タスクは遂行できていた。それだけに、一発に沈んだことが悔しい
明治安田J1第23節H鹿島戦。ここ数試合でめきめきと調子を上げている強豪・鹿島に対し、チームは万全の準備を施して臨み、ほぼ抑えていたが、こちらも得点できないうちにワンプレーで沈められた。王者はやはりしたたかだった。
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序盤から我慢比べの展開に
3連戦の3戦目。大分は、13日に名古屋から完全移籍加入した小林裕紀がいきなりの先発。前節に続き、嶋田慎太郎もベンチに控えた。鹿島は出場停止のクォン・スンテに代わり曽ヶ端準がゴールを守る。こちらも前節から小泉慶がスタメン、ベンチには相馬勇紀と上田綺世。新戦力が顔を並べた。
ここ数試合で調子を上げている強豪・鹿島との対戦に際し、チームは連戦中の短い期間ながら、万全の準備を施していたように見えた。4-4-2の相手に対しギャップにポジションを取る大分が立ち上がりから距離感よくボールを握ると、4分には岩田智輝の浮き球パスに抜け出したティティパンがクロス。飛び込んだオナイウ阿道はわkずかに合わず、その後ろで小塚和季は相手に倒されたに見えたがホイッスルはなし。さらに田中達也も詰めていたが紙一重で相手に掻き出された。
まもなく鹿島はハイプレスを収めブロックを固める。鹿島としてもプレスを剥がされるのを警戒して我慢の態勢に入ったという感じだった。アウェイでの鹿島らしい戦い方だ。これに対しても大分は、さまざまな策を準備していたように見えた。自分たちが動くことで相手を動かしてスペースを作ろうと試みる。たとえば高い位置を取った松本怜がボールを受けに下り、ティティパンもそれについていくことで相手をつり出す。そういった組織的な動きが、随所に見て取れた。だが、自陣を固める鹿島は大分の攻撃をことごとく潰し続ける。一方で、鹿島もボールを持てば攻撃を繰り出すが、22分、フィードに抜け出した土居 聖真のクロスは味方に合わず、36分、こぼれ球を拾った伊藤翔のブレ球気味のシュートはわずかに枠の右に逸れた。
ワンプレーの個人技で沈められる
膠着した試合は0-0で折り返し、我慢比べの様相を呈していた。どこで勝負をかけるのかと息を飲んで見守っていると、両ベンチは同時に動いた。59分、大分がティティパンを嶋田に代えると、鹿島は伊藤翔を相馬に交代。セルジーニョをトップに上げ、相馬を右SHに配置した。さらに鹿島は66分、名古新太郎をレオ・シルバにチェンジする。
大分としては、出来るだけ長い時間、無失点で試合を進めたかったはずだ。だが、71分、鹿島が先制した。左SB小池裕太からの大きなサイドチェンジをぴたりと相馬が足元に収める。その正確無比な様子には思わず感服したが、そんな場合ではなかった。スペースで受けた相馬は自らドリブルで持ち込み、カットインして左足シュートしネットを揺らす。名古屋在籍時には左SHからカットインして右足で狙うイメージが強かったが、鹿島移籍後の初ゴールで左足での見事なシュートを披露した。
均衡が崩れたため、さらにリスクを負って攻めなくてはならなくなった。その後も相馬が躍動して鹿島の時間帯が続くと、77分、片野坂知宏監督は前田凌佑を長谷川雄志に、小塚を三平和司に二枚替え。さらに、システムを4-4-2に変更してオナイウと三平の2トップにすることで攻守両面での状況変化を狙う。
81分には嶋田のドリブルから田中が折り返し、オナイウが落として三平がバイシクルシュートを放つが枠の上。84分のオナイウの反転シュートも曽ヶ端に押さえられた。アディショナルタイムまであきらめずにボールを動かしたが、鹿島の牙城は堅く、1点は遠かった。
変革期を迎え、これをどう乗り越えるか
守備では相手の連係を阻むことも出来ており、高木駿のビッグセーブに助けられた場面もありながら、失点シーン以外はほぼ抑えることが出来ていた。攻撃ではブロックを構える相手に手を焼いたが、これまでのそういう相手に対してよりもさらに動きのバリエーションを増やしており、組織的に動けていた。
それだけに、チャンスで仕留めきれず、たったひとつの相馬の個人技に沈められたことが悔しい敗戦だった。準備してきたことをほぼ遂行しながら相手の個人技に上回られてしまうのでは、もうお手上げなのではないかと不安にもなるが、いまチームが迎えている変革期をどう乗り越えていくか次第で、また新たな強みを持たせることは出来るはずだ。
シーズン序盤から8得点を挙げ前半の“貯金”に貢献した藤本憲明の流出は、藤本自身へのマークが厳しくなり得点できなくなってからも献身的な動きで相手を崩すことに貢献していたことを考えると非常に痛いが、入れ替わりに嶋田と小林裕が加入し、早速戦力として起用されていることに、今後の可能性を見出したい。
特に小林裕は試合後、「合流4日目なのにそつなくプレーしていましたね」という貴社の質問に対し「逆に言えばそつなくしか出来なかった」と答えており、ここからフィットが進めば中盤に新たなオプションをもたらしてくれそうだ。
今節の敗戦をネガティブに受け止め、残留という目標を消極的なものと捉えれば、チャレンジする姿勢やチームとしての勢いが削がれてしまう。勢いだけでは勝てないが、勢いがなくても勝てない。無謀な攻撃は被カウンターを招くが、思い切ったチャレンジも必要だ。2日間のオフを経て、次節はまた堅守の広島との戦いに向けての準備がはじまる。