鮮やかな先制も追加点が奪えず逆転負け。組織の伸びしろはまだ残ったまま
躍動感あふれるプレーでチームスタイルを表現し、紙一重のチャンスを量産して好ゲームを繰り広げた。逆転負けという残念な結果にはなったが、このタフなシーズンの中では貪欲に、手応えと収穫を次につなげなくてはならない。
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大分らしさを引き出した三平が先制弾
8月最後の一戦は、ビッグクラブの本拠地で。森保一代表監督も視察に訪れた中、埼スタのスタンドには赤いサポーターたちが規則正しくソーシャルディスタンスを保って並び、通常とはまったく異なる異様な光景ではあったが、引き締まったいい雰囲気でキックオフを迎えた。
両チームともに積極的にプレッシャーをかけながら攻め合った試合の入り。直近3試合で本来の姿を取り戻した大分の3-4-2-1は、間もなく浦和の4-4-2に対し、いいポジショニングを確保しながら主導権を握って狙いどおりサイド攻撃に活路を見出す。
その形から9分、早速スコアが動いた。岩田智輝が最近得意としている大きく正確なサイドチェンジを受けたのは香川勇気。送ったクロスは橋岡大樹のヒールに当たったが、そのこぼれ球をニアに入っていた小塚和季が体をひねりながらファーへと走り込んできた三平和司へパス。三平はそれをダイレクトでゴールへと押し込む。三平は試合後に本当は香川のクロスに直接入るつもりだったと明かしたが、少し遅れながらも小塚の技ありパスを経てダイナミックで鮮やかな先制点へとつなげた。
だが、そこからはビハインドになった相手の圧が高まる。今季は組織的なスタイルを構築中の浦和だが、それまでは組織としてのつながりの強度は、一日の長のある大分のほうが高かった。それが大分の先制後はじわりと、個々の力量の高い浦和の攻撃の線が太くなる。レオナルドと興梠慎三が絡んで崩し、橋岡の攻撃参加もありながら何度かエリア内まで進入。大分は組織的守備でそれに対応したが、スペースを消していてもレオナルドは怖かった。
立て続けの失点で逆転を許す
17分には長谷川雄志が最後尾から超ロングな対角のクロス。香川が飛び込んで頭で一発を狙ったが惜しくも枠を捉えきれず。返す刀のようにその直後には左サイドを破られ、長澤和輝に角度のないところからシュートチャンスを許すが、鈴木義宜がブロックした。
浦和の時間帯をしのぎながらチャンスも作っていたが、相手ペースの中ではフィニッシュにまでたどり着かない。ようやく27分、香川の粘りから松本怜のクロスをニアで伊佐耕平が狙う状況が生まれたが、西川周作にキャッチされた。
辛抱強くスペースを消し続けていた28分、縦パスを受けたレオナルドに個人技で振り切られてシュートされるが、食い下がる鈴木とムン・キョンゴンが体を張って防ぐ。29分にもレオナルドのポストからの長澤のシュートをムンが弾き、そのこぼれ球を興梠がつないでレオナルドがシュート。これは三竿雄斗が体を入れた。
ブロックの中でワンタッチでつながれたり一瞬の隙に縦パスを通されたりしてレオナルドにボールが入ると一気にピンチに陥ってしまう。耐えていた守備が破られたのは30分。中で粘って外に展開し橋岡のクロスにレオナルドが頭で合わせる。ムンが懸命に伸ばした手よりも球威が勝り、ボールはゴールの内側へとこぼれ落ちた。
追いつかれた直後の33分、レオナルドがエリアの右手前で上手くファウルをもらうと、FKのキッカーは山中亮輔。J屈指の左足から放たれた弾道は速い弧を描いてゴールへ向かい、橋岡が頭でそらしてネットを揺らし逆転弾となる。立て続けの失点にヘッドダウンしそうな流れとなったが、連敗中とは違い、選手たちは踏みとどまって試合を折り返す。
町田、今後への期待が高まる復帰
