中2日での敵地連戦。16人での割り切った戦いで公式戦連敗ストップ
7連戦の4戦目、中2日でのアウェイ連戦に、チームはベンチメンバーを5人に抑えた16人で臨んだ。選手層でも経験値でも大きく上回る相手に対し、ある程度割り切った戦いで挑むと、0-0で+1。公式戦連敗をストップした。
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平均年齢22.45歳による縦に速い戦法を披露
リーグ戦に挟まれた、中2日でのアウェイ連戦。メンバーが発表されてみると、チームの台所事情が露呈する編成だった。先発はルーキーや2種登録を含む平均年齢22,45歳。ベンチメンバーは怪我明けや合流間もない新外国籍選手を含む5人に抑えられた。選手層の厚い神戸に比べると、悔しいが経験値やタレント性ではどうしても見劣りすると言わざるを得ない。
それでも「勝点を取れるゲームを」と、この試合に向けてのチーム片野坂は割り切ったプランを準備した。スタート時は1トップ井上健太の下に藤本一輝と屋敷優成の2シャドーを並べると、守備では相手のビルドアップに対してガンガンにプレスをかけ、攻撃ではスピーディーに相手の背後を狙わせた。ルヴァンカップ開幕戦以来の出場となった弓場将輝が球際激しくボールを奪う場面も多く、5分には福森健太のクロスを飯倉大樹が掻き出したこぼれ球に走り込んでシュートも放つ。井上潮音に当たって枠外に逸れたが、チームが苦境の中、出場機会に恵まれずにいたメンバーの気概が感じられる序盤となった。
神戸の激しいハイプレスとサイド攻撃はやはり強力で、攻められる場面は多くなったが、羽田健人を中心にゴール前で弾き返した。自陣では5-4のブロックを敷く大分に対して神戸は大きなサイドチェンジで揺さぶりをかけるが、ある程度の高さまではこまめにスライドしながら耐え、押し込まれると一気に中央を固めてゴールを割らせない。
集中した守備。少ない好機を狙う攻撃は精度が課題
特に神戸の左SB初瀬亮が躍動感を見せ再三攻撃参加していたこともあってか、大分は飲水タイムを境に前線の並びを変え、1トップ藤本一輝、右シャドーに井上健太、左シャドーに屋敷の形を取った。井上健太のスピードで初瀬の裏を狙わせるとともに、藤本一輝のほうがボールを収めるのが得意という側面も考慮したのではないかと思われるが、大﨑玲央と小林友希の守備も強い。前線にボールが収まらないため、どうしても攻められる時間のほうが圧倒的に多くなる。
だが、それも想定内での、守備を固めてウラを狙う戦法だった。多く攻められる中で守備は、相手の精度不足にも助けられつつよくしのいでいたと言える。ただ、前から来る相手の背後を突く攻撃に関しては、好機の芽は作れるものの、勝負のパスの精度が足りず、決定機にまでは至らない。
44分にはあわや失点の場面。左サイド深い位置で初瀬からの縦パスを受けた小田裕太郎には黒﨑隼人がスライディングで寄せてボールを奪うが、黒﨑の出したところに走り込んだ初瀬にシュートを打たれる。黒﨑と長谷川が必死に体を投げ出し、羽田やポープ・ウィリアムも後ろで構えていた中で、弾道はファーポストを叩いて外へと弾き返された。
相手の退場で数的優位も、こちらも難しくなる
交代なしでの後半スタート。井上健太と屋敷のシャドーは左右が入れ替わった。屋敷が右のほうがプレーしやすいのかもしれなかった。
守勢に回る中、それでも集中して崩れない守備で相手を焦らせたのは大分のほうだったのかもしれない。62分、増山朝陽が福森へのファウルでイエローカード。増山はすでに51分に弓場を倒して警告を受けていたため、退場となる。
