早々の長沢先制弾に、苦しい時間帯のエンヒキ追加点。流れを引き寄せて5戦ぶり白星
好調・福岡との九州ダービー。予想どおり強力な相手攻撃陣に苦しめられはしたが、いくつかのポイントで試合の流れを引き寄せ、チームは5戦ぶりの白星を掴んだ。
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最初の狙いの形から7分に長沢弾で先制
まず、開始早々の先制点。次に、押し込まれて苦しくなっても無闇にカードを切らずに耐えたこと。そして、その時間帯に取れたセットプレーからの追加点。1点差に詰め寄られてからの最小限の交代策。それぞれの分岐点で選手たちがタスクを全うしたことで、それらすべてが勝負のアヤとなり、流れを引き寄せた試合だった。
外国籍選手を含め強力な攻撃陣を多く擁する福岡がどういうメンバーでスタートするかも焦点だった。フタを開けてみるとブルーノ・メンデスと渡大生の2トップ。渡がやや下がり気味で持ち前のタフさを生かして守備に駆けずり回り、メンデスが隙あらばゴールを脅かす狙いに見えた。フアンマ・デルガドや山岸祐也、ジョルディ・クルークスがベンチスタートだったことを考えても、前半は大分に攻めさせておいて無失点で時間を過ごし、後半になってから一気に圧を強めるプランだったのかもしれない。いつもは攻撃で脅威となるはずのエミル・サロモンソンや金森健志が、前半はあまり攻勢に出ないことが気になった。
大分のほうは立ち上がりから積極的にボールを動かし、狙いどころを執拗に突く。町田也真人が何度も宮大樹と輪湖直樹の間から背後に抜け、ラインぎりぎりからクロスを入れようと狙った。小出悠太もそれに絡み、可能性を感じさせる形がいくつか作れたところで、7分に早速それが結実した。町田のクロスは相手に当たり高い軌道を描いて逆サイドへ流れ、走り込んだ小林成豪とカブりそうになりつつ香川勇気がスペースへ落とす。そこへ顔を出したのは長沢駿。相手守備陣が一瞬ボールウォッチャーになった隙を逃さず、同じタイミングで寄せてくる2人の間を見事に抜いてゴールへと流し込んだ。
これまでは狙いはハマっていても、その間に仕留めきれずに相手に対応されてしまうことが多かった。今節は最初の狙いが効力を維持しているうちに先制に成功し、良いムードで試合を運べるようになる。27日に双子のパパになったばかりの坂圭祐を、ゆりかごダンスで祝福することも出来た。
選手交代で圧をかける相手に我慢の時を過ごす
システムのミスマッチを使う大分に主導権を渡し、球際や走力でも劣勢に立っているように見えた福岡は、やはり前半を「構えて持たせる」プランで過ごしたかったのかもしれなかった。ボールを持っても大分にコースを切られて出しどころに迷う場面も見られた。それでも15分にはメンデスが左足シュート。メンデスは21分にもフィードに抜け出すがオフサイド判定。さらに、次第に渡の守備がハマりはじめ、大分の出しどころの自由が制限されるようになると、形勢は少しずつ福岡へと傾いていった。45分にも、こぼれ球を拾ったメンデスが右足を振り抜いたが枠の上。試合は1-0で折り返す。
ハーフタイムの時点で、片野坂知宏監督は福岡の守備をどうかいくぐってボールを前進させるかという修正案を準備していた。だが、長谷部茂利監督は後半頭から渡をベンチに下げ、フアンマを投入してメンデスとの2トップで戦い方をシフト。フアンマにボールを集めて収めさせ、大分を押し下げる戦法に出た。
それは実際に奏功し、48分にはこぼれ球から杉本太郎。54分にはメンデスが大分守備陣と競り合いながらシュート。いずれも枠から外れたが、迫力を増した福岡は主導権を奪還し、前半は大人しかったサロモンソンも攻め上がるようになった。
ひとつ処理を誤ればゴールを割られそうな展開。だが、片野坂監督は辛抱強くそれを見守った。結果的にはここで焦って動かなかったことが良い方に転じたと言える。前線の圧力で大分を押し込んだ福岡は、それによってスペースを失い、自由にプレーすることが出来なくなっていた。エンリケ・トレヴィザンも対人守備の強度で存在感を発揮した。
再び流れを引き寄せたエンヒキの加入後初ゴール
先に動いたのは福岡ベンチ。62分に杉本を山岸、金森をクルークス、輪湖を湯澤聖人へと3枚替え。それと同時に大分も、足をつらせた小林成を渡邉新太にチェンジする。フレッシュな渡邉の激しいチェイシングで、相手の前線へのフィードの精度を落としたい狙いだったのだろう。
そんな苦しい時間帯の70分、非常に大きな追加点が生まれた。左サイドでアグレッシブに仕掛けた香川が左CKを獲得。下田北斗のキックはニアで相手を引きつけた長沢を越え、その背後のスペースで相手に当たったこぼれ球をエンリケが収めると即座にシュート。これが移籍後初ゴールへと結実し、流れは再びこちらへと引き寄せられた。
だが、そのままで終わる福岡ではなかった。メンデスのクロスに対応した下田がエリア内ハンドを取られ、PKを献上。クルークスがこれを沈めて、77分に1点差に詰め寄られる。
そこからは采配合戦となる。大分が80分に町田を髙澤優也に交代すれば、福岡は85分に田邉草民を重廣卓也にチェンジ。87分には大分が坂を刀根亮輔に交代して守備に高さをもたらし、同級生指揮官によるベンチワークの駆け引きが繰り広げられた。
いずれも勝利を目指す姿勢を崩さない白熱の九州ダービー。6分というアディショナルタイムは、前線に長いボールを入れたい福岡とそれをさせまいとする大分とのせめぎ合いの様相を呈した。それを制したのは大分。スタジアムはホームチームの5試合ぶりの勝利に沸き、8戦ぶりの黒星を喫したアウェイチームは緊急事態宣言下のため空席となったゴール裏へと頭を下げた。
巻き返しにはチームの底上げが不可欠
終わってみればシュート3本で2得点。効率的というには耐える時間が長い展開となったが、落ち着いた対応を続けたポープ・ウィリアムや前線のプレスバックも含めて全員で体を張った守備、そしてアグレッシブな攻撃姿勢から勝ち得た結果だった。
リーグはこれで代表ウィークによる中断期間に入る。狙いの形からの先制点にエンリケの移籍後初ゴールと好材料の多い勝利で気分良くブレイクを迎えることが出来るが、まだ降格圏に沈んでいることには変わりがなく、チームにはここからの巻き返しが期待される。
片野坂監督は浮上へのカギをチームの底上げだと考えているようで、試合後の会見でこう話した。
「今日も交代枠を3枚しか使わなかったのだが、結局『3枚しか使えない』というところを選手にはわかって欲しいと思う。そういう中でも出場してパワーを出し、戦力になってくれたり、今日のゲームで言えば2-1になったところを3-1にするとか、しっかりと0で守りきるとか。そういうふうに交代で出る戦力を底上げして層を厚くすることが、すごく大事になってくる」
中断明けからはまた連戦。そして次は五輪による中断。その後はシーズン終盤へと突入していく。20チーム中4チームが降格する、まさに血で血を洗う残留争い。今季のJ1にはまるでJ2のようなヒリヒリ感がつきまとう。それを勝ち抜いていくためには、選手ひとりひとりのレベルアップが不可欠だ。指揮官は勝利の後に、メンバーへの奮起を強く促した。