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試合レポート

攻撃の狙いはなかなか出せなかったが、果敢な全員守備で勝点1ゲット

 

好調・広島のプレッシャーに遭って攻撃できず、攻守両面で相手の勢いにさらされた90分。だが、体を張った粘り強い守備で無失点に抑えたことで、敵地で貴重な勝点1をつかむことが出来た。

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広島の全域プレスに苦しめられる

 
広島は前節と同じメンバー、大分は前節から累積警告で出場停止のティティパンに代えて嶋田慎太郎が右シャドーに入った、3-4-2-1同士のミラーゲーム。嶋田は移籍後初先発となった。
 
立ち上がりこそボール保持にトライして素早く帰陣する広島への攻略姿勢を見せるが、攻守にポジショニングのいい広島に徐々に主導権を握られ、激しいハイプレスにさらされることになる。すべてのポジションで相手のプレッシャーを受け、ボールを収めることが出来ない大分は、相手WBの背後に抜け出す田中達也へと配球して好機構築を狙うが、サイドやゴール前で潰されたりプレー精度を欠いたりしてフィニッシュに到達できない。
 
オナイウ阿道が前線で孤立してボールを収めることができず攻撃の形を作れない大分とは対照的に、広島はドウグラス・ヴィエイラが鈴木義宜の激しい寄せを背負いながら上手く力を吸収しつつボールを収め、そこに2シャドーや両WB、ボランチが絡んで重層的に大分を押し込んだ。
 
29分には東俊希の右CKのこぼれ球を森島司がシュートするが、高木駿が好セーブ。31分には川辺駿のミドルシュートを浴び、これも高木が横っ跳びで掻き出した。43分には佐々木翔のクロスに東が頭で合わせたところを、高木がなんとか阻んでCKに逃れる。
 
少ないチャンスをなんとか仕留めたい大分は33分、田中からオナイウのポストプレーを経て嶋田が攻め上がり、自ら変則的なリズムを生み出してシュートするが枠の上。36分には小塚和季がFKで直接ゴールを狙うが、これも枠を捉えきれなかった。
 

ひとつのミスで均衡が崩れそうな緊迫した展開に

 
圧倒的に相手ペースで進む展開となったが、高木の獅子奮迅の働きにより前半を0-0で折り返したことはチームにとって大きかった。
 
後半も広島ペースではじまったが、49分、思わぬチャンスが訪れる。GK大迫敬介のパスをエリア内で小塚が拾い、絶好の得点機を迎えたが、荒木隼人の素早い対応に阻まれ、シュートを打つことはできなかった。
 
ひとつのミスで均衡が崩れそうな緊迫した空気の中、先に動いたのは城福浩監督。57分、東をベンチに下げて青山敏弘をボランチに入れ、川辺を一列上げた。大分は65分、疲労した小塚に代えて三平和司を投入。オナイウの孤立が気になっていたという三平は、早速その献身性と相手の間を縫うクレバーさを発揮してサポートに走り、前線の距離感を整えて好機を演出した。
 
66分には川辺のクロスからドウグラス・ヴィエイラにシュートを打たれるが、枠の上に逸れて命拾い。直後に広島は1トップをレアンドロ・ペレイラにチェンジした。
 
大分は73分、嶋田を星雄次に交代。今節もシャドーで出場した星は、このチームで長くプレーしているだけあって、周囲との連係を生み出していく。岩田智輝とともに柏好文への守備対応に追われがちだった松本怜も、連係して好機に絡めるようになってきた。
 

チームのポテンシャルにはまだ余地がある

 
78分、広島は疲労の見えるハイネルに代えてエミル・サロモンソンを投入して攻め続ける。だが、さすが堅守の広島、全域で強度の高い守備を維持しており、自陣に押し込まれた場面でも大分にシュートを打たせてくれない。だが、点が取れないことに焦ってバランスを崩せば、たちまちスピーディーで迫力あふれるカウンターの餌食になりそうだ。攻守のバランスに砕身しながら、片野坂知宏監督は86分、最後のカードで前田凌佑を長谷川雄志に交代した。
 
それでも広島の勢いは大分を凌駕し、90分にはレアンドロ・ペレイラが起点となって森島がシュート。体を張った高木がこれをブロックしたが、アディショナルタイムには青山のクロスに荒木が頭で合わせたところを高木が競れず、高く上がったボールは三平がクリア。そのこぼれ球をレアンドロ・ペレイラが拾おうとしたところへ高木が必死に体を入れてしのぐと、無失点のまま試合終了まで乗り切った。
 
攻撃回数は少なく、防戦の時間が長くなったが、全員で結束して守備意識を高め、勢いに乗っている広島との一戦をドローに持ち込んだことはポジティブに捉えることができる。勝点1を分け合ったが、広島にとっては「勝ちきれなかった」、大分にとっては「しのぎきった」という印象が残された。
 
相手が前から来ればその背後を狙おうと試合に入ったものの、相手の圧に押されると自陣でのつなぎに固執せずサイドの裏のスペースを狙い、後半には三平と星を入れて前線の連係を高め、最後は攻守のバランスを考えて長谷川を投入。ビルドアップ不全や無得点という課題はあるものの、戦況に応じての戦い方の選択と選手起用が噛み合って、好調な相手から勝点1を得ることが出来た。
 
転換期を迎えているチームは引き続き、攻撃の形を追求していかなくてはならない。三平は「ウチの良さでもある後方でのボール回しが、いまはよくないほうに出ているように思える。もっとチャレンジする姿勢を出してもいいのではないか」と話した。小林裕紀というボランチの選択肢を増やして攻撃の幅が広がろうとしている現在、前線にも小手川宏基や伊藤涼太郎らが控えており、このチームのポテンシャルはまだ十分には引き出されていない。残り10試合。J1残留に向けて、伸びしろを惜しみなく使いきりたい。