このアクシデントに、三浦淳寛監督は小田を右SHに回して4-4-1のフォーメーションに。1トップは藤本憲明が絶えずDFラインと駆け引きしていたが、味方から良いタイミングでパスが出てこず、羽田もラインを統率して対応していた。ただ、これで神戸が得意のハイプレスを抑制し、4-4で構える形を取るようになったため、大分も相手の背後を突く狙いを遂行しづらくなってしまう。
71分、神戸は藤本憲明と小田をリンコンと佐々木大樹に交代。74分、リンコンと羽田がエリア内で頭部を激突させ、2人とも一時ピッチ外に出る事態に。リンコンは間もなくピッチに戻ったが、流血した羽田は処置を要したため、黒﨑が最終ラインに落ちて上夷克典がセンターを務める形でその時間をしのいだ。
終盤の山場も勝利はいずれにも転がらず
これが加入後2試合目となるリンコンはまだフィットしきれていない様子。遠慮があるのかそういうスタイルなのか、自己主張の強さは感じられなかった。サイドを起点に主導権を握って攻めながらも得点できない神戸と、押し込まれているぶんカウンターチャンスが生まれそうな大分。ここから両指揮官は勝利を手繰り寄せるべくカードを切る。
神戸は76分に櫻井辰徳を山口蛍へ、81分に井上潮音を酒井高徳へと、代表経験を持つ2人を投入。酒井が左SBに入り初瀬をSHに上げた。戦況は構図を変えずに時間が進む。初瀬のクロスにリンコンは合わせきれず、櫻内渚のシュートは上夷がブロック。大分は83分に藤本一輝を髙澤優也にチェンジ。髙澤ならアーリークロスでのワンチャンスをものに出来るかもしれないという期待が高まる。86分、屋敷のグラウンダーのマイナスクロスそ髙澤がシュートし、大﨑にブロックされるももう一度こぼれ球を拾って打ったが、飯倉の決死のシュートストップに阻まれた。88分には酒井のクロスを佐々木が打ちきれず、こぼれ球を酒井がシュートするもサイドネット。
89分には大分が三枚替え。弓場をエンリケ・トレヴィザンに、黒﨑を高山薫に、羽田を刀根亮輔に。押し込まれる中、刀根のチャレンジ&カバーに助けられながら好機をうかがった。そして5分のアディショナルタイム。90+3分福森のクロスからの髙澤のシュートは小林友希がブロック。90+5分のラストチャンスはカウンターで抜け出した井上健太からの縦パス。絶妙にスペースを突いた髙澤に渡ったのだが、2枚のDFを切り返して剥がそうとしたとき、ノエスタのハイブリッド芝に足が滑った。終戦を告げるホイッスルを聴きながら、髙澤は無念そうにピッチを叩いた。
戦績以外に、実は収穫が多かった一戦
アウェイでのルヴァンカップで勝点1。FC東京が徳島と1-1で分けて予選突破を決め、神戸、徳島、大分が勝点4で並んで、得失点差においても今節もBグループの三つ巴は変わらず。
J1残留のためにリーグ戦に全力を注ぎたい状況で、アウェイ連戦の2戦目のカップ戦をこれまでのサブ組中心の16名で戦った大分としては、最低限の結果だったと言える。
だが実は、ボウリングでいうスペア状態ではあるが、この試合で得られた収穫は大きいのではないか。週末のJ1第12節・清水戦に向けて主力を“温存”しつつ、これまでサブ組に甘んじてきたメンバーに実戦経験を積ませ、引いて守ってウラへのカウンターという戦術オプションもある程度奏功させた。さらに、短い時間ではあったが新戦力であるエンリケの初出場を果たし、怪我明けの高山に公式戦のピッチを踏ませている。
ポゼッション率は低くシュートも6本にとどまったが、それを想定した上で最後まで狙いを合わせて戦い、公式戦連敗をストップさせた。終盤に投入した髙澤も複数の得点機を得ており、ゲームプランがハマっていたことも、リーグ清水戦に向けて悪い流れではない。決定機を逃した髙澤には早く今季初得点を決めて波に乗ってもらいたいところだが、これまでの試合に比べればゴールに近づいている。今期加入戦力の特長も、徐々に組織に還元されるようになってきた。
この、まだうっすらとした手応えを、勝点に結びつけ浮上していくことが出来るかどうか。チームの底力が試される。