ミラーゲームという“奇襲”。立ち上がりの失点でつまずいた痛恨の黒星
難しい状況での試合に、奇襲を仕掛けられた。準備期間を十分に確保できずにシーズンを迎えた今季、チームの成熟度は例年ほどには高まっていなかったのか。
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難しい要素満載で迎えた最下位との一戦
試合前日、仙台のトップチーム選手1名にコロナ陽性判定という一報に衝撃が走った。個人名は発表されなかったが、仙台は試合前日のトレーニングを自粛。午後の遅い時刻になり、濃厚接触者がいないと認められたため、試合は予定どおり開催されることになった。
基本的には開催の方向で準備していたというが、全く動揺するなというのも難しい。そういうセンシティブな状況下での一戦となった。もとより次節H札幌戦との間に第27節A柏戦を無理矢理詰め込んだ日程だ。ラスト5連戦の初戦に、いきなり心身の調整面での負荷がかかった。
この1週間で対仙台戦術は落とし込んでいたが、試合2時間前のメンバー発表が2度目の衝撃だった。「ミラーゲームで来るかもしれない」。ここ数試合、4-3-3システムで調子を上げている仙台に対し、準備したのはそのフォーメーションを前提とした戦術だった。ただ、仙台のメンバー編成は3バックも4バックも可能。片野坂知宏監督は急遽、相手の形を見極める必要性と、ミラーゲームになった際の攻守のポイントを選手たちに伝えた。
例年であれば、この時期に相手が突然変化してきても、もっとスムーズに対応できただろう。このチームの作り方は、目の前の試合に向けてのトレーニングと試合を繰り返し重ねながら経験値を積み、同時にフィジカルコンディションも上げて、シーズン終盤にかけ右肩上がりに完成度を高めていくというもの。ただ、今季は新型コロナウイルス禍の影響で連戦続きとなり、その試合から試合までのサイクルが十分に機能していない。トレーニングのルーティンも行えず、負傷やコンディションの問題で選手も頻繁に別メニュー調整となった。その中でも少しずつ積み上げはしたが、例年に比べれば練度は高まっていない。この状況で出来るかぎりの準備を施して、試合に臨んだ。
開始直後に失点し守備を固められる
試合開始後わずか18秒。相手の立ち位置を確かめる間もなく失点した。キックオフの流れから長沢駿が右へと展開し、蜂須賀孝治がクロス。ゴール前に入ってきたイサック・クエンカの頭上を越えてボールが流れたところへ、石原崇兆が走り込んできた。守備陣が入り乱れる中、石原が振り抜いた左足から放たれたシュートは、当たりこそ強くなかったが岩田智輝に当たってゴール右隅へと転がり込んだ。
蜂須賀が右サイドからクロスを入れてきたことであらためて確認すると、仙台のフォーメーションは3-4-2-1だった。蜂須賀が右WB、石原は左WB。木山隆之監督はJ2のチームを率いていた頃から、3-4-2-1での戦い方を熟知している。対大分戦術の狙いとして攻撃では裏抜け、守備では引っ張り出されることなく中を固め外へと追い出すよう指示を出して、この1週間、準備していた。
早々にリードを奪った仙台は5-2-3でスペースを消し、守りの態勢を整える。そこからカウンターでどれだけ出ていけるかがポイントだったと木山監督は試合後に明かしたが、ビハインドになった大分がほとんどボールを握り、仙台のブロックを攻略する構図になった。
大分は特に右サイドが細やかな動きを見せた。岩田と松本怜が互いに追い越しながらスルーパス。そこに町田也真人も絡む。野村直輝もアグレッシブにボールに絡み、知念慶はシマオ・マテの厳しいマークを剥がしながらシュートチャンスを窺った。
だが、サイドを破ってクロスまでは行けても、動かない仙台の壁にことごとく跳ね返されたりキャッチされたりする。前半だけで6本のCKを得たが、それもすべてクリアされた。パスの出しどころに悩んだところをカットされてカウンターを受け、ファウルで止める場面も散見された。
前後半計10本のCKも実らず、逆に追加点献上
片野坂監督はハーフタイムを境に島川俊郎を小林裕紀にチェンジ。状況打開のカギを探ったが、後半立ち上がりに立て続けにチャンスを作ったのは仙台だった。50分、山田寛人のクロスに長沢が頭で合わせ枠の右。52分には蜂須賀がドリブルで持ち上がりシュートを放った。
大分は65分、知念と町田を伊佐耕平と髙澤優也に代える。伊佐が頂点に入り、髙澤が左、野村が右のシャドーに並んだ。同時に仙台はイサック・クエンカを関口訓充に交代する。
71分には長谷川がミドルシュートを放ちもしたが、それで得たCKも得点には結びつかない。73分には山田にシュートを打たれ、高木駿が好セーブでしのいだが、それで与えた左CKから追加点を奪われた。関口のキックに頭で合わせたのは山田。フリーで打たせ、弾道はクロスバーに当たってゴールに吸い込まれてしまう。
仙台は80分、松下佳貴を浜崎拓磨に交代し中盤の強度を保つ。追撃時間の少なくなった大分は82分、長谷川と高畑奎汰を交代。高畑を左CBに入れ三竿雄斗を左WBに上げるとともに、アンカー小林裕紀の前に田中達也と野村を並べ、前線は伊佐と髙澤の2トップへと変更。左サイドの攻撃色を強め、前線の強度を高めた。
だが、要所をがっちりと固める仙台は期待値の高いクロスを許してくれない。85分には相手のクリアボールを拾った伊佐がすかさずシュートに持ち込むが、エリア内でシマオ・マテの手に当たったように見えた場面もハンド判定は下されず。
アディショナルタイムには石原と山田を飯尾龍太朗と西村拓真に交代する仙台に時間も使われ、試合は0-2のまま終了した。ほとんどの時間ボールを握っていたにもかかわらず、シュート数は相手の11本に対してわずか4本。CKはこちらが10本、相手が2本だった。
準備してきたことと異なる展開になったとしても、ピッチ内で臨機応変に対応していけるよう、本来ならばチームは成熟していくべきところ。組織的スタイルを標榜するチームほど、今季の過密日程はディスアドバンテージとなる。
中2日で第27節A柏戦。さらに中2日で第32節H札幌戦。無念さを引きずっている余裕はない。