準備してきた狙いが奏功も、相手の変化に対応できず無念の逆転負け
対広島の狙いどおりにボールを動かせた前半と、その流れからの先制。だが、その後の相手の変化に対応できずミスも重なって逆転負けを喫した。指揮官は相手の変化が想定外だったことについて「準備不足だった」と悔やむ。
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4バックの広島に対し狙いどおりボールを運ぶ
ボールを握っての攻撃をなかなか披露できずにいた今季のチームだが、今節の前半は、今季から4-4-2システムを採用する広島とのミスマッチを上手く使いながら、ボールを運ぶことが出来ていた。
立ち上がりから互いにゴール前のシーンを作り出す展開となる。2分は広島、浅野雄也のシュートが枠上に飛び、6分には町田也真人のクロスに長沢駿が頭で合わせてやはり枠の上。
大分はコンパクトなブロックを組みながらパスコースを切ったりボールホルダーに寄せたりとメリハリをつけて守り、攻撃では4バックの相手に対するポジションを取ってプレッシャーをかいくぐりながらボールを動かす。顕著に見られたのはシャドーがボールを受けに下り、WBとCBが相手ブロックの大外とギャップを使い分けて攻め上がったり、相手サイドの裏を取ったりする形。6分のシーンで言えば相手守備陣が小出悠太や井上健太に引っ張られた中、中盤でフリーになった町田が長沢の長身を生かすようなふんわりクロスを供給していた。他に、相手の背後を突く長いボールの狙いも見られた。
井上がスピードを生かして再三右サイドを突破していたせいか、広島は30分を過ぎたあたりからエゼキエウと藤井智也の左右を入れ替え、藤井が積極的に絡んでチャンスを演出するようになる。この試合で初めて左SBに入った茶島雄介は頻繁にインサイドのポジションを取っていた。
36分には今津佑太のクロスに合わせたドウグラス・ヴィエイラのヘディングシュートがクロスバーに弾かれた。38分には福森健太のシュート性のクロスがゴール前集団の頭上を越えファーポストに当たって外へ。ビッグチャンスとピンチにスタジアムは盛り上がりつつ、アグレッシブな攻防が続く。44分には浅野のシュートが高木駿を強襲するが、その後のCKも含め、大分は広島の攻撃を跳ね返した。
長沢の移籍後初ゴールで先制も…
後半スタートから広島はエゼキエウをジュニオール・サントス、藤井を森島司に代えて、まずは浅野を右SH、森島を左SHに置いた外国籍2トップとする。それとともにダブルボランチの川辺駿と青山敏弘が縦関係を取るようになった。川辺は攻撃で前線に絡むだけでなく、守備でも大分のビルドアップを積極的にケアする。
そんな52分、大分が先制。左サイド深い位置でボールを受けた小林成豪がやはりぽっかりとフリーになっていた三竿雄斗へと戻し、三竿が左足でふんわりクロス。弾道は正確に長沢に届き、192cmは存分に高さを生かしてヘディングでゴールネットを揺らした。6分のチャンスシーンと左右対称の形で、長沢にとっては待望の移籍後初ゴール。今季3ゴール5アシストを個人目標とする三竿はこれで1ゴール1アシストとなった。
ようやく長沢のストロングポイントが生きた形でリードし、勢いに乗りたいところだったが、これを境に試合の流れは一気に広島へと引き寄せられていく。失点後まもなく、広島は森島と浅野の左右を入れ替えた。続いて浅野を前線に置き、ジュニオール・サントスを左SHに移す。
59分、今津のクロスからドウグラス・ヴィエイラが小出を吹っ飛ばしながらヘディングシュートし枠外。浅野のドリブル突破を羽田健人が体を入れて止めた場面もあった。ビハインドになってギアを上げた相手の個々の能力が徐々に試合のペースを侵食していく。
相手の修正と勢いにペースを奪われた
そして大分を苦しめたのは、広島の激しいハイプレスだった。大分のこの試合でのビルドアップのやり方を、広島が立ち位置を変えて阻んできたことで、大分は前半のようにボールを動かせなくなってしまう。この広島の変化は大分にとっては想定外で、チームはそこに対応できなかった。
