準備してきた新システムは不発。修正して盛り返すも「負けなくてよかった」開幕戦
「もったいない失点ではあったが、試合展開的に負けなくてよかった」と、指揮官は試合後に胸を撫で下ろした。プレシーズンから準備してきた新戦術が機能せず、従来のやり方に戻して修正し、辛くも勝点1をつかんだ開幕戦。J1で迎えた3年目、“昇格組”から追われる立場になったことを、あらためて感じた一戦だった。
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徳島のポジショナルプレーの前に可変システム機能せず
大分は3-4-2-1を基本形に、守備時には左WBの高畑奎汰が最終ラインに落ちるかたちで全体がスライドし4-4-2となる可変システムでスタート。4枚のブロックでスペースを消しながらボールを奪い攻め返す狙いだったが、大分の2トップがかけるプレッシャーに対し、徳島は岩尾憲が中心となって上手くそれを回避しながら、ラインを下げることなくビルドアップ。前線の垣田裕暉にボールを収め周囲が距離感よく動くことで、逆に大分はダブルボランチが押し下げられ、距離感が悪くなった。ボールを奪ってもその位置が低く、切り替えの早い徳島の守備の圧を受けて、攻撃が成立しない。結果的に攻撃の時間帯がほとんどなく、外から見ていると、キックオフ直後以外はずっと4-4-2の陣形で戦っているように見えていた。
徳島は昨季J2での試合でも見られたように、4-2-3-1を基本形に、攻撃時は右SBの岸本武流がWBのような位置まで上がり3バック状態となる戦い方。右が上がると決められていたわけではなく、左SBの吹ヶ徳喜が上がれば岸本がスライドして3バックの右になる規律だったようだが、実際のピッチでは岸本が上がるチャンスが多く、特に前半は上がりっぱなしのようになっていた。
新たなトライに大分が迷いながらプレーしているように見えるのとは裏腹に、昨季までの戦い方を踏襲している徳島は迷いなく数的優位を作りながら試合を進めていた。一方的な展開となったことで、大分は飲水タイムを境に、昨季までやっていた守備方法へと変更。5-4-1のブロックで徳島の攻撃に対応したが、情勢はあまり変わらなかった。
それでも好守や相手の精度不足でしのいでいたのだが、37分にミスから失点。岩尾の浮き球パスに抜け出した岸本に対応しようと飛び出した高木駿と飛び込んだ高畑奎汰が味方同士で接触し、ボールをゴール前へとこぼしてしまう。無人のゴールへと岸本に落ち着いて沈められ、先制点を奪われた。
守備の修正から同点弾は新太のJ1初ゴール
ハーフタイムに守備を修正し、モチベーションを高めさせて臨んだ後半。前半終了間際に左膝を痛めた野村直輝に代わって町田也真人が右シャドーに入り、渡邉新太が左へと移った。
長谷川雄志が岩尾を押さえにいくなど、プレスの掛け方を整理した後半立ち上がりは大分のペース。立て続けにセットプレーの好機も迎え、スタジアムの雰囲気も回復する。54分には左サイドで渡邉が粘り、髙澤優也がシュートを放つが、上福元直人の好セーブに阻まれた。試合の流れを引き戻そうと徳島も修正を図り、吹ヶを川上エドオジョン智慧に交代するが、徳島の守備陣は右サイドで攻守に巧妙に立ち回る町田に手を焼いた。56分、攻め上がった小出悠太のクロスは相手に当たったが、そのディフレクションを町田がボレーシュート。枠の上に逸れたが、俄然、勢いが出てきた。
そんないい流れの中、59分に同点弾が生まれる。坂圭祐が広い視野で捉えて出した得意のロングフィードに自慢の爆速で抜け出した井上健太がマイナスのパス。細やかな動きで巧みに相手をかわしてそれを受けた町田が放ったシュートは相手にブロックされ、そのこぼれ球を拾った渡邉が左足を振り抜いてゴールネットを揺らした。渡邉にとってはJ1初得点。4分にも上福元からボールを奪ってネットを揺らしながらファウル判定でノーゴールとなっていたが、苦しい展開の中でも心折れることなく攻守に戦い続けていたゴールゲッターが、この場面ではしっかりと報われた。
カードを切りながら終盤は難しい駆け引きとなる
大分が修正したことで変わった流れをもう一度引き寄せたい徳島だが、75分に空中戦に臨んだ石井秀典が頭からピッチに落下するアクシデント。試合が中断していた間に、片野坂知宏監督は高畑を松本怜へ、髙澤を伊佐耕平へと二枚替えした。その後、石井は脳震盪の疑いにより安部崇士と交代して、担架に乗せられピッチを後にする。試合後の岸本の話によると、交代間際には岸本に「あとは頼むぞ」と声をかけたとのことで、無事であることを願うばかり。
戦術を十分に理解している松本と伊佐がピッチに入ったことにより、大分の流れは続く。81分には徳島が、垣田を河田篤秀に、藤原志龍を渡井理己にチェンジ。互いにチャンスを作りながら決めきれず、一進一退の攻防が続いた。
試合展開的に、またホームとアウェイそれぞれの立場で、勝点1を守るのか、リスクを冒してでも勝点3を取りにいくのかの判断が、難しい状況だった。片野坂監督は90分、渡邉に代えて刀根亮輔を投入。刀根を右CBに入れ小出を一列上げることで、徳島のセットプレーのチャンスが続く中で高さを加え、攻撃参加とクロスに長けた小出の位置を高めた。
攻撃的スタイルを貫く徳島も攻勢を緩めず、大分を押し込みにかかる。アディショナルタイムは6分。ピッチ脇ではパワープレーに向けて長沢駿が準備していたが、ボールがなかなか切れずピッチに入れない。ようやく井上との交代が認められ、長沢がピッチに入った直後に、長いホイッスルが1-1のドロー決着を告げた。
J1で3年目のチャレンジャーはどうあるべきか
自分たちのスタイルを迷いなく貫き、昇格してきた勢いを感じさせる徳島の戦いぶりは、2年前の開幕戦、アウェイで鹿島を下した大分の姿とダブって見えた。ダニエル・ポヤトス新監督が新型コロナウイルス禍の影響でいまだ来日できていない中、指揮を執る古株・甲本偉嗣ヘッドコーチの下、選手たちが伸びやかにプレーしていた。
大分は片野坂監督体制でのJ1の3シーズン目。特徴的なスタイルは対戦相手に研究され、新たな進化を迫られる中で、主力の大幅な入れ替わりも起きた。4チームがJ2降格するシーズンに厳しい試練を課せられたかたちだが、この試合に出場した坂、渡邉、井上の新戦力3人が、それぞれのストロングポイントを生かして同点弾に絡んだ。また、苦しい時間帯にも小出や三竿雄斗が前線まで駆け上がる場面もあり、新戦力との融合や戦術浸透が進めば、ぐっとよくなりそうな可能性も垣間見えたと言える。シーズンが進み他チームの戦い方が見えてくれば、スカウティングによる準備の精度も上がるはずだ。
ただ、スピーディーに進んでいく過密日程で、悠長に構える余裕はない。J1での3年目においては、“チャレンジャー”という言葉の意味合いも変わってくる。