後半頭から片野坂知宏監督は小塚に代えて町田也真人を投入した。第3節・広島戦の前半終わりに負傷交代して以来の復帰戦だ。ピッチに入るにあたり「守備について指示が出た」という町田。橋岡のケアがその主なタスクだったと思われる。
町田は上手く相手の間隙を縫いながら浦和の守備を翻弄。そこから香川に使われた三竿のクロスに三平が飛び込むが、ヘディングシュートは惜しくも枠の上に逸れた。
町田は浦和守備網をかき回し、町田自身も得点機創出や自らゴールを狙う動きを繰り返す。それは十分に効果的だったが、浦和もトーマス・デンが率いる守備陣がゴール前で集中を切らさない。55分には関根貴大にエリア内まで進入されるが、岩田がタックルしムンがゴールを守った。60分には町田のヘディングシュートも西川に危なげなく抑えられてしまう。60分には西川から興梠へ一発で通すロングフィード。クロスに飛び込んだレオナルドには長谷川が対応しつつ失点は逃れた。
どちらも攻撃の手を緩めることなく、だが次第に蓄積する疲労で緻密さが損なわれ、オープンになった中で大味な攻め手も増えてくる。そこからは采配合戦となった。
感じた浦和との“余裕”の差
先に動いたのは大槻毅監督。興梠に代えて杉本健勇を前線に送り込んだ。63分には片野坂監督が伊佐と三平を知念慶と渡大生に二枚替えし、細やかな攻めから力強さへとニュアンスを変化させる。さらに68分には疲労した香川に代えて田中達也を送り込み、スペースが出来はじめたところに単騎突破を促した。70分には浦和が長澤と関根を汰木康也と武藤雄樹にチェンジ。いつもは最前線に入る武藤は右SHに位置取った。
手持ちの駒の中では理にかなった交代も、今季加入の知念や渡のポテンシャルを存分に引き出すにはまだ共通理解を高める必要があると感じられる場面が散見された。狙いどおり田中の単騎突破も何度かあったが、突破してからの選択肢が乏しく連係がない。知念の体の強さや技術の高さ、渡の泥臭くても執着心むき出しのファイトが有機的に生かされ、トーマス・デンをゴール前から引き剥がす働きも出来ていた田中の突破からのバリエーションが増えれば、攻撃の多彩さはもっと広がるはずだ。
残り時間が少なくなるにつれ、浦和は守りきる態勢を取りはじめた。78分には競り合いで痛んでいたトーマス・デンを岩波拓也に、山中を岩武克弥に交代する。岩武はいつもの右ではなく左SBにそのまま入った。80分には汰木のバックパスを受けた岩武の、古巣相手の強烈なシュートも飛び出す。
追撃したい大分だが、島川俊郎と長谷川が疲労している。ベンチに残っているフィールドプレーヤーは刀根亮輔と羽田健人のみ。片野坂監督は82分、島川を刀根に交代した。刀根は左CBに入り三竿が左WBへ、田中がシャドーへ、そして町田がボランチへとスライド。負傷によりボランチの控えを準備できない現状、この方法か、シンプルに島川と羽田を入れ替えるしかなかった。町田がゴールから離れたポジションに下がるのは少し心残りだったが、羽田よりも町田をボランチに置いたほうが、攻撃的な布陣にはなる。
ただ、やはりそれが現在の現実的なチーム状態だった。浦和が自陣を固めたこともあるが、交代前までの勢いは影を潜め、追撃は実らぬままタイムアップした。
片野坂監督は悔しさをにじませながら「言い訳になるので選手層のことはあまり言いたくない」と言ったが、武藤や岩武に異なるポジションを経験させながらリスクマネジメントしている浦和に比べると、どうしても余裕のなさを感じてしまう。
三平は「自分が決めていれば勝てた試合」と自身を責めたが、逆に三平でなくては作れなかった決定機の数々でもあった。
次は1週間後、また7連戦の皮切りとなるFC東京戦。一喜一憂せずに全員で辛抱強く積み重ねていくのが、このチームらしい戦い方だ。