64分には羽田の縦パスをジュニオール・サントスにカットされ、オフサイドではあったが浅野のシュートを高木が必死で止めるというミスが発生。そして相手を捕まえきれずに守備が後手後手になり、ラインが下がっていた65分、茶島のクロス。大分守備陣の意識を集めていたドウグラス・ヴィエイラの背後からフリーで入ってきた青山が頭で合わせたシュートは、ループを描いてぎりぎりクロスバーの内側に触れ、ゴールへと吸い込まれた。
67分、広島は茶島を佐々木翔、ドウグラス・ヴィエイラを柏好文へと交代。2トップは浅野とジュニオール・サントスになり、柏は左SH。佐々木はそのまま左SBに入った。7連戦の7戦目、城福浩監督はここが勝負どころと言わんばかりに選手交代でギアを上げ続ける。
68分には今津が福森に激しくプレッシャーをかけてボールを奪い、拾った森島が折り返してジュニオール・サントスがシュートもわずかに枠の右。71分には柏との連係から高い位置を取った佐々木のクロスを今津が拾い、そのシュートを高木のビッグセーブでしのいだ。
交代も機能せず逆転への流れを止められない
試合のカギを握るサイドの主導権を広島に明け渡していることで、75分に大分ベンチが動く。小林成を渡邉新太に、井上を黒﨑隼人に、福森を香川勇気に三枚替え。渡邉は右シャドーに入り、町田が左シャドーへと移った。黒﨑と香川はそのまま右と左にセット。
一部戦力はフレッシュになったものの、広島の勢いは止められない。80分、広島は浅野に代えて鮎川峻。鮎川は最前線から積極的にボールを追った。柏と森島の左右も入れ替わる。
83分、大分は小林裕紀に代えて長谷川雄志。長谷川はスペースにポジションを取りながらボールを動かそうと努めた。だが、そんな試みの中の87分。町田のパスが今津にカットされ、スピードに乗ったカウンターで攻め上がられるとスルーパスに反応したのは川辺。追いすがる大分の選手たちを尻目にあっという間にゴールに流し込まれ、広島に逆転を許した。
追いつきたい大分は88分、町田を髙澤優也に交代。6分のアディショナルタイムに、再び同点に戻せるかどうか。だが、主導権は相変わらず広島の手中。交代で入ったメンバーも懸命にボールを追うが、自分たちの攻撃にはなかなか切り替わらない。93分、三竿のパスが森島に引っ掛かる痛恨のミス。ゴール目前でこぼれ球を拾った鮎川はエリア内へと持ち込み、細かいステップで高木との1対1をかわすとゴールへと流し込んで、試合を決定づける3点目を奪った。
万全の準備と柔軟性を養う積み上げを
無敗の広島は今季初の連勝。初のA代表召集を勝ち取った川辺は逆転弾、19歳の鮎川はプロ初ゴール。城福監督はこの日が還暦の誕生日で、会心の逆転勝利に沸くアウェイチームとは裏腹に、大分にとってはダメージの大きな敗戦だった。
片野坂監督は試合後、相手の修正に対応できなかったことを、自らの力不足と準備不足だったと悔いた。多くの戦力が入れ替わった中で、チームの積み上げてきたものも大きくリセットされ、相手の変化に対応する柔軟性はまだ培われていない。ただ、指揮官は言った。
「構築の部分ではまだまだやり込まないといけない、トレーニングしていかなくてはならないという部分もあるとは思う。ただ、それだけに逃げたくない部分もあるので、それは自分が選手にどういうふうに要求して落とし込んでいくかということがすごく大事になる。そのへんはまだまだわたし自身の力のない部分。なんとか選手と共有しながら、いろんな対策をされる中でも、プランを多く持って臨むようにしていかないと、勝点を積み上げていくのは厳しい」
だが、どれだけ準備していたとしても、相手が想定外の出方をしてくることは今後も考え得る。コーチングスタッフには万全の準備を施してもらうとして、選手たちは戦術理解を深め、組織として戦いの幅を広げていく必要がある。代表ウィークの期間を有効に使い、ルヴァンカップを挟んでの厳しいリーグ戦に備えたい。