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試合レポート

細やかな修正の応酬となった知将対決。0-2からの劇的逆転で5試合ぶり勝利

 

ハメられ押し込まれた前半に2失点。立ち位置を修正すれば相手もまた変化してくる繰り返しの中で次第に盛り返し、最後は猛追して追いつき、追い越した。

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横浜FCに完全にハメられた苦しい前半

キックオフ直前にぐっと気温の下がったニッパ球。この日の大分ゴール裏はコンパクトな陣形を成し、よくオーガナイズされた手拍子で、試合開始前からチームを鼓舞した。
 
そんな応援に励まされてのゲームは、しかし、相手の策にハメられたかたちでスタートした。横浜FCは前節の湘南戦に続き、今節も4-3-3システム。湘南と同じ3バックの大分に対し、立ち位置でビルドアップを阻んだ。大分が数的優位を作るために立ち位置を変えると、今度はそれによって空いたスペースを突いてくる。横浜FCが位置取りで主導権を握り、それに合わせる格好になった大分は、準備してきた攻撃の狙いを出すことが出来ない。守備も前から奪いにいけば背後へと大きく蹴られてしまい、WBが戻ってケアせざるを得ない。
 
横浜FCの攻撃を守備陣の粘りでしのぎながら、時折攻め返してクロスを入れるのだが精度不足。圧倒的に相手ペースで進んでいた29分、先制点を奪われた。手塚康平の少しタイミングをずらして蹴った弓なりのFK。壁をわずかに越えたあたりで田代真一が脚を出し、飛び出してきた高木駿を抜いてゴールへと押し込んだ。15分にも似たような位置で同様のFKがあり、最後は小林友希が触って枠の上に逸れている。同じやり方でやられてしまった。
 
32分には2失点目。瀬古樹のクロスに走り込んできた齋藤功佑に、ヘディングでネットを揺らされる。中央で張っていた瀬沼優司に気を取られた一瞬の隙だった。

 

CKからの島川の1点目がチームに力を与えた

自陣では中を固める横浜FCに対し、サイドを起点とした速い攻撃で攻略しようとチームが試行錯誤するあいだ、片野坂知宏監督もベンチに戻ってコーチ陣と修正の相談。ピッチでは古巣戦の野村直輝の奮闘を軸に左サイドが活性化し、立て続けにCKのチャンスを得ていた。44分、野村の2本目の左CK。狭い間隙に入り込み速いボールに合わせた島川俊郎のヘディングシュートが、六反勇治の手とクロスバーの間をすり抜けてゴールへと吸い込まれた。セットプレーからの得点は今季2点目だ。前半アディショナルタイムが尽きるギリギリまで大分の時間帯。サイドから崩してのクロスやCKのチャンスが続いた。
 
最後まで上手くいかずに進んだ前半も、終了間際に1点を返したことで、ハーフタイムのミーティングにはいい雰囲気がもたらされたはずだ。「シマくんが1点目を決めてから、チームの勢いというかパワーが蘇ってきた」と、田中達也は試合後に振り返った。
 
どう修正してくるかが待たれた後半。片野坂監督は星雄次に代えて髙澤優也。田中を左WBに移し、髙澤は右シャドーに入る。動きを見ていると守備時には髙澤が2列目に入り最前線は伊佐耕平と野村が並ぶ4-4-2のブロックを形成し、攻撃時には野村が組み立てに動いて髙澤が2トップ状態で伊佐と並んでいた。常日頃から「左サイドには左利きを置くのが好き」と話している指揮官の意図を試合後に訊ねると、左サイドで機能している野村を動かしたくなかったのと、髙澤の左からのクロスへの入り及びボックス周辺でのカットインを狙ったということだった。
 
47分には早速、野村のクロスを髙澤が落とし長谷川雄志のシュートシーンが生まれる。横浜FCのサイドがスライドしながら低い位置を取るようになったことで、大分の選手たちが積極的なポジショニングを取れるようになり、サイド攻撃が勢いを帯びた。岩田がたびたび前線へと顔を出すようになる。前半の苦しい時間帯から激しい守備や個での突破を何度も試みていた野村のプレーも、徐々に組織の中で実を結びはじめた。
 
