勝点1は拾えたが、J1で生き残るために何が必要かが浮き彫りになった一戦
「勝点1を拾ったゲーム」と、試合後に選手たちは口にした。明治安田J1第15節H名古屋戦は、前節のFC東京戦とはまた違った意味で相手との差を見せつけられた一戦となった。
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完全に主導権を握られた中で先制はしたが…
前線からプレスをかけてこちらの攻撃を阻みに来る名古屋との対戦に向け、チームは中断期間にマッチアップを想定してボールの動かし方を確認した。
代表招集のため岩田智輝が抜けた右CBには庄司朋乃也。左CBには三竿雄斗が入り、島川俊郎をアンカーに、怪我から復帰した前田凌佑と小塚和季がその両脇に並ぶトリプルボランチ。中盤に厚みを持たせて名古屋の流動的な攻撃に備えつつ、こちらも奪ったボールを動かしながらゴールに迫るプランを準備して臨んだ。
だが、スタイルとスタイルのぶつかり合いになるはずだった試合は、個々の力量差があらわになる形で完全に相手ペース。立ち上がりから名古屋の激しいプレスを受け、それを剥がすことができずにミスを連発。苦しくなって何度か前線へとフィードを送ったが、相手CBの落ち着いた対応によりチャンスは潰された。
19分にジョーのシュートを立て続けに跳ね返したあたりから、チームは落ち着きを取り戻す。23分には相手にタックルしてボールを奪った藤本憲明が逆サイドのオナイウ阿道に送り、オナイウがヘディングで狙ったが相手にコースも切られておりサイドネット。
そんな中で、先制点が生まれる。37分、鈴木義宜のパスを松本怜がワンタッチで流し、前田凌佑がドリブルで運ぶ。再び松本に展開し、松本のクロスはオナイウの頭上を越えたが、その奥に走りこんできた三竿がミドルシュート。ランゲラックがかき出そうとしたが、そのこぼれ球に詰めたオナイウが落ち着いて蹴り込んだ。
前半アディショナルタイムにはガブリエル・シャビエルに持ち上がられシュートを放たれるが、高木駿のビッグセーブでしのぎ1-0で折り返す。
後半はボールの動かし方を修正した名古屋
後半、名古屋はボールの受け方や動かし方を修正し、よりモビリティーを増してさらに主導権を握った。いいタイミングでスペースに下がって縦パスを受けるジョーのポストプレーも本領を発揮する。大分はそれを食い止めることができず、ラインが下がって、前半以上に流れは名古屋に傾いた。
52分に長谷川アーリアジャスールに代わってドリブラーの前田直輝が入ると、名古屋は攻守両面で活性化。早速その1分後に和泉竜司の仕掛けからGKとDFラインの間に鋭いグラウンダークロスを通され、ファーサイドにスライディングしてきた宮原和也に押し込まれて同点とされる。
名古屋がスペースでボールを受けながら分厚い攻撃を仕掛けてくるにつれ、試合はオープンな展開に。そのタイミングで片野坂知宏監督は61分、高山薫を高畑奎汰に交代。高畑は早速、攻撃的タスクをこなし好機を演出したが、いずれも得点には結びつかない。77分には前田凌佑を後藤優介に代えたが、パスやトラップの精度不足で、奪ったボールを攻撃に切り替えられずロストしてばかりの展開が続く。攻められ続ける中、人海戦術状態でゴール前で跳ね返し続け、高木の神懸かったセーブにも何度も救われた。
名古屋は82分にガブリエル・シャビエルを赤崎秀平に、87分に和泉を金井貢史に代えて大分の壁を打ち破りにかかるが、こちらも集中した守備でゴールを割らせない。大分が90+2分に小塚を小手川宏基に代えて両軍とも3枚のカードを使い切りながら、名古屋は押し込み、大分はカウンターでそれぞれにチャンスを築き、スタジアムは白熱したが、ゴールネットは揺れないまま、長いホイッスルを迎えた。
J2で通用した戦い方もJ1では通用しない
試合後、名古屋の風間八宏監督は「1点が足りない試合だった」と総括。「あれだけ相手を押し込んで中も崩せていたのに、そこで取りきらなければ」
大分にとっては、現実的に名古屋との力量差を見せつけられた展開の中で「よく1失点に抑えて勝点1を拾えた」というのが大勢の評価だろう。片野坂監督は、準備してきたポゼッションを試合で表現できなかったことに、大きな落胆や歯がゆさや反省を滲ませた。
「われわれは90分間、粘り強く守備をして勝点を取るチームを目指してはいない」という指揮官の言葉が、チームの進むべき道をよく表している。
究極のポゼッションスタイルを追求する名古屋に対して、J2で対戦していた頃は背後のスペースを突くカウンターで複数得点を挙げ、完勝した試合もあった。だが、J1ではそうはいかない。相手も攻守にレベルアップしており、この試合でも2枚のCBを中心に、どのポジションでも球際の強さやポジショニングにビルドアップを阻まれた。大分のビルドアップの特徴を研究され、特に高木が参加するボール回しに自由を与えないよう、名古屋の前線がつねにケアしていた。これでは相手を引き込めず、いい形で裏へのロングフィードを繰り出すこともできない。
そうなったときに、選手たちはその場で相手を見て判断しながら立ち位置を取りなおし、ボールの動かし方をアレンジしていかなくてはならないのだが、今節はそれができなかった。指揮官はテクニカルエリアから指示を送り続け、声を嗄らした。
高木は言う。「今日は自分たちの回しの意識。自分たち主導で回せていないから、結局どうしようかとなったときに前に入れて詰まって。FWに入れても潰される。もっと自分たち主導で回して、相手を動かすためのボール回しをしなくてはならない」
強豪を相手に勝点1を積み、連敗もストップしたが、課題ばかりが目立った試合。「J1で通用するサッカーを」とここまで積み上げてきたものを、このチームはさらに高めなくてはならない。