TORITENトリテン

試合レポート

今季リーグ戦初完封、今季ホーム初勝利、対ロティーナ初勝利で連敗ストップ。巻き返しへ

 

長い長い連敗が「7」で止まった。それは今季リーグ戦初完封、今季ホーム初勝利、そしてロティーナ監督からのリーグ戦初勝利といろんな“おまけ”がついてきた歓喜の結末だった。

試合情報はこちら

 

試合の流れを引き寄せた町田の先制点

いきなり中村慶太に突破されてクロスを入れられ、紙一重でゴール前で合わないピンチ。あそこで失点していたら試合はまったく違う展開になっていたに違いない。試合の入りの怖さを痛感したシーンだった。守備のオーガナイズに関しては抜群の対ロティーナ監督が相手だから、いつも以上に先制点が欲しい試合だ。
 
最初のピンチの後を引き締めるように、以後は集中したプレーが続く。長沢駿をターゲットに右サイドから多くチャンスを築く大分と、チアゴ・サンタナを軸に攻撃を組み立てる清水。大分は松本怜の再三のクロスも帰陣の早い相手に跳ね返されて長沢に届かず、清水はパスや連係の精度を欠いてなかなか攻撃が成立しない。
 
35分には左サイドで縦パスをカットされ鈴木唯人にドリブルで持ち込まれシュートされたが、ゴール前でなんとか触って逸らし命拾い。こちらも負けじと37分にビッグチャンス。松本からのリターンをワンタッチで小出悠太がフィードすると、長沢が競り、小林成豪が拾って持ち上がる。勢いに乗った状態で送ったクロスは長沢の足元に届いたが、左足ダイレクトのシュートは飛び出してきた権田修一に体を張って止められた。
 
大きな決定機を逃した形になったが、それによって得た右CKから先制点が生まれる。下田北斗のキックは中でジャンプした長沢の頭すれすれに後ろに流れ、相手選手に当たったこぼれ球を、権田に触られるより早く町田也真人が泥臭く押し込んだ。町田は前節・浦和戦の2得点に続く2試合連続得点となる。
 
欲しかった先制点を挙げて均衡を崩し、勝利への思いはさらに強まった。

 

前線にパワーをかける清水に押し込まれる

後半立ち上がり、清水は積極的な姿勢を見せる。だが、中山克広のクロスはラインを割り、エウシーニョの持ち上がりからのスルーパスも味方に合わず。自陣ではしっかり構える大分の守備を崩しきれず、大分はボールを奪うと無理せずに長沢への矢印を描いた。
 
細かなミスが多発してなかなかリズムを作れない清水は61分、河井陽介を西澤健太、鈴木唯を後藤優介に二枚替え。中村がボランチ、中山が左SHに移り、西澤が右SHに入り、後藤はチアゴ・サンタナと縦関係のコンビを組むかたちとなると、ここから一気に清水の勢いが増す。
 
64分にはエウシーニョがボールを持ってぬるぬるとカットインし、そのまま逆サイドまで行ってエリア内にまで進入するとクロス。このドリブルに大分の陣形は完全に崩されていたが、最後に詰めた西澤のシュートは右サイドネットを揺らすにとどまった。
 
清水に流れを渡すまじと大分ベンチも動く。70分には小林成を渡邉新太にチェンジ。怪我明けの渡邉はこれで戦線復帰を果たし、変わらぬアグレッシブさを披露した。72分には清水が中山を指宿洋史に。指宿がチアゴ・サンタナと2トップを組み、後藤は右SH、西澤が左SHへと移動する。ロティーナ監督が上手くいかない試合のときに使う常套手段。前線に高さと強さのあるFWを並べ、そこにパワーをかけてくる戦法だ。突破力のある西澤に対応すべく、大分は74分に疲労した松本を福森健太に代えた。

 

パワープレーにはエンリケが対応

追撃のペースをなかなか握れない清水は87分、さらに強度を増すカードを切る。奥井諒と中村をベンチに下げ、福森直也とヴァウドを投入。福森直は左SBに入り、ヴァウドは前線で好機をうかがった。チアゴ・サンタナ、指宿、ヴァウドが並ぶ脅威のパワープレー。89分、片野坂知宏監督はこんなときのためにとばかりに、小出をエンリケ・トレヴィザンに交代する。エンリケは3バックのセンターに入り、坂が右CBへ。
 
待望の勝利まであと何分か。電光掲示板の示したアディショナルタイムは5分という長さだった。指宿に空中戦で競り勝つエンリケ。シュートに対しては何人もが体を投げ出してブロックする。ポープ・ウィリアムも集中力の高い好守を連発し、下田や町田は無理せず上手く時間を使った。90+5分、ヴァウドのヘディングシュートは枠の上。
 
権田も前線に上がっての清水の最後の攻めはエンリケが競り勝ってクリアし、スタンドから拍手が沸き起こった。そのスローイン直後に試合終了のホイッスル。連敗はついに「7」で止まった。清水の激しい追撃を振り切った選手たちは安堵の表情。この試合だけでなく、ここまでトンネルの長さを噛みしめるように、並んで一礼した。片野坂監督は試合後のDAZNインタビューで、堪えきれずに大泣きした。

 

勝利を手繰り寄せたそれぞれのファインプレー

勝利を手繰り寄せるポイントは各所にあった。7分、体当たりの守備でチアゴ・サンタナにボールを収めさせなかった小林裕紀の守備。ロティーナ監督との“塩ダービー”の流れを引き寄せるファインプレーだった。

アバウトなボールを入れても収めきれる長沢が1トップを務めたことで割り切った攻撃を選択肢のひとつに出来たことも大きかった。攻守に献身的な192cmは、ゲームの途切れている何気ないワンシーンでも、細かいプレーでチームに貢献している。
 
復調した香川勇気も素晴らしかった。今節の清水で間違いなく最も厄介な存在だったエウシーニョとのマッチアップで引けを取らず。中山、西澤、後藤とSHも曲者揃いだったが、香川のガツガツ行く守備が清水のストロングポイントを大いに削っていたことは間違いない。

 

守備を統率した坂圭祐も、三竿雄斗と小出と連係しながら、チアゴ・サンタナを自由にさせない強さを醸し出した。大分に来たばかりの頃、「鈴木選手と岩田選手が移籍してサポーターも不安に思っていると思うけど、『坂がいれば大丈夫だ』と思ってもらえるようにしたい」と話していた。怪我で離脱していた時期もあったが、この日、昨季までのDFリーダー鈴木義宜との対戦で、ホーム初勝利を掴んだ。なお、ホーム初勝利ゆえに勝利後のラインダンスを知らなかった模様。キャプテン高木駿の指南を受け、ラインダンスに参加していた。ちなみに小林裕はこのときも塩っぷりを貫いた。

ここ数試合で内容が上向いた要因のひとつに、片野坂監督はダブルボランチと2シャドーが理解しあい、上手く舵取りしていることを挙げた。絶妙な立ち位置で相手を惑わせボールを引き出した町田、必要とあらば試合終盤までどこにでも走った下田。彼らのクレバーさと高い経験値が、チームをまとめはじめたようだ。
 
反撃はここから。試合後には、勝利の喜びよりも先に、後半に流れを手放しかけたことへの反省が選手たちの口を衝いた。先はまだ長い。ひとつずつ順位を上げていく。

キャプテンにラインダンスの指南を受ける新戦力たち
最後まで塩を貫いたお兄さん