今度は後方でポゼッションする横浜FCに対し、大分がアグレッシブにプレッシャーをかけにいく構図。攻められても球際で潰して攻め返す中で、田中が左サイドを突破する場面も作った。60分には三竿雄斗がエンドラインぎりぎりにまで駆け上がり、落としたところへ島川がシュート。枠は外れたが、手応えを感じる攻撃が増える。

 

猛追の勢いをもたらした知念のシュートラッシュ

66分には岩田の縦パスを髙澤がフリックして受けた野村が右に展開し、小出悠太のクロスを野村がスルーして髙澤が詰めるというダイナミックな崩しの場面も。利き足に持ち変える一瞬でコースを切られシュートは打てなかったが、田中がCKを獲得するところまでは攻めきった。そのCKの流れから最後は小出がバイシクルシュートを狙いもして、大分の攻勢が続く。流れの中で自ずと髙澤が最前線近くに位置取る時間帯も増えてきた。
 
飲水タイム明けの69分、今度は下平隆宏監督が動いた。瀬沼に代えて一美和成、齋藤功佑に代えて志知孝明。この交代により横浜FCのシステムは3-4-2-1に。瀬古が右WB、志知が左WB。一美を頂点に斉藤光毅と中山克広がシャドーに並び、ミラー状態で合わせてきた。72分、サイドを突破しようとした田中がマッチアップした瀬古に倒されてFKを獲得。野村の地を這うようなキックはクリアされたが、そのこぼれ球を髙澤が落とし、岩田が低く鋭いミドルシュート。これは六反に阻まれた。
 
74分には片野坂監督。伊佐を知念慶に、小出を高山薫にチェンジする。ポジションはそのまま。77分には早速、田中の速いクロスに知念が頭で合わせた。指揮官は続いて78分、島川に代えて羽田健人。79分には岩田のアーリークロスに知念。80分には下平監督が中山に代えて草野侑己。片野坂監督は82分、長谷川に代えて町田也真人。町田はボランチに入り、積極的に崩しに絡む。大分はシンプルなタッチでダイナミックにボールを動かす攻撃を繰り出して1点を追った。
 
そしてついに88分、同点に追いつく。左サイドから知念を狙ったクロスはクリアされたが、こぼれ球をつないで町田が入れた縦パスを収めた知念は、腰をひねって強引にシュート。反応した六反をすり抜けて、ボールはゴールへと転がり込んだ。

 

田中、今季8得点目の劇的決勝弾

自分の役割はこれだと言わんばかりにゴールを狙いまくる知念の気迫が、チーム全体に追撃の勢いをもたらしていたようだった。89分には中盤からハイスピードでボールを運んだ町田がそのスピードに乗ったまま髙澤へと縦パス。髙澤のシュートは惜しくも枠の左に外れたが、もう1点というムードはさらに高まる。
 
アディショナルタイムは4分。90+1分には知念の強烈なシュートを袴田裕太郎が頭でクリア。下平監督は斉藤光毅を杉本竜士に代えて戦況回復を図るが、ボールを回収できず大分に攻められる一方。90+2分には攻め込んだ野村が相手に囲まれた中からヒールで浮き球パスを送り、受けた知念が持ち込んで左足を振り抜いた。それがクリアされて得た野村の左CKからはじまり、劇的な結末が訪れる。六反に掻き出されたボールを拾った岩田が大きくファーへと送ったところで待ち構えていたのは田中。頭を振って放った弾道は、六反の手をかすめてゴールネットを揺らした。
 
ベンチもスタンドも喜びの爆発を抑えきれなかった。最後は知念がコーナーでキープして時間を消費し、長いホイッスル。相手の対策に遭い2点を先行される苦しい展開からの、あきらめずに修正を重ねての逆転劇だった。
 
10月10日には0-4で横浜FMに屈したニッパ球。相性の悪い印象もこれで払拭できた。知念が知念らしくゴールを奪ったことも収穫だ。3試合ぶりの得点で5試合ぶりの白星。3得点は9月16日の第24節・FC東京戦以来だった。
 
そして、両知将による采配の駆け引きも、実に見応えのある好ゲーム。完全にハメられた前半から粘り強く立て直し、選手たちがそれぞれの特長を生かしてもぎ取った勝点3だった。