このサッカーを高めるためには勇気が必要。果敢なチャレンジが逆転勝利へと結びつく
今季2度目の師弟対決となった明治安田J1第19節H札幌戦。アグレッシブなプレッシングを武器とする札幌との戦いにおけるテーマは、ここ数試合で失われがちだった勇敢さの回復だった。
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勇敢さを取り戻すことを誓って臨んだ一戦
Jリーグに多大な影響をもたらした“ミシャ式”と、そこから派生した“カタノサッカー”。片野坂知宏監督は、師と仰ぐミハイロ・ペトロヴィッチ監督率いる札幌との今季公式戦2度目の対戦にあたり、自身のスタイルのさらなる追求を期した。第4節のアウェイでの対戦時に続き森保一代表監督も視察に訪れた中、かつて広島でスタートした“ミシャ式”を源流とする特徴的な攻撃サッカーが、エキサイティングに火花を散らした。
互いに可変システムのベースとなる[3-4-2-1]同士のミラーゲーム。前回対戦時には、札幌の激しいプレッシャーに押されて上手くビルドアップできず、特に後半は自陣へと押し込まれた。今節も札幌はハイプレスに来るはず。それを剥がして攻撃を組み立てていくのが、このスタイルのいちばんの醍醐味だ。そこを表現できてこそ、師への恩返しともなる。
ただ、ここ最近のチームは、やや自信を失っている様子だった。強度の高い相手を前にリスクを負うことから腰が引け、トレーニングで準備してきたことが十分に表現できない試合が続いていた。その及び腰な姿勢から脱却するためにも、球際激しく寄せてくる札幌との一戦は絶好の機会だった。
札幌はジェイがベンチスタート。1トップは鈴木武蔵で、シャドーには負傷から3試合ぶりに先発で復帰したチャナティップとアンデルソン・ロペスが並んだ。この前線のハイプレスを剥がしてビルドアップできなくては、自分たちのスタイルは表現できない。
大分は今節、今季初めて藤本憲明をベンチスタートとした。1トップにはオナイウ阿道。2シャドーには小塚和季と、今季初先発の小手川宏基。このポジショニングセンスに長けた2人の同時起用が物語るものが、試合展開の中で見えてきた。
変則的な立ち位置を取って流れを引き寄せた
立ち上がりは正攻法でスタート。相手のプレスをかわしながらボールを動かすが、次第にハメられたり、縦パスが通らずに攻め返されたりの繰り返しとなる。2分にはアンデルソン・ロペスがミドルシュート。枠の右に逸れて命拾いしたが、4分にもエリア内でシュートを許し、今度は守備陣が体を張ってブロックした。20分、チャナティップがドリブルで中に潜り、左WBの白井康介へとパス。白井は自ら持ち込んで右足でゴールを狙うが、これはポストに弾かれた。その安堵も束の間、そのこぼれ球が高木駿に当たってオウンゴールとなる。
だが、先制された3分後、大分は追いついた。左サイドから持ち出した松本怜が攻め上がっていた三竿雄斗に預けると、三竿はやわらかいクロスを供給。オナイウが相手の間でしなやかに跳躍して頭で合わせ、ゴール右隅を揺らした。
札幌の迫力に押され続ける中、徐々に大分の立ち位置に変化が見えたのは30分あたりからだっただろうか。攻撃時、ボランチの1枚が最終ラインに落ち、鈴木義宜が右にスライドして島川俊郎を押し出し、WBの星雄次がウイングのようにオナイウと並ぶ高さ。逆サイドでは三竿と松本が同様の位置を取り、中央でもう一枚のボランチと2シャドーがバランスを取るような形になっている。4枚でボールを回すことはこれまでもあったが、これほど両サイドが高い位置にスライドする“可変4バック”は、これまではなかったのではないか。
相手と駆け引きしながらこの立ち位置を取るようになってから、札幌のプレスがハマらなくなった。攻め上がってはクロスやフィードを供給していた左CBの福森晃斗も押し下げられる。33分には高木の縦パスを小手川、小塚がつなぎ島川が攻め上がってクロス。飛び込んだのは星だがわずかに届かない。38分にはセカンドボールを拾った小手川が星に預け、星のクロスに合わせて小手川がシュート。惜しくも枠のわずか左に逸れた。40分には辛抱強くボールを動かして相手陣内に攻め込み、小塚のクロスに島川がダイビングヘッド。これも枠を捉えきれなかった。
前半終了間際には札幌にもFKとクロスのチャンスが訪れるが、いずれも合わず、試合は1-1で折り返す。
最後までポゼッションし続けて勝ち切る
後半も攻め合う両者は、互いにスタンドを沸かす見せ場を何度も作った。53分には福森晃斗のクロスに白井が頭で合わせるが、高木と三竿が協力してクリアする。
大分は57分に小手川と星を藤本憲明と高山薫にチェンジ。藤本が頂点に入り、オナイウがシャドーに下りた。そのタイミングで札幌は、ポストに激突して足を痛めた深井一希を宮沢裕樹に交代する。さらに62分にはアンデルソン・ロペスに代えてジェイを入れ頂点に。鈴木武蔵が右シャドーに移った。67分には荒野拓馬に代えて駒井善成も送り込む。
68分にはチャナティップのドリブル突破からジェイのシュートが枠の右。札幌優勢に進む中、チャンスは突然にやってきた。キム・ミンテが白井の横パスをコントロールミスしたところで小塚が奪うとオナイウに落とす。右足一閃、オナイウのシュートはゴール左隅に突き刺さり、大分が逆転に成功した。
ビハインドになった札幌は追撃態勢を強めて大分を押し込むが、鈴木義宜のファインプレーをはじめとする集中した守備でしのぐ。アディショナルタイムに入る頃には札幌の選手たちに明らかに疲労が見え、大分がボールを保持しながら逃げ切って勝利。札幌からシーズントータル勝点6を挙げた。
「札幌さん相手に準備してきたこと、攻守の狙いを、ピッチに出ている11人が切らさずに最後まで体を張り、パワーをもって戦ってくれた。ホームで勝ちたいという気持ちを最後まで切らさず出してくれたことに感謝したいし、選手を誇りに思う」
試合後に片野坂監督は語った。ここ最近は強度を求め、選手たちに厳しい言葉を向けることが多かった指揮官。この日は選手たちが勇敢さを取り戻してプレーしたことに、安堵と喜びの表情を浮かべた。
次節の川崎F戦までは、Jリーグワールドチャレンジの開催により1週間の中断となる。心身を休め、次なる戦いに向けてまた準備しなくてはならない。