焦りと疲労から損なった一体感。激しい雨の中、屈辱的な4失点
前半は集中した戦いぶりで、押される時間帯もありながら0-0で折り返した。だが、後半に崩れ4失点。追撃のためバランスを崩さざるを得なくなり、傷口が広がった。どこが分岐点となったのか。
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立ち位置の駆け引きで前半は好ゲーム
上陸を懸念された台風14号の軌道は南に逸れたが、ピッチはたっぷりと雨を含み、試合途中にも激しい雨粒が選手たちを叩いた。その雨にも、失点後の精神面を乱されたか。チームは後半、4つの失点を重ね敗れた。
ACLやルヴァンカップを含め22連戦中の横浜FMは、その17戦目となるこの試合に選手を入れ替えて臨んだ。マルコス・ジュニオールや前田大然はメンバーを外れ、チアゴ・マルチンスやエリキ、エジガル・ジュニオ、扇原貴宏らがベンチに控える陣容。スタートのフォーメーションは4-3-2-1だが、アンカーの喜田拓也が状況に応じて最終ラインに落ち3バック状態になったりするなど、フレキシブルな立ち位置を取りながら戦うスタイルは貫いている。
大分もそうだが、横浜FMもその特徴が明確なため、対策を取られやすい。戦力のチョイスや選手の判断によって変化をつけながら戦う中で、片野坂知宏監督以下大分のコーチングスタッフも毎回、緻密なスカウティングをもとにプランを立て、ときに見事な“横浜FM封じ”を披露してきた。昨季J1第4節はトリプルボランチで相手と枚数を合わせてその攻撃を抑えつつ、サイドを起点にして2-0で勝利。今季J1第10節の対戦では横浜FMの両WGが絞ってきたことでサイドを有効に使い、相手のハイラインの背後を突いて1-0で勝ち星を挙げている。ただ、昨季J1第18節のアウェイでは、個の力量差を見せつけられたかたちで敗れていた。
国内外のタレントを並べる横浜FMに対しては、今節も「失点は覚悟していた」という片野坂監督。失点したとしても、そこから挽回するプランは複数用意していた。前半は互いに立ち位置による駆け引きの応酬で、にらみ合う展開。ただ、C大阪とのそういう試合で陥りがちな膠着状態とは異なり、集中したやり取りの中でも一瞬のミスマッチを突いて攻め合う意思が見え、緊迫した好ゲームが繰り広げられた。
松原健の恩返し弾に均衡を破られる
WBが狙いのポジションを取ることで横浜FMのサイドに主導権を渡さず、そのストロングポイントはケアできていたと思う。横浜FMがポゼッション率を高めると次第に押される時間帯も増えたが、細やかに攻守が切り替わる中、奪った瞬間にカウンターで相手のハイラインの背後を突けそうな状況も作れていた。だが、その芽はことごとく、素早く帰陣する横浜FMに摘まれてしまう。ゴール付近までは迫れたとしても球際で潰されてシュートに至れないまま、スピードと精度の不足で相手を超えることが出来なかった。
均衡が破れたのは、交代なくスタートした後半まもなくの、押し込まれていた時間帯。オナイウ阿道のシュートで得た横浜FMの左CKの流れから、まずは和田拓也のシュートをブロックし、天野純のクロスを跳ね返して、さらにティーラトンのクロスもクリアしたのだが、そのこぼれ球に反応したのが密集の外にいた松原健。ワンバウンドしたボールを目の覚めるような左足ボレーでゴールへと突き刺すと、55分、先制点を奪った。第19節・柏戦で戸嶋祥郎と接触し互いに負傷して以来の復帰戦。いろいろな思いの込もったシュートが恩返し弾となって大分ゴールを陥れた。
片野坂監督は60分、町田也真人に代えて知念慶。知念を頂点に置き、髙澤優也を左シャドー、野村直輝を右シャドーへと移した。だが、反撃に出たい矢先の65分、田中達也から島川俊郎へのバックパスを、大分のビルドアップにしつこくアプローチしていたオナイウがカット。それを託されたジュニオール・サントスが右足を振り抜いて追加点を奪う。ゴール前でのボールロストにポジションを取り直す暇もなくやられてしまった。
途中投入されるタレントたちに心乱されたか
リードを広げたアンジェ・ポステコグルー監督は2点目の直後に、松田詠太郎とオナイウを水沼宏太とエリキにチェンジ。さらなる勢いで大分を攻め立てた。大分の選手たちは精神的に追い込まれたように焦りの色を見せはじめる。片野坂監督は71分、野村と星雄次をベンチに下げ、三平和司と松本怜を送り込んだ。松本が右WBに入り田中が左WBに移る。岩田とのコンビネーションに定評がある松本と連係での崩しに長けた三平に期待を込めたが、75分には3失点目。ジュニオール・サントスに縦パスを収められ、水沼を経由してエリキに決められる。球際への寄せも緩く、いとも簡単に奪われてしまった。
横浜FMは76分にジュニオール・サントスと天野をエジガル・ジュニオと扇原貴宏にチェンジ。83分にはティーラトンに代えて来季加入が決定している筑波大の角田涼太朗を投入する。角田はこれがJデビュー戦となった。なんとか反撃の糸口を掴みたい大分は84分、髙澤と長谷川雄志を刀根亮輔と羽田健人に交代。刀根がCBに入って三竿雄斗と岩田がSB、羽田と島川のダブルボランチに田中と松本のSH、トップに知念と三平の4-4-2へと変更した。だが、87分には4失点目。左サイドからのリスタートをつながれ、またもエリキに持ち込まれてシュートを打たれた。
片野坂監督の最も嫌う大味な展開での敗戦。疲労と焦りから攻守両面で組織がバラバラになり、追撃態勢も実らず。前半もシュート数は1本と少なかった中で相手にもやらせなかったが、後半は失点を重ねて前がかりにならざるを得ず、攻めに出ながら2本しか打てなかったことは残念だった。
指揮官は「選手の焦りが出て、点を取りたい意識が強くなりすぎ、少しバラバラな攻撃になってしまった」と厳しい表情。1点差のうちに粘れれば挽回できる可能性もあった。ポステコグルー監督が容赦なく送り込んでくるタレントたちの個々の力量は確かに脅威だったが、こちらもある程度ボール保持からの攻撃が成立すれば、ここまで大差のスコアになることはなかったはずだ。大分の個は組織の中で輝く力なので、単発で攻めてもグループに還元されなければ結実はしづらい。
すぐに中3日で次節がやってくる。アウェイ連戦で乗り込む神戸では、大分らしい組織的スタイルを貫きたい。