80分から2点差を詰められ、延長戦突入。辛勝ではあったがチームの底上げは進んだ
リーグ戦ではサブ組に甘んじてきた選手が多く出場。社会人チームを相手に難しい時間帯も過ごし、延長戦にまでもつれ込んでの辛勝だったが、これまでとは異なるポジションでのタスクをこなしたり、実戦を通じてフィット感を高めたりと、結果以外にも収穫の多い一戦となった。
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これまでの“サブ組”に奮起を促す起用
リーグ戦から十分に余裕のある日程での天皇杯2回戦・ホンダロック戦。連戦のリーグ戦で主力を張ってきたメンバーでクオリティーのさらなる向上を目指すのか、あるいはこれまではサブ組に甘んじていた戦力を起用してチームの底上げを図るのか。マネジメント的にはいずれも考えられたが、チームが選んだのは後者だった。直近のJ1第17節H福岡戦後には片野坂知宏監督自身が選手たちへの奮起を強く求めており、その意図を反映した形となった。
それにしてもはっきりした編成だった。松本怜、髙澤優也、渡邉新太らコンスタントにリーグ戦に絡んできたメンバーは限られており、頂点に入った伊佐耕平も負傷明け。ゴールマウスを守るのは昨季加入後これが初出場となる吉田舜で、ボランチの一角に配置されたのは、チームに合流して以来ルヴァンカップ第5節H徳島戦で途中出場したのみだったペレイラだ。藤本一輝は左WB、福森健太が左CBと、これまでから一列ずつ下がったポジションに置かれているのも注目点だった。ベンチは6名に抑えられていた。
一方、宮崎県を代表して乗り込んできたホンダロックは、直近のJFL第11節から中3日で、先発を2人入れ替えたのみ。普段から公式戦を戦っているメンバーで、コンパクトに統制の取れた守備から入る。4-4のブロックを構えると、高い位置では積極的にプレスをかけ、自陣ではしっかりとスペースを消してゴール前を固めた。
耐える時間を越え長谷川のプロ初得点で先制
連係面の成熟が不十分な大分は、ボールを動かすテンポがなかなか上がらない。それでも球際のクオリティーやグループで局面ごとに上回り、相手を押し込んでなんとかこじ開けようと試みた。ホンダロックはそんな大分の背後へと長いボールを送って反撃するが、刀根亮輔が率いる安定した大分守備陣に対応される。
時間経過とともに大分の強度やスピードに慣れてきたホンダロックがボールを握る時間帯を増やし、パワーバランスは拮抗状態に。大分はセットプレーのチャンスを仕留めきれず、ホンダロックは前半はシュート0本に抑えられて、両軍ともに耐える雰囲気を漂わせながら、試合はスコアレスで折り返した。
後半開始と同時に大分は伊佐を井上健太に交代し、渡邉と髙澤の2シャドーの左右を反転。井上が持ち前の走力を生かすことで相手の引いた状態にスペースが生まれ、また相手が空けたスペースを使うことも出来るようになった。
ようやく奪った先制点は50分。それまでも得意のドリブルで推進力を発揮していた藤本が左サイドで起点を作り、中へと配球。相手がクリアしたところへ走り込んできた長谷川雄志が左足で狙い、見事にネットを揺らした。少し意外な気もするが、長谷川はこれがプロ初ゴールだ。
一昨年の鹿屋体育大戦を思い出す、80分からの展開
勢いを得た大分は立て続けにチャンスを築く。58分には上夷克典の縦パスを受けた渡邉がシュートしてGK熊野に掻き出され、62分には渡邉のマイナスのクロスに髙澤が頭で合わせてわずかに枠の左。
ホンダロックは62分、坂本翔を田中大和に、72分には當瀬泰祐を日野友貴、牧野翔太を永吉広大にチェンジしてして追撃を続けるが、攻めに出たその背後を突いて74分に大分が追加点。俊足で抜け出した井上のマイナスの折り返しに髙澤がワンタッチで合わせてゴールへと流し込み、リードを広げた。
このまま90分で決着をつけたいところだったが、選手交代で追撃の強度を増したホンダロックもそのままでは引き下がらない。80分、自陣でボールを動かしている中でのミスを突かれ、田中大に蹴り込まれて1点を返された。ちなみにこの田中大は藤本の鹿屋体育大の1学年先輩で、一昨年の天皇杯で藤本とともに大分と対戦した過去がある。
流れは一気に相手に傾き、攻め込まれた中でハンドを取られ、FKを献上。キッカーを務めた諏訪園良平の弾道は本人も「壁が大きかったのでそこしかなかった」というコースを見事になぞって、吉田の指先をかすめネットを揺らした。見事な同点弾だった。
大分は88分、藤本に代えて高畑奎汰。失点前に1点差で逃げ切ろうと3枚替えの準備をしていたのだが、同点とされたため急遽1枚のみの交代となった。オープンに攻め合う4分のアディショナルタイムにも決着せず、勝負は延長戦へ。
2アシストの井上が自ら決勝点も挙げる
延長戦に入ると同時に、大分はペレイラを戦術理解度の高い羽田健人に交代。中盤が安定し、いつもどおりのボールの動かしが出来るようになったことで、相手を押し込んでゴール前での細かいパスワークで崩す場面を増やす。102分には厚みのある攻撃から最後は高畑がシュートしたが、枠上に逸れた。
延長後半に入る際には松本を黒﨑隼人に交代。とにかく負けることは許されないと責め続けた108分に、その意地が結実した。左サイドでボールを持った渡邉がエリア内で起点を作りゴール前へと送ると、混戦の中で髙澤は打ちきれなかったが最後に体を投げ出して井上が沈め、3点目を奪う。
112分、大分は刀根に代えて屋敷優成。上夷が3バックの中央、黒﨑が右CB、途中から髙澤と変わってシャドーに移っていた井上が右WBへとスライドし、屋敷が右シャドーに入った。ホンダロックは118分、大山直哉を中島拓真に代えてシステムを3バックに変更。アディショナルタイムには日野が豪快なシュートを放ってヒヤリとしたがわずかに枠上に逸れ、試合は3-2で終了。プロの意地は辛くも保たれた。
下手をすればジャイキリされていた可能性も否めなかったが、公式戦での異なるポジション経験や組み合わせなど、限られた時間と戦力の範囲内で、多くのことを試すことも出来た。苦しい展開の中で選手たちが結果にこだわって戦い、3回戦へと駒を進めたことはメンタル的にも大きい。
3回戦の相手は、J2甲府をジャイキリした福井ユナイテッド。角野翔汰と宮地裕二郎の大分U-18OBが所属しているほか、2015年に大分でトップチームヘッドコーチ、翌年はU-18監督を務めた中村有が、今季からヘッドコーチを務めている。甲府の三平和司との対戦はなくなったが、福井とのマッチアップもなかなかに熱いシチュエーションだ。