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試合レポート

ミラーゲームを制し、前回対戦時からの立て直しを証明するような勝利

 

上手く攻撃を繰り出せず、あっさりとセットプレーから4失点して敗れたアウェイでの前回対戦。そこからチームが立て直し成長を遂げたことを証明するような、ホームでの勝利だった。

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清水はミラーゲームを仕掛けてきた

激しい雷雨の記憶とともに残っていた、第7節アウェイでの敗戦の悔しさ。開幕から5敗1分で最下位に沈んでいた相手に、2-4で初勝利を献上した。振り返れば合計15失点を喫した5連敗の3戦目。当時のチームは混迷の中、足掻いていた。
 
そこから立て直して迎えた第20節。一方の清水はいまだに浮上できず苦しんでおり、前回対戦で勝利した大分へのダブルを期して昭和電工ドーム大分へと乗り込んできた。試合前に片野坂知宏監督が懸念していたとおり、ピーター・クラモフスキー監督は大分戦に向けてシステムを変更。外国籍選手5人を先発に並べ、3-4-2-1でミラーゲームを仕掛けてきた。激しい球際とハードワークを武器に、それぞれの局面で上回って大分を封じる狙いだったようだ。
 
早い時間帯の失点が続く清水としては、無失点の状態を出来るだけ長く保ちたいと考えていた。アグレッシブに潰しにいくという意思がファウルへとつながり、2分と7分、立て続けにイエローカードをもらうことになる。そしてその意気込みは、先制点へとつながる隙を大分に与えた。
 
16分、田中達也をマークしていた立田悠悟が空けたスペースへと岩田智輝がフィードを送ると、そこへ抜け出したのは小出悠太。マッチアップしていた西澤健太が追いすがり、ヘナト・アウグストも寄せたが、小出は右足でしっかりトラップして中を確かめると2人とGKの間を通るクロスを供給した。ヴァウドを引き連れながら走り込んだ髙澤優也がスライディングしながら押し込んで1点。ミラーゲームで対面の相手をしっかり潰すという清水の目論見が、完全に裏目に出る形となった。

 

外国籍選手3人の連係技に破られる

だが、26分には清水がスコアを振り出しに戻す。星雄次が執拗にかけるプレスから逃げながら中へと持ち込んだエウシーニョのクサビをカルリーニョス・ジュニオがフリックし、ジュニオール・ドゥトラが仕留める、助っ人3人が魅せた一瞬の連係技。止めに出たムン・キョンゴンの頭上をループして、シュートはゴールへと吸い込まれた。
 
早い時間で追いついた清水が勢いを取り戻すと、その後は互いにチャンスを築きあう緊迫した展開に。33分にはエウシーニョ、36分にはカルリーニョスにシュートを許したがいずれも枠外。39分には岩田が攻め上がり好機を演出したが河井陽介の好守に阻まれた。41分には星からの絶妙なクロスに田中が詰めるビッグチャンスも、西澤の戻りに遭い最後は大久保択生に潰される。
 
1-1のまま交代なく迎えた後半も、せめぎ合いは続いた。51分、抜け出した田中の折り返しからの髙澤のシュートは体勢が整わず力が乗らずにヘナト・アウグストにかき出される。55分には出しどころを探す小塚和季に後藤優介が寄せてボールを奪うと清水のターンとなり、後藤と外国籍選手たちがゴール前に迫ったが、大分は落ち着いて対応するとボールを奪い返した。

 

もどかしい決定機逸の数々の末に

先に動いたのは大分ベンチ。60分に小塚に代えて野村直輝を投入して攻撃に変化をつけた。63分には三竿雄斗のFKに島川俊郎と鈴木義宜が走り込んだがわずかに合わず。68分には小出のクロスから髙澤が左足で狙うがクロスバー。69分にも野村の展開に抜け出した田中のクロスを星がヘディングシュートしたが、大久保のファインセーブにかき出された。
 
69分、清水は河井を成岡輝瑠へとチェンジ。大分は72分に小出と長谷川雄志を町田也真人と羽田健人に交代した。町田は右シャドーに入り、田中が右WBに移る。
 
決定機を多く築きながらなかなか得点に結びつかないもどかしい展開。カウンターひとつで逆に相手に2点目を許す展開にもなりかねない流れだったが、集中した守備は相手に流れを渡さなかった。特に島川の的確な読みは出色で、何度となく清水の攻撃の芽を摘んだ。
 
ようやくネットが揺れたのは76分。町田の浮き球に抜け出した田中は、ゴール前に相手守備陣を引き連れている髙澤の後方にフリーで走り込む野村へとクロス。飛び込んだ野村のヘディングシュートはまたもクロスバーに阻まれたが、そのこぼれ球を田中が渾身で蹴り込んで勝ち越し点を奪った。
 
77分、清水は後藤に代えて金子翔太。その2分後に大分が星と髙澤を刀根亮輔と知念慶に交代。刀根はフレッシュな金子と対面する左CBに入り三竿が一列上がって、じわりと守備の強度を高める。追いつきたい清水は84分、ジュニオール ・ドゥトラを中村慶太へ、西澤を奥井諒への二枚替え。だが、4分のアディショナルタイムも追撃を図りながら、焦る清水は攻め切れない。ひとつのファウルに異議による警告も含め2枚のイエローカードを受けたりもして時間を浪費することになり、試合は2-1で終了した。前節に続く2連勝だ。

 

たとえば田中に見るチームの意識変革

片野坂監督は「もしかしたらミラーゲームになるかなという予測の中で、そうなったとしても、自分たちはずっと3-4-2-1でやっているので、とにかく相手を上回るためにどういうふうに戦わなくてはいけないかというところを合わせてやってくれた」と試合後に総括。「全般的に今日はわれわれが勝ちに値するゲームを出来た」と評価した。
 
前回対戦も今節もシャドーでスタートした田中が、前回は狙いを表現できず、今節は狙いどおり攻撃を牽引し結果を出したことが、リベンジの象徴のようでもあった。相手のシステムが前回は4-3-3、今回は3-4-2-1という違いはあれど、それぞれの狙いの中で前回は不発だった組織としての連動も、今回はしっかりと機能している。
 
試合後に田中が明かしたところによると、先制点は彼の機転から生まれていた。「西澤選手が最終ラインと並んで守備することに慣れていないように見えたので、僕が立田くんを連れて下りて(小出)悠太に裏を狙わせたほうが上手くいくのではないかと試合中に感じ取って、悠太と上手く前後の関係を変えた」という。
 
「いままでは自分が裏に抜けることしか考えていなかったが、悠太にスペースを与えるとかいったふうに、自分のプレーの幅が出てきた」と振り返る田中。シャドーで起用された第2節で2得点を挙げたあとは直線的な突破を読まれ対策されて結果を出せず、それでもクソ真面目な性格ゆえに「チームとしての狙いがあるので自分が勝手に違う判断をしてはいけない」と、指揮官から託されたタスクを愚直なまでに続けていた。そんな意識を変えたのは指揮官の言葉だ。「狙いばかりになるのではなく、それはあくまでも前提として、最初の狙いが相手に対策されたらボールを持った者が判断して思い切ってプレーしてほしい」。左右のシャドーとWBを行き来しながら田中自身も頭を整理して現在のブレイクを掴み取った。
 
上手くいかない時期も選手は指揮官の戦術を信じ、指揮官は選手の力を信じて、ともに苦しい時期を乗り越えた。いまチームはカタノサッカーと呼ばれるスタイルの中で戦力個々の特長を生かし、徐々にその完成度を上げつつある。