはファン・アラーノ、その左右に白崎凌兵と松村優太が並ぶ攻撃陣は強力。ベンチにも錚々たる顔ぶれが並び、鹿島の選手層の厚さをあらためて感じる編成だった。
だが、終わってみればその鹿島が放ったのはシュート3本。これまでの鹿島の1試合平均シュート数が14.8本であることを鑑みれば、大分の“やらせない守備”が奏功していたことが浮かび上がる。ひとつにはエンリケ・トレヴィザンが旧知の友人でもあるエヴェラウドを完全に抑えたこと。そしてどのポジションにおいても相手を自由にプレーさせないよう積極的な守備を仕掛けたことがポイントだった。
前節の札幌戦では守備面の課題が多く出て、それにより良い攻撃へも繋げられなかった。今節は相手のシステムも異なるが、短期間でどのように修正したのか。片野坂知宏監督は試合後にこう明かした。
「布陣を対鹿島仕様でコンパクトに保ちつつ、バトルやセカンドボール対応で出来るだけ相手をフリーにさせない仕組みを作り、守備の強度も落とさずにやろうと、ミーティングと短い期間でのトレーニングで落とし込んだ」
それを選手たちが意識して遂行してくれた、と指揮官。7試合ぶりの無失点について「本当に選手を讃えたいし、こういう勝負強さを今後に生かしていきたい」と手応えを口にした。
攻撃でのコンビネーションはまだまだ熟成したい
ただ、相手をシュート3本に抑えた一方で、こちらもシュート1本にとどまってしまった課題も残った。チームとしては相手の攻撃を封じつつ、長沢駿をターゲットに相手のハイプレスの背後で起点を作り、サイドに展開してクロスという形を狙っていたはずで、実際にそういう場面もいくつかは作れたのだが、ボールがある程度前進してから先が難しかった。
立ち上がりは激しくプレスに来る相手に対し、後ろでボールを動かしつつ機を窺っていたが、ある程度ゲームが落ち着いて相手がプレス強度を弱めると、徐々に大分が攻撃機会を増やした。ただ、守備時の立ち位置から切り替えて前に出ていくにあたり、テンポよくボールを動かすことが出来ずに相手に囲まれて奪われる場面も目立った。
「1人が3タッチ以上すると相手も戻りが早く囲まれてボールを奪われてしまうので、もっと1タッチ2タッチ、多くても3タッチ以内でテンポ良くボールを動かし、ワンツーなどのコンビネーションを駆使してゴール前まで行きたかった」と振り返ったのは三竿雄斗だ。
守備では球際で泥臭くバトルし、攻撃では相手の圧を逆に利用しながら前進するスマートさを身につけられれば理想的だが、呼吸を合わせるにはもう少し時間が必要なのかもしれない。
ちなみに両軍合わせてシュート数「4」はJ1最少記録。小林裕紀は「無失点で終えただけでは勝点3は取れない。シュートの数、得点につながりそうなプレーをもう少し増やしていかないと」と振り返った。
やらせなかったが勝てもしなかった、その先へ
24分に坂圭祐が負傷し交代を余儀なくされるアクシデントもあった。代わって入った刀根亮輔がスムーズに溶け込んで今節はことなきを得たが、坂の怪我が長引くものでないよう祈るばかりだ。
この試合最大のピンチは43分、杉岡大暉のグラウンダークロスにエヴェラウドがワンタッチで合わせた場面だったか。クロスに刀根が触って軌道が変わっていたこともあり、わずかに枠を外れてくれた。
49分、大分は町田也真人を小林成豪、小林裕紀を羽田健人へと2枚替え。鹿島は67分に永木亮太をディエゴ・ピトゥカ、エヴェラウドを染野唯月に替え、さらに75分にはファン・アラーノに変えて和泉竜司、白崎凌兵に代えて土居聖真。和泉が左SH、土居がトップ下に入る。
選手を入れ替えてプレースピードを増した鹿島は、終盤、攻め込む場面を増やした。大分は体を張ってそれをしのぎ、そこから与えたセットプレーでも集中を切らさずに弾き返す。大分は83分に香川勇気を福森健太、井上健太を藤本一輝へと交代して両ワイドの鮮度を保ち、最後まで鹿島に数的優位を作らせまいとした。89分には松村を小泉慶に替えて鹿島もカードを使い切る。
試合巧者でしたたかに結果を出し続けてきた鹿島が相手だ。どれだけ耐えていても、ひとつミスが起きればゴールを割られる可能性はあった。逆にこちらが上手く攻撃を成立させれば得点を奪うチャンスも生み出せていたかもしれない。力関係は終盤まで拮抗し、ピッチ上では攻め合い守り合いながら、ゴールネットは揺れずにアディショナルタイム4分も尽きた。
互いに潰し合いとなり、「やらせなかったが勝てもしなかった」試合。ただ、強度の高い鹿島相手に球際の守備で引けを取らなかったこと、エンリケの対人強度を存分に生かしつつ組織的守備の狙いも完遂できたことは大きな収穫だった。
次節はまた中3日で今度はアウェイでのFC東京戦。やはり4バックシステムで、タレント揃いの強度の高い相手だ。今節の経験を生かしつつ、対FC東京の狙いを共有して万全に準備したい。