圧倒しながら決定機を仕留めきれず、逆にわずかなチャンスをものにされ敗れる
どのような内容であれ決定力の差が勝敗を分ける。それを見せつけられたような一戦だった。明治安田J1第27節H磐田戦は、最後の最後に決勝弾を見舞われ、敗れた。
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新オプションも機能して試合を支配した前半
後半アディショナルタイムも終わろうとした時間帯に、明暗が分かれた。守備組織を崩され、松本昌也のクロスを山本康裕に頭で叩き込まれて、一度は追いついたスコアを再び突き放される。長いホイッスルの瞬間、選手たちは大きくうなだれた。
フベロ監督体制になってから公式戦4試合、いまだ白星のない磐田。就任して日の浅い新指揮官は試合の狙いごとに中盤から前の戦力を使い分けてきたが、この試合ではGKを今季リーグ戦全試合に出場しているカミンスキーから八田直樹にチェンジ。さらに、就任後全試合で先発起用してきたムサエフをメンバー外とし、ボランチは森谷賢太郎と上原力也のコンビでスタートした。前節、途中出場で負傷から戦線復帰した川又堅碁は第4節以来の先発だ。
大分は田中達也を初めてシャドーで起用。リーグ戦初先発の小林成豪と並べた。トレーニングで試していた形で、「スピードのある選手が欲しかったので」と片野坂知宏監督はその意図を説明した。
新体制初勝利を期す磐田は立ち上がりこそ攻守に勢いを見せたが、間もなく大分のきめ細やかな攻撃に主導権を明け渡す。特に右WBの松本怜は、タイミングよく供給するスルーパスで田中のスプリントを使い好機を演出。それが警戒されれば自らカットインし、相手を動かしてからのスルーパス。前節に続き岡野洵のクサビなどもあり、右サイドは華やかな攻撃を披露した。逆サイドではボールを持てば何をするかわかりづらい小林成豪が動き回り相手を翻弄。星雄次や三竿雄斗も絡んだ。中央では守備でも強さを発揮するダブルボランチが堅実に躍動。島川俊郎がサイドへと展開し、小林裕紀がクサビを打ち込む楽しい前半となった。
複数の決定機逸で流れをつかみ損ねる
磐田はそんな大分の攻撃に上手く対応できず、いかにも最下位に沈むチームらしい内容だった。だが、その時間帯に大分が外した決定機が、いくつあっただろう。10分、小林成豪が粘って落とした星のパスにオナイウ阿道が詰めるが、身を投げ出した藤田義明に紙一重で掻き出される。14分には島川のクサビをオナイウが落とし、拾った田中がカウンターで持ち上がりシュートするも枠の左に逸れた。その後も大分優勢の中、40分には田中のスルーパスに抜け出した松本怜がマイナスのクロスを送り、ゴール前で小林成豪が合わせたが、これも枠の上方へ。
決定機の数も試合の支配ぶりも完全に大分が上回っており、前半の磐田の決定機らしい決定機は27分、松本昌也のクロスに川又が頭で合わせたシュートのみ。
だが、この決定機逸がその後の展開を引き寄せてしまった。大分は後半頭からは田中と星が位置を入れ替わる。磐田は前半のように前線への長いボールで大分を押し込むのではなく、ポゼッション率を高めて攻めはじめた。それでもミスが目立ち、逆に大分にボールを奪われてゴールまで迫られると見ると、フベロ監督は56分、ボランチの一枚を森谷から今野泰幸へと交代した。経験豊富な今野が最終ラインに落ちて攻撃を組み立てるようになると、磐田の攻撃の質が向上。磐田の戦術変更に対し、片野坂監督も64分、星に代えて三平和司を投入した。同時に磐田は川又を藤川虎太朗にチェンジし、後半の攻撃方法を強化する。
そして66分、磐田に先制点を奪われた。藤田のフィードを左に流れて収めたルキアンがカットインしてヒールで落とし、そこへ走り込んできた山本が流し込む。これまで完璧なまでに磐田の強力な前線を抑えてきた鈴木義宜が、この場面だけルキアンに振り切られ、リーグ戦ではフベロ監督体制初得点を献上した。70分、磐田はルキアンに代えて秋山陽介。さらに流動的で細やかな攻撃へと軸足を移す。
いろいろなツケが回っての劇的終幕
最下位で喘ぎ、なんとしても勝点3の欲しい磐田は1点のリードを得て自陣ではスペースを消す。大分はボールを動かしながらブロックを攻略しにかかるが、ことごとくゴール前で跳ね返された。その中で、するするとドリブルで持ち上がった岡野のクロスに入っていった三平が、小川大貴に倒される幸運。三平自ら落ち着いてPKを決め、1-1に追いついた。不調のチームはこうして勝つべき試合の勝点を取りこぼす。磐田にとってはそんな見本のような展開になるかと思われた。
だが、ここにもうひとつの分岐点があった。同点になる前から準備していた二枚替えを、片野坂監督はそのまま敢行。勝点1を勝点3へと引き上げるべく、オナイウと岡野を下げ、伊藤涼太郎と島田慎太郎を投入してそれぞれ左右SH、松本怜と田中達也を両SB、小林成豪と三平を2トップに配置する[4-4-2]の攻撃的布陣へとチェンジした。
分厚い攻撃を仕掛ける大分だが、磐田もゴール前で跳ね返すと相手の背後を狙う。激しい攻防はアディショナルタイムにまでもつれ込み、劇的瞬間はその最終盤に訪れた。90+6分、PK献上した小川が自らのミスを取り返したい一心をあらわにサイドへと展開。抜け出した松本昌也のクロスに高い打点で合わせたのはまたも山本。ヘディングシュートはゴールへと吸い込まれ、それから間もなく試合終了のホイッスルが響いた。
8試合ぶり、そして新体制初勝利の磐田は自信を取り戻すきっかけをつかんだか。大分にとっては数多の決定機を逃し続けたツケが重くのしかかる結果となった。
指揮官はリスクを冒して勝点3を取りに行った自身の采配を悔やみ、攻撃陣は試合後、責任を感じたように肩を落とした。ただ、フィニッシャーの単純な精度不足による決定機逸とばかりも言えず、オナイウを潰し続けた藤田や、バランスを崩さずスライドし続けた磐田守備陣の対応に阻まれた場面も多い。もうひと工夫しなくては、堅守をこじ開けるのは難しいのかもしれない。
次節からは天皇杯も含め、敵地での戦いが続く。名古屋は指揮官交代後2戦目という難しい状況だ。J1残留という目標に向かい、チームは切り替えて準備にかかる。